第38話「その先へ進むために」
第38話です。
ツアーを終え、一度東京へ戻ったFirstDay。
手応えとともに、少しずつ現実も見えてきます。
ここから先へ進むための準備回。
それぞれの変化にも注目していただけたら嬉しいです。
東京に戻ってきた。
見慣れた街、見慣れたビル。
れいじのビルの前で、ふたばは少しだけ足を止めた。
地下のライブハウス、隣のスタジオ。
変わらないはずの場所なのに、ほんの少しだけ違って見える。
(……なんか、違う)
自分が少しだけ変わった気がした。
「帰ってきたなー!」
はじめが大きく伸びをする。
「いや、2日だけどな」
美月が笑う。
「でもさ、なんか違うだろ?」
「まあね」
ふたばも小さく頷いた。
「お疲れ」
店長が声をかける。
「どうだった?」
「いい感じでした。CDも結構出ました」
「どれくらい?」
「100枚ちょいです」
一瞬、店長が黙る。
「……いい数字だな」
静かに、でも確かに評価する声だった。
「初動でそれなら上出来だ」
「マジで?」
はじめが食いつく。
「思ったより売れたね」
美月も頷く。
100枚。
ふたばはその数字を頭の中で繰り返す。
100人に届いた。
その事実だけで、胸がじんわりと熱くなる。
「……でもな」
店長の声が少しだけ低くなる。
空気が、静かに引き締まる。
「ここから先は、もう“なんとなく”じゃ続かない」
「……」
「金も時間も、ちゃんとかかる」
「遠征も制作も、全部な」
一拍おいて、続ける。
「それでもやるなら――いい」
視線が、まっすぐれいじに向く。
「今度は、最後までやれよ」
静かだけど、芯のある言葉だった。
「……やります」
れいじが答える。
迷いはない。
「最初から、そのつもりです」
店長は小さく頷いた。
「なら大丈夫だな」
「いやでもさ!」
はじめが空気を戻すように言う。
「100枚は普通に嬉しいだろ!」
「それな」
美月も笑う。
少しだけ空気が軽くなる。
ふたばも小さく笑った。
嬉しい。
でも、それだけじゃない。
ここからが、本当のスタート。
数日後。
スタジオ。
「新曲いくぞ」
れいじがギターを鳴らす。
イントロが流れる。
少し雰囲気が変わった。
でも、ちゃんと“れいじの曲”。
「いいね」
美月が頷く。
「ちょっと変えてきたな」
「だな」
はじめも同意する。
ふたばはじっと聞く。
この曲に言葉を乗せるのは、自分だ。
「ふたば、歌詞頼む」
「……はい」
ノートを開く。
ペンを持つ。
書く。
止まる。
消す。
また書く。
違う。
消す。
ページが少しずつ汚れていく。
(なんか……薄い)
頭では浮かぶのに、言葉にすると軽くなる。
(私、何もないじゃん……)
手が止まる。
悔しい。
歌いたい気持ちはあるのに、形にできない。
「どうした」
れいじが覗き込む。
「……書けなくて」
「見せろ」
ノートを見て、少しだけ黙る。
「……違うな」
「……」
「お前、昨日何感じた?」
「え……」
「ライブだよ」
一拍。
「何思った?」
思い出す。
あの空気。
あの拍手。
あの女の子の言葉。
「……届いたって」
れいじが小さく頷く。
「それだろ」
ふたばは顔を上げる。
「それ書けよ」
優しく、でもはっきりと言う。
「上手くやろうとすんな」
「お前の言葉でいい」
「そっちの方が、ちゃんと届く」
胸に、すっと入ってくる。
難しく考えすぎていた。
感じたことを、そのまま。
「……はい」
もう一度ペンを持つ。
今度は、少しだけ迷いがない。
そのとき、スマホが震える。
白石紬からのメッセージ。
『昨日の歌、元気出ました』
その一文に、手が止まる。
短いのに、全部詰まっている。
届いている。
ちゃんと、誰かに。
ノートを見る。
ペンを走らせる。
今度は、止まらない。
来週は名古屋。
そして大阪。
少しずつ広がっていくステージ。
でも、怖くない。
自分の言葉で、ちゃんと届くと知ったから。
その一歩は、確かに“本気の場所”へ踏み出していた。
第38話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、これまでの勢いに加えて「現実」と向き合う回になりました。
CDの売上やツアーの手応えは確かにありましたが、それだけでは続けていけないという事実も同時に突きつけられています。
その中で、れいじの覚悟、そしてふたばの作詞への挑戦が動き出しました。
まだ不器用でも、自分の言葉で伝えようとする姿は、これからの成長に繋がっていくはずです。
そして、紬の存在。
小さな出会いが、どんな未来に繋がるのか――ぜひ今後も見守っていただけたら嬉しいです。




