第31話「まだ、良くなる」
第31話です。
新曲が揃い、いよいよ形になり始めたFirstDay。
今回はレコーディングに向けた第一歩の回です。
今の自分たちの音と向き合う時間を、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
スタジオ。
いつもより少しだけ、空気が違った。
「……できたな」
れいじが言う。
テーブルの上には、簡単なメモ。
新曲、二曲。
「マジで?」
はじめが食いつく。
「早くね?」
「まあ、前からあったやつをまとめた感じだし」
れいじは軽く言う。
「美月のも含めて……これで五曲か」
「おお」
はじめが指を折る。
「アルバムいけるじゃん」
「ミニな」
れいじが訂正する。
「インディーズで出す」
さらっと言う。
でも。
その言葉の重みは、全員に伝わる。
「……マジか」
はじめが笑う。
「急に現実感出てきたな」
「いいじゃん」
美月も頷く。
「どうせやるなら形にしたいし」
ふたばは、その会話を聞いていた。
まだ少し実感がない。
でも。
胸が少しだけ高鳴る。
(……本当に、出すんだ)
バンドが、形になる。
その未来が、見え始めていた。
数日後。
地下スタジオ。
簡易的な録音機材が用意されていた。
「今日は軽く録るだけ」
れいじが言う。
「本番じゃない」
「慣れるためってやつ?」
はじめが聞く。
「ああ」
「あと」
一拍。
「今の自分たちの音、ちゃんと聞け」
その一言。
少しだけ空気が締まる。
「……はい」
ふたばも頷く。
順番に録っていく。
まずは演奏。
ドラム、ベース、ギター。
合わせていく。
いつも通り。
でも。
どこか違う。
“残る音”を意識するだけで、少し変わる。
「……こんなもんか」
れいじが言う。
「じゃあ、聞くぞ」
スピーカーから音が流れる。
FirstDayの音。
でも――
(……あれ)
ふたばは思う。
何か違う。
ライブのときの感じと。
勢いがない。
まとまってるのに。
刺さらない。
「……どう思う?」
れいじが聞く。
少し沈黙。
「……なんか」
はじめが言う。
「普通だな」
「それな」
美月も頷く。
「悪くはないけど」
「足りない」
その言葉に、ふたばも小さく頷く。
「……はい」
悔しいけど。
その通りだと思った。
「まあ、こんなもんだ」
れいじはあっさり言う。
「え?」
ふたばが驚く。
「最初から完璧にできると思ってない」
「……」
「でも」
一拍。
「まだ良くなる」
はっきり言う。
「……はい」
その言葉で、少しだけ前を向ける。
「場数が足りない」
「レコーディングも慣れてない」
「あと単純に練習不足」
容赦ない。
でも。
全部正しい。
「個人でもやれ」
れいじが言う。
「それぞれ足りないとこある」
「……だな」
はじめが頷く。
「もっと叩き込みたいわ」
「私も」
美月も言う。
「細かいとこ詰めたい」
自然と、前向きな流れになる。
ふたばは、少しだけ迷う。
(……私も)
何かやらないと。
このままじゃダメだ。
わかっている。
でも。
何をすればいいのか。
そのとき。
「ボイトレとか行ってみれば」
美月が言う。
「え?」
「基礎からやるのもアリだよ」
「……」
ふたばは考える。
今まで、ちゃんと習ったことはない。
好きで歌ってきただけ。
「変わるよ」
美月が言う。
「ちゃんとやれば」
その言葉は軽い。
でも、説得力があった。
「……」
ふたばは、小さく頷く。
「……行ってみます」
はじめが笑う。
「いいじゃん」
「本気だな」
「……はい」
もう決めた。
やる。
ちゃんと。
逃げない。
「じゃあ次は一週間後」
れいじが言う。
「それまでに仕上げてこい」
「了解」
はじめが答える。
「はい」
美月も。
ふたばも、しっかり頷く。
スタジオを出る。
外の空気が少し冷たい。
でも。
気持ちは前を向いていた。
まだ足りない。
全然。
でも。
それがわかった。
それだけで、違う。
(……やる)
ふたばはスマホを取り出す。
ボイトレ。
検索する。
いくつか候補が出る。
少し迷う。
でも。
すぐに決める。
予約ボタンを押す。
指が少し震える。
でも。
迷いはない。
これが、次の一歩。
バンドとして。
自分として。
もっと上に行くための。
まだ未完成。
でも。
確実に前に進んでいる。
その実感が、背中を押す。
音はまだ届かない。
でも。
届かせる。
そのために。
やるべきことは、もう見えている。
ふたばは空を見上げる。
少しだけ、深呼吸。
そして。
前を向く。
その音は、ここから変わっていく。
第31話を読んでいただき、ありがとうございます。
初めて自分たちの音を客観的に聞き、まだ足りない部分や課題が見えてきました。
うまくいかないからこそ、次に進むための方向がはっきりする――そんな回になっていれば嬉しいです。
そして、ふたばは新たな一歩としてボイトレに通うことを決意しました。
ここからそれぞれがどう変わっていくのか、バンドとしてどう進化していくのかも見どころになっていきます。
よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。
引き続きよろしくお願いします。




