第45話「リズムの原点」
第45話です。
今回ははじめにスポットを当てた回になります。
バンドの中でもリズムを支える存在としての一面と、日常での姿を描いてみました。
少し雰囲気の違う回ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
朝の商店街は、すでに活気に満ちていた。
「いらっしゃい!今日はナスとトマト安いよ!」
はじめの声が通りに響く。威勢のいい声に、自然と人が集まる。
「兄ちゃん今日も元気だねぇ」
常連のおばちゃんが笑う。
「元気だけが取り柄ですから!」
「バンドやってるんだって?」
「やってますよ!売れたらここにも人いっぱい来ますよ」
「その前に野菜ちゃんと売りなさいよ」
「もちろん!」
笑いが広がる。
「これちょっと安くならない?」
「えーどうしよっかなぁ」
「お願いよ」
「じゃあまとめて買ってくれるなら少しだけ」
「ほんと?じゃあこれもこれも」
「毎度あり!」
「お兄ちゃん、それ値段違う」
隣から妹が指摘する。
「マジか、危ねぇ危ねぇ」
「適当すぎでしょ」
「ノリだよノリ」
店の奥から、ひょこっと顔を出す少年がいた。末っ子の弟、はやとだ。
「……なんでそんな売れるの?」
ぽつりと呟く。
「ん?何が?」
「普通の店と違う」
はじめは少し考えてから言う。
「楽しそうにやってるからじゃね?」
「それだけ?」
「それだけ」
ニヤッと笑う。
「音楽と一緒だよ。楽しそうなやつのほうが、人集まるだろ」
はやとは何も言わなかったが、少しだけ納得した顔をした。
昼過ぎ、店が落ち着いた頃。
「……ドラムってさ」
はやとがぽつりと言う。
「どうやったら上手くなるの?」
はじめの手が止まる。
「興味あんの?」
「ちょっとだけ」
「いいじゃん、やってみるか?」
「いいの?」
「いいに決まってんだろ」
その日の夕方、スタジオ。
「ここがドラム」
はやとは少し緊張した顔で座る。
「とりあえず叩いてみろ」
カン、カン。ぎこちない音が鳴る。
「力入りすぎ」
「うるさい」
「はは、最初はそんなもんだって」
そのとき、ドアが開いた。
「……あれ、何してんの?」
美月だった。
「あ、ちょうどいいとこ来たな。弟のはやと」
「へぇ」
美月がスタジオの中を覗く。
「ドラム好きなの?」
「いいじゃん」
軽く笑って、壁にもたれる。
「ドラムってさ、リズムなんだよ」と、はじめが言う。「バンドの土台だからな」
ドン、タン、ドン、タン。
「これがズレると全部ズレる。でもこれがちゃんとしてれば、全部まとまる」
「……かっけぇな」
はやとが小さく呟く。
「だろ?もう一回やってみろ」
少しだけ揃う。
「お、いいじゃん」
「……ほんと?」
「ほんとほんと」
その様子を見ていた美月が、ふっと言う。
「……じゃあさ、合わせてみる?」
ベースケースを開く。
はじめがニヤッとする。
「いいね」
アンプに繋ぐ音が響く。
「ほら、さっきのやつ叩いてみ」
はやとは少し戸惑いながらも叩く。
ドン、タン、ドン、タン。
そこに、美月のベースが重なる。
ブン、ブン、ブン……
一気に音が“音楽”になる。
「……すご」
思わず声が漏れる。
「これがリズム隊だよ」と、美月。
「お前がズレたら全部崩れる。でも逆に、お前がしっかりしてたら――」
少し強く弾く。
「全部、気持ちよくなる」
はやとがもう一度叩く。さっきより明らかに集中している。
「いいじゃん」と、はじめ。
「ちゃんと聴けてる」
「……楽しい」
ぽつりと呟く。
その一言に、はじめは小さく笑った。
――そうだよな。
最初は、それだけだった。
うまいとか、評価とか関係なくて、ただ音が重なるのが楽しかった。
「また来いよ」
「うん」
スタジオを出たあと、美月が言う。
「いいじゃん、あの子」
「だろ?」
「はじめに似てる」
「どこがだよ」
「音、好きそうな顔してる」
はじめは少しだけ笑った。
次の日、スタジオ。
ドラムの前に座り、スティックを握る。
ドン。
昨日の音を思い出す。ベースと重なったあの感覚。
「……基礎からだな」
もう一度叩く。今までより丁寧に、正確に。
音を“支える”意識で。
――もう一段、上へ。
はじめは静かに、しかし確実にリズムを刻み続けた。
第45話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回ははじめの過去や日常、そしてドラムに対する考え方を描きました。
普段は明るくムードメーカーな彼ですが、その裏にはしっかりとした土台や積み重ねがあります。
また、弟とのやり取りを通して、“音楽の原点”にも触れる回になっています。
こうした部分が、バンド全体の強さに繋がっていく大事な要素でもあります。
FirstDayの成長を、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしければ感想や評価もお待ちしております。




