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第30話「背中を押すやつ」

第30話です。


今回ははじめにフォーカスした回。

明るくてムードメーカーな彼の、少し違った一面が見えてきます。


そして、それぞれの気持ちも少しずつ動き始めます。

ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


夜。


 はじめは一人で飲んでいた。


「……はぁ」


 ため息。


 珍しい。


 いつもなら騒いでるはずなのに、今日は静かだった。


「どうした」


 横から声。


 れいじだった。


「なんだよ」


「いや、珍しいなと思って」


「ほっとけ」


 そう言いながらも、どこか元気がない。


「……フラれた」


「は?」


 あまりにもストレート。


「マジで?」


「ああ」


 はじめはグラスを傾ける。


「いい感じだと思ってたんだけどなー」


「どんなやつ」


「商店街の手伝いしてる子」


「へぇ」


「優しくてさ、よく笑う子で」


 少しだけ遠くを見る。


「……まあ、俺みたいなのは無理だってさ」


「……」


 れいじは何も言わない。


「いやー、久々にちゃんとダメージきたわ」


 笑っているけど、少しだけ本音が混ざっている。


「……でもよ」


 はじめが続ける。


「言っただけマシか」


「ん?」


「何も言わずに終わるよりはな」


「……」


「ダメでも、ちゃんと終わるし」


 その言葉に、れいじが少しだけ反応する。


「……お前さ」


 はじめがニヤッとする。


「気づいてねぇの?」


「何が」


「ふたば」


 その名前。


 一瞬、間が空く。


「……は?」


「だから」


 はじめは笑う。


「お前のこと、好きだぞあいつ」


「……は?」


 もう一度。


 れいじの顔が少しだけ固まる。


「いやいや」


「いやじゃねぇよ」


「そんなわけ」


「あるって」


 断言。


「わかりやすすぎるだろ」


「……」


 れいじは黙る。


「お前が鈍いだけ」


「……」


「まあでもさ」


 はじめがグラスを置く。


「いいじゃん」


「何が」


「そういうの」


 軽い口調。


 でも、少しだけ真面目。


「ちゃんと向き合えよ」


「……」


「逃げんな」


 その言葉は、少しだけ重かった。


 れいじは何も言わない。


 ただ、グラスを持つ。


 中身を見つめる。


 何かを考えている。


 


 その頃――


 ふたばは一人、スタジオにいた。


 ギターを持つ。


 まだぎこちない。


 でも。


 少しずつ音が出るようになってきた。


「……難しい」


 小さく笑う。


 でも、楽しい。


 そのとき。


「お、やってんじゃん」


 はじめだった。


「あ、はじめさん」


「練習?」


「はい」


 ギターを見て、にやっとする。


「いいねぇ」


「まだ全然ですけど……」


「最初はそんなもんだろ」


 隣に座る。


「てかさ」


 ふと、はじめが言う。


「れいじといい感じじゃね?」


「えっ!?」


 いきなり。


「ち、違います!」


「いやいや」


 笑う。


「わかるって」


「……そんなことないです」


 視線を逸らす。


 わかりやすい。


「まあいいけどさ」


 はじめは少しだけ真面目になる。


「ちゃんと行けよ」


「……え?」


「好きなんだろ」


「……」


 否定できない。


 もう、わかっている。


「……はい」


 小さく答える。


「ならさ」


 はじめが言う。


「ちゃんとぶつかれ」


「……」


「言わないと、何も変わんねぇぞ」


 その言葉は、優しかった。


 でも、しっかり刺さる。


「……でも」


「怖いか?」


「……はい」


 正直に言う。


 はじめは笑う。


「そりゃそうだ」


「……」


「でもさ」


 一拍。


「取られるぞ?」


「……え?」


「美月」


 その名前。


 胸がドキッとする。


「冗談みたいに見えるけどな」


 少しだけ真剣な顔。


「あいつ、本気出したら強いぞ」


「……」


 ふたばは黙る。


 わかっている。


 あの人は、ただの軽い人じゃない。


「だから」


 はじめが立ち上がる。


「先に行ったやつの勝ちだ」


「……」


 その言葉。


 シンプルで、強い。


「ま、応援してるわ」


 軽く手を振る。


 でも。


 その背中は、頼もしかった。


「……ありがとうございます」


 ふたばは小さく頭を下げる。


 一人になる。


 ギターを持つ。


 さっきより少しだけ、手に力が入る。


(……ちゃんと行く)


 決める。


 怖いけど。


 それでも。


 逃げない。


 その覚悟が、少しだけできた。


 夜は静か。


 でも。


 それぞれの中で、何かが動いていた。


 はじめの言葉。


 れいじの沈黙。


 ふたばの決意。


 全部が、次に繋がっていく。


 音だけじゃない。


 想いも。


 関係も。


 少しずつ、前に進んでいる。


 その流れの中で――


 誰かが背中を押した。


 それだけで。


 未来は、大きく変わる。


 その一歩は、もう止まらない。

第30話を読んでいただき、ありがとうございます。


はじめの言葉が、それぞれの背中を少しだけ押した回になりました。

軽く見えて、実は一番核心を突く――そんな役割が彼らしさでもあります。


ふたばの決意、れいじの揺れ、そして美月の存在。

それぞれの想いが交差し始め、物語は次の段階へ進んでいきます。


ここからは、バンドとしても、恋としても、さらに大きく動いていきます。

よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。


引き続きよろしくお願いします。


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