第42話「帰る場所」
第42話です。
今回は少し日常回。
ライブや活動の合間の、FirstDayの「普段の一面」を描いています。
れいじの家族や、バンドメンバーとの距離感も含めて、
少し空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。
夕方のコンビニは、戦場だった。
「いらっしゃいませー!袋どうしますかー!」
レジ前には列。次から次へと客が来る。
その中で、れいじはぎこちなくバーコードを通していた。
「……えっと、これ温めますか」
「さっき言いましたよ」
「あ、すみません」
後ろから、彩乃の冷静な声が飛ぶ。
「お兄ちゃん、ちゃんと聞いて」
「聞いてる」
「聞いてないから同じこと言わせてるんだけど」
淡々としているが手は早い。隣のレジで次々と客をさばいていく。
「おにぎりの場所もまだ覚えてないの?」
「覚えてる」
「さっき探してたよね」
「……ちょっとだけ」
「致命的」
容赦がない。
本来なら、この時間に母はいない。
夜勤がメインで、夕方のこの時間帯は基本アルバイト任せだ。
――のはずだった。
「ほられいじ、次並んでるよ!」
奥から声が飛ぶ。母、登美子。
今日はアルバイトが急に入れなくなり、急遽シフトに入っている。
そして同時に、れいじも強制的に駆り出された。
「はいはい」
なんとかレジをこなし、ようやく波が落ち着く。
「……疲れた」
「そりゃそうでしょ」
彩乃が言う。
「普段やってないんだから」
「やってる」
「やばい時だけでしょ」
「……まあ」
登美子がペットボトルを差し出す。
「はい、お疲れ」
「ありがとう」
一口飲んで、息をつく。
「バンドはどうなの?」
さらっと聞いてくる。
「……まあまあ」
「まあまあって顔じゃないけどね」
見透かされている。
「楽しいの?」
「……うん」
少しだけ間があった。でも、その一言はちゃんと本音だった。
「どんな子たちなの?」
「え」
「メンバー」
少し考える。
「……ボーカルの子は、頑張り屋で」
「ふーん」
「ベースは、ちょっと癖あるけど、めちゃくちゃ上手い」
「へぇ」
「ドラムは……うるさい」
「雑だね」
彩乃が横から言う。
「でも、いいやつ」
自然とそう言っていた。
「いい仲間じゃない」
登美子が微笑む。
そのとき、店のドアが開いた。
「いらっしゃいませー」
反射的に声を出す。
「……あ、れいじ」
美月だった。
「なんか今日いるじゃん」
「駆り出された」
「ウケる」
その後ろから、ふたばとはじめも入ってくる。
「ここ、たまに来ますけど……」
ふたばが言う。
「れいじさんいるの初めて見ました」
「俺も普段いない」
「レアじゃん!」
はじめが笑う。
「いらっしゃい」
登美子が声をかける。
「あれ、美月ちゃんじゃない」
「お久しぶりです」
自然なやり取り。
すでに面識がある距離感。
「この子がボーカルの子?」
登美子がふたばを見る。
「……うん」
「こんにちは」
ふたばが少し緊張しながら頭を下げる。
「かわいいじゃない」
「ちょっと母さん」
「え、あ、いや……!」
ふたばの顔が一気に赤くなる。
「で、この元気な子がドラム?」
登美子の視線がはじめに向く。
「あ、初めまして!はじめです!」
元気よく頭を下げる。
「やっと会えました!」
「話は聞いてるわ」
登美子がくすっと笑う。
「うるさい子なんでしょ?」
「ちょっと!」
はじめが即反応する。
「否定できないだろ」
れいじがぼそっと言う。
「ひどくない!?」
彩乃が少しだけ口元を緩める。
「想像通り」
「え、妹さん!?」
「彩乃」
「よろしくお願いします!」
「元気だね」
「よく言われます!」
店内に自然と笑いが広がる。
「差し入れ買いに来たんです」
ふたばが言う。
「えらいね」
登美子が優しく言う。
「この子、ちゃんとやってるでしょ?」
れいじを見る。
「……うん」
ふたばが答える。
「すごい頑張ってます」
その言葉に、れいじは少しだけ視線を逸らした。
会計を終え、外に出る。
「なんかいいな、ああいうの」
はじめが言う。
「うん」
ふたばも頷く。
「ちゃんと“帰る場所”ある感じ」
美月がぼそっと言う。
れいじは少し遅れて外に出る。
「また来ますね!」
ふたばが笑う。
「いつでも来いよ」
自然に言葉が出る。
店の中に戻ると、登美子がぽつりと言った。
「いい仲間できたね」
れいじは少しだけ笑った。
「……うん」
帰る場所がある。
そして、進む場所もある。
その両方が、今の自分を支えていた。
第42話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はコンビニを舞台に、れいじの日常と家族、そしてメンバーとの関係を描きました。
普段あまり見えない「生活の一部」を入れることで、キャラクターの距離感や温度感が少しでも伝わっていれば嬉しいです。
また、ふたばたちにとっても、れいじの“帰る場所”に触れることで、
バンドの関係がより深まっていくきっかけになっています。
こうした何気ない時間も、確実に次へと繋がっていきます。
次回からはまた動きのある展開へ。
FirstDayの進んでいく先を、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしければ感想や評価もお待ちしております。




