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第37話「届いた証」

第37話です。


ツアー2日目、福岡でのライブ。

昨日の経験を経て、FirstDayがどんなステージを見せるのか――。


そして、新たな出会いも生まれる回になっています。

ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。

福岡のライブハウス。


 開場前の空気は、独特の緊張感に包まれていた。


 機材の最終チェックを終え、ステージ裏で一息つく。


「なんかさ」


 はじめがストレッチをしながら言う。


「昨日より余裕あるよな」


「まあな」


 れいじが短く答える。


「流れは掴めてきた」


「いい感じだよね」


 美月も頷く。


 ふたばは、ステージの方をじっと見ていた。


 まだ人の入っていない客席。


 でも、もうすぐそこに人が入る。


 そして、自分はまた歌う。


(……大丈夫)


 自然とそう思えた。


 


「すみません!」


 


 そのとき、声がかかる。


 


 振り返ると、一人の女の子が立っていた。


 少し息を切らしている。


 でも、その目はまっすぐだった。


 


「あの……FirstDayさんですよね?」


 


「はい」


 れいじが答える。


 


「あの、私……昨日、広島でライブ見て……」


 


 その一言で、空気が少し変わる。


 


「すごく良くて……!」


 


 迷いのない声。


 


「それで、今日も来ちゃいました」


 


 少し照れながら笑う。


 


「……え?」


 はじめが思わず声を出す。


「マジで?」


 


「はい」


 


「すご」


 美月が笑う。


 


「ありがとうございます」


 ふたばは思わず言った。


 


 その子は嬉しそうに頷く。


 


「あと……」


 


 バッグを開ける。


 


「昨日、CD買えなかったので……」


 


「あるよ」


 れいじが言う。


 


 はじめがすぐにCDを取り出す。


 


「はいどうぞ」


 


「ありがとうございます」


 


 その子は両手で大事そうに受け取る。


 


 少しだけ見つめる。


 


 まるで宝物みたいに。


 


 


「……あの」


 


 その子が、ふたばを見る。


 


「昨日の最後の曲、すごく好きです」


 


「……」


 


「なんか……まっすぐで」


 


 ふたばの胸が、少しだけ強く鳴る。


 


「ちゃんと届いてきて……」


 


「……ありがとうございます」


 


 やっと、それだけ言えた。


 


 でも、その言葉はしっかりと残る。


 


「応援してます」


 


 その一言。


 


 軽くない。


 


 ちゃんと重さがあった。


 


 


「今日も楽しみにしてます!」


 


 明るく言って、その子は去っていく。


 


 


「すげぇな」


 はじめが言う。


 


「昨日見て今日来るって」


 


「行動力すごいよね」


 美月も頷く。


 


「でも、わかる気もする」


 


「え?」


 


「昨日のライブなら」


 


「……」


 


 


 ふたばは、さっきの言葉を思い出していた。


 


 まっすぐで。


 


 ちゃんと届いていた。


 


 


 ルナの言葉も思い出す。


 


 まだいけるでしょ。


 


 


 違う方向からの言葉。


 


 でも、どちらも本物だった。


 


 


「……よし」


 


 小さく呟く。


 


 


 もっと上にいく。


 


 もっと届ける。


 


 


「行くぞ」


 


 れいじの声。


 


 


「はい!」


 


 


 照明が落ちる。


 


 ざわめきが広がる。


 


 客席に人が入っている。


 


 さっきの子の姿も、見えた気がした。


 


 


 イントロが流れる。


 


 はじめのドラム。


 


 美月のベース。


 


 れいじのギター。


 


 


 音が重なる。


 


 


 ふたばはマイクを握る。


 


 


 歌い出す。


 


 


 声が出る。


 


 昨日よりも、自然に。


 


 力まず。


 


 でも、しっかりと。


 


 


 音に乗る。


 


 感情も乗る。


 


 


 客席を見る。


 


 ちゃんと聞いている。


 


 


 伝わっている。


 


 


 それがわかる。


 


 


 曲が進む。


 


 


 体が動く。


 


 音に合わせて、自然に。


 


 


 バンドが一つになる。


 


 


 気持ちが揃う。


 


 


 前よりも、確実に。


 


 


 成長している。


 


 


 曲が終わる。


 


 


 拍手。


 


 


 昨日より大きい。


 


 


「いいじゃん」


 


 はじめが小さく言う。


 


 


 そのまま次の曲へ。


 


 


 流れができている。


 


 


 止まらない。


 


 


 そして――


 


 最後の曲。


 


 


 れいじが一瞬だけふたばを見る。


 


 


 頷く。


 


 


 ふたばも頷く。


 


 


 イントロが流れる。


 


 


 今日が吉日。


 


 


 この曲。


 


 すべての始まりの曲。


 


 


 ふたばは息を吸う。


 


 


 歌い出す。


 


 


 今さらなんてあきらめてしまう


 気づくのが遅すぎたと思い込む


 


 


 言葉が、まっすぐに出る。


 


 


 思い立った時が 吉日なんだ


 今 試される時が来た


 


 


 自分の気持ち。


 


 そのまま乗せる。


 


 


 たまたま出会った何かに


 僕はドキドキワクワクしてる


 


 


 目の前の景色。


 


 この瞬間。


 


 


 本気でやりたいと思えた


 その瞬間が始まりさ


 


 


 全部、ここにある。


 


 


 声が届く。


 


 感情が届く。


 


 


 客席の空気が変わる。


 


 


 集中している。


 


 


 最後まで、一気に走り切る。


 


 


 音が止まる。


 


 


 一瞬の静寂。


 


 


 そのあと。


 


 


 大きな拍手。


 


 


 歓声。


 


 


 確かに届いた。


 


 


 さっきの女の子が、手を叩いている。


 


 


 笑っている。


 


 


「……」


 


 


 ふたばは、小さく息を吐く。


 


 


 胸の奥が熱い。


 


 


 伝わった。


 


 


 ちゃんと。


 


 


 誰かに。


 


 


 音が、人に届いた。


 


 


 その実感。


 


 


 それがすべてだった。


 


 


 ステージを降りる。


 


 


 足が少し震えている。


 


 


 でも。


 


 笑っていた。


 


 


「最高だったな」


 


 はじめが言う。


 


 


「うん」


 


 美月も頷く。


 


 


「……よかった」


 


 


 ふたばは、小さく呟く。


 


 


 これが。


 


 


 今の自分たち。


 


 


 そして――


 


 


 ここから先へ。


 


 


 まだまだいける。


 


 


 もっと上へ。


 


 


 その確信があった。


 


 


 その音は、確かに誰かの心を動かしていた。

第37話を読んでいただき、ありがとうございます。


ついに「音が届いた」という実感がはっきりと描かれた回になりました。

昨日の広島から繋がる形で、実際に足を運んでくれたファンの存在は、ふたばにとってもバンドにとっても大きな意味を持っています。


そして、ラストの「今日が吉日」。

この曲が物語の軸として、少しずつ広がっていく感覚を感じていただけたら嬉しいです。


ここからさらにツアーは続き、出会いも経験も増えていきます。

FirstDayがどこまで進んでいくのか、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。


よろしければ感想や評価もお待ちしております。

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