第41話「その一歩先へ」
第41話です。
ツアーを終え、関東でのライブ活動がスタート。
少しずつ手応えを感じながらも、まだまだ先へ進むための動きが続きます。
そして、新たな再会も――。
FirstDayの変化と広がりを感じていただけたら嬉しいです。
東京に戻ってきてから、数日が経った。スタジオのテーブルの上には、積み上げられたCDの箱。そのいくつかは中身が減っている。
「……300いったか」
はじめが箱を覗き込みながら言う。
「4ヶ所でそれなら悪くないな」
れいじが静かに答える。
「思ってたより全然いいよね」
美月も腕を組みながら頷く。
ふたばはその数字を頭の中で繰り返していた。300枚。誰かの手に渡った数。自分たちの音を持ち帰ってくれた人の数。まだ大きな数字じゃないかもしれない。でも確実に増えている。
「とはいえ」
はじめが箱を軽く叩く。
「まだ700枚あるんだよな」
「現実だね」
美月が笑う。
れいじが少し考えてから言った。
「関東回ろう」
「関東?」
「近場のライブハウス回る。数こなす」
「いいね」
はじめがすぐに乗る。
「移動楽だし回数増やせる」
「地道だけど一番効くやつだね」
美月も頷く。
ふたばは小さく息を吸った。またライブができる。また誰かに届けられる。その実感が少しずつ現実になっていく。
数日後。都内のライブハウス。規模はそこまで大きくないが、その分客席との距離が近い。
「こういう箱もいいよな」
はじめが言う。
「顔見えるし」
「うん」
ふたばも頷く。誤魔化しが効かない分、ちゃんと届いたかどうかがすぐにわかる場所だ。
リハーサルを終え、機材を整理していると声がした。
「すみません!」
振り返ると白石紬が立っていた。
「……あ!」
「また来ちゃいました!」
明るく笑うその顔は変わらない。でも前とは少し空気が違う。
「……東京じゃん」
はじめが言う。
「はい!」
「まさか追っかけてきた?」
「違いますよ!」
慌てて手を振る。
「東京に引っ越してきたんです、仕事の関係で」
「へぇ」
美月が興味深そうに見る。
「で、たまたまライブ見つけて来ました」
「それたまたまじゃないだろ」
はじめが笑う。
「ちょっとだけです!」
紬も笑いながら返す。
「ありがとうございます」
ふたばが言う。
「また来てくれて」
「いえ、普通に来たかっただけです」
その言葉に、ふたばの胸が少しだけ温かくなる。
紬は周りを見渡して言った。
「準備って大変そうですね」
「まあな」
はじめが答える。
「細かいこと結構多い」
「物販もあるしね」
美月が続ける。
紬は少し考えてから、遠慮がちに口を開いた。
「あの、何か手伝えることあったら言ってください」
「え?」
「邪魔じゃなければでいいんですけど」
「全然いいよ」
美月が即答する。
「むしろ助かる」
「マジで?」
はじめが笑う。
「じゃあ今日からスタッフな」
「軽いな!」
美月がツッコむ。
紬も少し安心したように笑った。
「できることだけでいいので」
「じゃあ物販ちょっと見てもらえる?」
「はい!」
返事が早い。その素直さに、はじめが感心したように頷く。
「いいね、即戦力感ある」
「プレッシャーかけないでください!」
場が少し笑いに包まれる。
ライブが始まる。ステージに立つ。客席を見ると紬が後ろの方でしっかりこちらを見ていた。その視線が、なぜか心強い。
音が鳴る。歌う。前よりも自然に、前よりも強く。関東のライブは派手さはないが、その分しっかり聞いている空気がある。届けば反応がはっきり返ってくる。
新曲に入る。この瞬間を鳴らせ。ふたばは一瞬だけ息を整えて歌い出す。自分の言葉。今の自分の気持ち。余計なことは考えない。ただ届ける。
客席の何人かの表情が変わるのが見えた。ちゃんと届いている。その感覚が、確信に変わる。
曲が終わる。拍手が上がる。距離が近い分、その熱が直接伝わる。
ステージを降りると紬が駆け寄ってきた。
「お疲れ様です!」
「どうだった?」
はじめが聞く。
「いや、私が言うのもあれですけど」
少し考えてから言う。
「前よりまとまってました」
「お、わかってるじゃん」
美月が笑う。
「ほんとですか?」
「うん、普通に的確」
「すげぇな」
はじめが言う。
「普通に戦力じゃん」
「いやいや!」
紬が慌てる。
その様子に自然と笑いが起きる。気づけば空気がかなり柔らかくなっていた。
外に出ると夜風が心地いい。
「また来ますね!」
紬が手を振る。
「いつでも来いよ」
はじめが言う。
「手伝いもします!」
「助かる」
美月が笑う。
ふたばはそのやり取りを少し離れて見ていた。ただのファンだったはずの存在が、少しずつ距離を縮めている。無理にじゃない。自然に。
「……いいね」
小さく呟く。
音は広がっていく。人も増えていく。その中で、新しい関係が少しずつ形になっていく。
その一歩は、確かに次の景色へと繋がっていた。
第41話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はツアーの成果と、関東での新たな動きを描きました。
CDの売上やライブの積み重ねによって、少しずつ「広がり」が見えてきています。
そして、紬の再登場。
ただのファンだった存在が、少しずつ距離を縮め、バンドの近くに関わり始めました。
まだ小さな変化ではありますが、この関係が今後どう変わっていくのか――
ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。
次回はさらに関係性が動く展開へ。
FirstDayの新しい一歩をお楽しみに。
よろしければ感想や評価もお待ちしております。




