第44話「動き出す舞台」
第44話です。
新たなステージとして、大きなイベントへの参加が決まったFirstDay。
これまでとは違う空気の中で、バンドとしての“選択”が問われることになります。
少しずつ動き出す大きな流れを、楽しんでいただけたら嬉しいです。
スタジオに、少しだけざわついた空気が流れていた。
「……で、そのイベントってなんだ?」
はじめが腕を組みながら言う。
「SHIBUYA VORTEX主催の特別イベント」と、れいじがスマホを見ながら答える。「全国からバンド呼ぶらしい」
「へぇ」と美月が覗き込む。「しかもこれ……審査員付きだね」
「審査員?」
ふたばが聞き返す。
「レコード会社の人間。複数社から来るらしい」
「……ガチじゃん」と、はじめが笑う。「めちゃくちゃチャンスじゃね?」
「だね」と美月も頷く。
ふたばは少しだけ息をのんだ。ただのライブじゃない。“見られる側”になるステージ。その言葉が頭の中で何度も反響する。
「どうする?」とはじめ。
れいじは少しだけ考えてから言った。
「……出る」
迷いはなかった。
「まあそうなるよな」と、はじめが笑う。
「面白そうだし」と美月も軽く笑う。
ふたばも小さく頷いた。怖さはある。でも、それ以上にやってみたい気持ちがあった。
数日後。スタジオのドアが開く。
「VORTEXのやつ、出るんだって?」
店長が顔を出した。
「はい」とれいじ。
「いいと思うよ。あそこ、なかなか出られる場所じゃないし」
いつも通りの落ち着いた口調だった。
「声かかったってことは、ちゃんと見られてるってことだと思うし」
ふたばの胸がじんわりと熱くなる。
「でも審査員付きってのがな」
はじめが言う。
「まあ、そういうのも経験だろ」と店長。
「変に気負わずやればいいんじゃないか」
「簡単に言いますね」
美月が笑う。
「簡単じゃないのはわかってるよ」
店長も少し笑った。
そのとき、れいじがぽつりと呟いた。
「……なんか」
「ん?」
はじめが振り向く。
「いや、なんでもない」
それ以上は言わなかったが、どこか引っかかっているような顔だった。
「で、形式は?」と美月。
「各バンド2曲」
「少なっ」
はじめが言う。
「その分、一発勝負って感じだね」
美月が腕を組む。
「選曲ミスったら終わるやつだな」
空気が少し締まる。
「……何やる?」とはじめ。
少しの沈黙。
「攻めるか、安定か」と美月。
「ライブ映えなら新曲もありだよな」と、はじめ。
「でも、初見の人多いだろうし」と美月。「わかりやすさも大事」
れいじは黙って考えていた。
「……ふたばの曲、いいと思うけどな」
はじめが言った。
「え?」
「この前のやつ。「この声、届くまで」、普通に刺さる」
「うん」と美月も頷く。
「ちゃんと“届く曲”って感じする」
ふたばは少し戸惑う。
「……私のでいいの?」
その言葉に、れいじが顔を上げる。
「いいと思う」
短く、でもはっきりと。
「今回、そこだろ」
「伝わるかどうか」
ふたばの胸が少しだけ熱くなる。
「もう一曲は?」
はじめが聞く。
「アップテンポのやつだな」
れいじが言う。
「最初で掴んで、最後で残す」
「構成いいね」と美月。
「王道だけど一番強い」
「じゃあそれで決まりだな」
はじめが笑う。
「うわ、なんか一気に現実味出てきた」
「練習量、増えるな」
「当たり前だろ」
美月が言う。
「……やるか」
れいじが静かに言った。
空気が変わる。
ただのライブじゃない。
“選ばれる側”になるステージ。
その重さを、全員が感じていた。
「Luminousも出るらしいよ」
店長が何気なく言った。
一瞬、空気が止まる。
「……マジか」
美月が小さく笑う。
「いいじゃん」
はじめが言う。
「ちょうどいい」
ふたばの胸がドクンと鳴る。
あのステージ。
あの背中。
今度は同じ場所で。
「……やるよ」
静かに、でも確かな声だった。
舞台は、確実に動き出していた。
第44話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はイベント参加の決定と、選曲という重要なポイントを描きました。
たった2曲で勝負するという状況は、バンドにとって非常に大きな意味を持っています。
また、ふたばの曲が選ばれたこともひとつの変化です。
自信と不安が入り混じる中で、それでも前に進もうとする姿が、少しずつ形になってきています。
そして、Luminousの存在。
再び同じステージに立つことになることで、物語はさらに熱を帯びていきます。




