第33話「走り出す準備」
第33話です。
1週間の練習を経て、いよいよ本格的なレコーディングへ。
それぞれの成長が見える回になっています。
そして、物語は次のステージへ――
ぜひ最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。
レコーディング当日。
一週間前とは、明らかに空気が違った。
「……来たな」
はじめが笑う。
「なんか今日、いい感じじゃね?」
「わかる」
美月も頷く。
「無駄な力抜けてる」
れいじは何も言わない。
でも。
その表情は少しだけ鋭い。
全員、同じ方向を向いている。
(……やる)
ふたばはマイクの前に立つ。
前よりも、自然に。
怖さはある。
でも。
それ以上に、やりたい気持ちが強い。
「いくぞ」
れいじの声。
イントロが流れる。
タイミング。
入る。
――声が出る。
前よりも、しっかりと。
無理に作らない。
そのまま出す。
自分の声。
音に乗る。
ちゃんと乗る。
(……いける)
確信に変わる。
演奏も違う。
はじめのドラムが安定している。
美月のベースが芯を作る。
れいじのギターが、全体を引っ張る。
そして――
全部が噛み合う。
バンドの音。
しっかりと一つになっている。
曲が終わる。
静か。
「……いいじゃん」
はじめが言う。
「今のかなり良くね?」
「うん」
美月も頷く。
「前より全然いい」
ふたばは息を整える。
まだ少しだけ緊張している。
でも。
確かな手応えがあった。
「……」
れいじは何も言わない。
少しだけ考える。
そして。
「もう一回」
短く言う。
「……はい」
全員すぐに動く。
さっきよりも、さらに良くなる。
細かいところを詰める。
何度も繰り返す。
でも。
苦じゃない。
むしろ楽しい。
音が、どんどん良くなっていくのがわかる。
数時間後。
「……こんなもんだな」
れいじが言う。
「OK」
その一言。
「……っ」
ふたばは思わず顔を上げる。
「やったな!」
はじめが笑う。
「とりあえず形にはなったな」
「うん」
美月も小さく笑う。
「悪くない」
ふたばは、何も言えなかった。
ただ。
胸がいっぱいだった。
ちゃんと残った。
自分たちの音が。
この一週間。
やってきたことが。
全部、ここにある。
「……聞くか」
れいじが言う。
スピーカーから流れる音。
FirstDayのミニアルバム。
五曲。
一曲目から最後まで。
全部聞く。
誰も喋らない。
ただ、聞く。
終わる。
静寂。
「……いいじゃん」
はじめが言う。
「ちゃんと作品になってる」
「うん」
美月も頷く。
「出せる」
れいじは、少しだけ笑う。
ほんの少しだけ。
「じゃあ」
一拍。
「次だな」
「次?」
「対バンツアー」
その言葉。
一瞬、全員止まる。
「……ツアー?」
ふたばが聞き返す。
「ああ」
れいじは普通に言う。
「これ持って回る」
「……マジで?」
はじめが笑う。
「面白そうじゃん」
「いろんなバンド見れるしね」
美月も乗る。
「勉強になる」
「交流も増える」
れいじが続ける。
「やる価値ある」
「……」
ふたばは少しだけ驚く。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
ワクワクしていた。
「で?」
はじめが聞く。
「どうやって回るんだよ」
「車」
れいじが即答する。
「……車?」
「買った」
「は?」
全員固まる。
「ハイエース」
さらっと言う。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
「早すぎだろ!」
はじめがツッコむ。
「準備良すぎ」
「いや絶対最初から考えてたでしょ」
美月も呆れる。
「……まあな」
少しだけ認める。
「……」
ふたばは、思わず笑ってしまう。
この人は、やっぱりすごい。
でも。
だからこそ。
ついていきたいと思う。
「やるぞ」
れいじが言う。
「次は、もっと上」
その言葉。
自然と、全員が頷く。
迷いはない。
やることは決まっている。
ここで終わりじゃない。
ここから。
もっと広い場所へ。
もっと多くの人へ。
自分たちの音を届ける。
そのために。
走る。
もう止まらない。
音が形になった。
次は、それを広げる番だ。
ふたばは、少しだけ空を見上げる。
胸の奥が熱い。
怖さよりも。
楽しさが勝っている。
その感覚。
それがすべてだった。
バンドは、次のステージへ進む。
第33話を読んでいただき、ありがとうございます。
前回見えた課題を乗り越え、ついに音が“形”になりました。
それぞれの努力がしっかり結果として表れた回になっていれば嬉しいです。
そして、次のステージは対バンツアー。
音を届ける場所が広がり、出会いや刺激も増えていきます。
ここから物語はさらにスピードを上げて進んでいきますので、ぜひ引き続き見守っていただけたら嬉しいです。
よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。
引き続きよろしくお願いします。




