第39話「この瞬間を鳴らせ」
第39話です。
名古屋での対バンライブ。
少しずつ経験を重ねてきたFirstDayですが、ライブは何が起こるかわかりません。
それでも止まらずに音を鳴らし続ける――
そんな“ライブのリアル”を感じていただけたら嬉しいです。
名古屋へ向かう車の中。
「やっぱ近いな」
はじめがハンドルを握りながら言う。
「広島に比べたら楽だな」
助手席のれいじも頷く。
後ろでは、美月とふたばが並んで座っていた。
「でもさ、遠征って感じはあるよね」
「うん」
ふたばも窓の外を見ながら答える。
流れる景色。
少しずつ変わる街並み。
(……ツアーしてるんだ)
そんな実感が、じわじわと湧いてくる。
予定より少し早く名古屋に到着した。
「せっかくだし、飯行くか」
はじめが言う。
「いいね」
美月が乗る。
「名古屋といえば?」
「味噌カツでしょ」
「ひつまぶしも捨てがたい」
「全部食えばいいだろ」
「いやそれは無理」
そんなやり取りをしながら、4人で店に入る。
「うま……」
ふたばが思わず呟く。
「これは当たりだな」
「遠征の楽しみ増えたな」
自然と笑いが増える。
少し前まで、こんな時間はなかった。
バンド。
音楽。
全部がつながっている。
夕方。
ライブハウス。
リハーサルを終え、準備を整える。
「すみません!」
聞き覚えのある声。
振り返る。
「……あ!」
白石紬。
「また来ちゃいました!」
笑顔。
そして、その後ろにはもう一人。
「友達連れてきました!」
「え、マジで?」
はじめが驚く。
「ありがとうございます」
ふたばが頭を下げる。
「新曲、配信されてましたよね?」
「……あ、はい」
「ちゃんと聞きました!」
キラキラした目。
「めっちゃ好きです」
その言葉に、ふたばの胸が熱くなる。
「今日、最後にやるから」
思わず言葉が出る。
「楽しみにしてて」
「はい!」
紬は嬉しそうに頷いた。
照明が落ちる。
ライブが始まる。
1曲目。
いい入り。
体が自然に動く。
2曲目。
流れもいい。
客の反応も、確実に上がっている。
そして――
3曲目。
その瞬間。
音が、消えた。
「……っ?」
ギターの音が、出ない。
一瞬、空気が止まる。
ざわつく客席。
(どうしよう――)
そのとき。
ドン、ドン、ドン――
はじめのドラムが鳴る。
止めない。
リズムを刻み続ける。
美月のベースも乗る。
シンプルなグルーヴ。
れいじがすぐにケーブルを差し替える。
「ふたば!」
一瞬だけ目が合う。
(……いける)
マイクを握る。
音がなくても。
声は出せる。
「……っ」
息を吸う。
そのまま、歌う。
アカペラ。
少し震える声。
でも。
止めない。
客席が静まる。
聞いている。
ちゃんと。
その瞬間。
ギターが戻る。
音が一気に重なる。
ドンと広がる。
爆発するように。
そのまま、曲を最後まで走り切る。
拍手。
さっきまでとは違う。
熱を持った拍手。
ふたばは、少しだけ笑った。
(……いける)
怖くない。
もう止まらない。
「最後の曲いきます!」
マイクを握る。
「新曲です!」
客席がざわつく。
イントロ。
アップテンポ。
体が自然に動く。
歌い出す。
鳴り止まない鼓動 胸の奥で
ずっと探してた この感覚を
声が、自然に出る。
怖くない。
今なら言える。
この瞬間を鳴らせ
今しかないこの音を
客席を見る。
紬がいる。
笑っている。
友達と一緒に、楽しそうに。
届いてる。
ちゃんと。
全部ぶつければいい
気持ちを乗せる。
全部。
迷いなんて、もうない。
曲が終わる。
一瞬の静寂。
そして――
大きな歓声。
拍手。
ふたばは息を吐く。
胸が熱い。
震えている。
でも。
笑っていた。
「……やば」
はじめが言う。
「今日、過去一じゃね?」
「だね」
美月も頷く。
れいじがふたばを見る。
一瞬。
ニヤッと笑う。
「……いいじゃん」
その一言。
全部報われた気がした。
ライブは、生きている。
止まることなんてない。
何があっても。
鳴らし続ける。
その音は、確かに“誰かの人生”を動かし始めていた。
第39話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回はライブ中のトラブルという、バンドにとって避けられない出来事を描きました。
その中で止まらずに演奏し続ける姿、そしてふたばが自分の声で繋いだ瞬間は、FirstDayが一歩成長した証でもあります。
そして、新曲「この瞬間を鳴らせ」。
ふたば自身の言葉で紡がれたこの曲が、ライブの中でどう響いたのかを感じていただけていたら嬉しいです。
紬の存在も含め、少しずつ“誰かに届くバンド”になってきました。
ここからさらにステージは広がっていきます。
次回は大阪編。
また違った空気の中で、どんなライブになるのかお楽しみに。
よろしければ感想や評価もお待ちしております。




