第27話 14歳/帰郷
第27話となります。
ご意見ご感想などお待ちしております。
二週間の入院にも関わらず私は十日ほどで治癒院を退院する運びとなった。
相手から斬られた右腹部の傷口が癒合も早く済んだのが退院理由として大きかった。
兄やべラック先生も「若いから治りが早いんだ」と口を揃えて祝ってくれた。
右腹部の抜糸が終わって三日後、私は退院した。
ゲストハウスに戻った後、私は日常生活に慣れるため四日ほど過ごした。
食事も病院食から通常のものに代わり、べラック先生から軽い鍛錬をしながら体を慣らしていく。
こうして自領へ戻る準備を終えた私の元に別れを挨拶をしに知り合いが訪れてきた。
一番最初にやってきたのはガブリエルだったのには驚いてしまった。
ガブリエルはこれまでの態度と違って憑き物が落ちたように私を睨まなくなっていた。
「フィファに謝罪の手紙を送ったんだ」
それは今までのガブリエルにはありえないことだった。
人を見下して自分を強く見せつけようとした彼も成長したのだと知る。
「そうなんだ。それで返事は来たのか?」
「まだ来てない」
ガブリエルの顔が悔しさで溢れていた。
それはそうだ。
今までのことを考えるとそう簡単にはいかない。
フィファの許しも先のことになるだろう。
「だから今後も謝罪は続ける」
「それでいいと思うよ」
継続することは大切だ。
私としてもガブリエルがこれからもフィファやそれ以外の人たちにも謝れるようになってほしいと思う。
「あのさ・・・」
するとガブリエルが何か言いたそうにしているが切り出せないでいる。
どうしたのだろうか?
「うん?」
「もしさ、もしフィファに会ったら俺が返事を待ってると伝えてくれないか?」
弱々しくて俯く仕草でガブリエルがお願いをしてきた。
彼は本当にフィファのことが好きなんだ。
それなら最初から彼女に高圧的にならなければ良かったはずなのに・・・今更だと思う。
今後もガブリエルはフィファに謝り続けるしかない。
「わかった」
私は今回ばかりはガブリエルに同情をしてしまった。
どちらにしろ、フィファに話をしても彼女の反応は予想はつく。
<どうせ私に振られたくないんでしょ>
こればかりはどうにもならない。
それにガブリエルは知らない。
フィファが婚約者候補に私の名前を出していることを。
もしこの話を聞いたらガブリエルの精神が崩壊してしまうかもしれない
だったら、フィファにちゃんと振られても納得できるようにするしかない。
いずれにしろ私はガブリエルとフィファの関係を見守ることにした。
ガブリエルが帰った後、今度はファートマン団長がお祖母様をエスコートしてやってきた。
ファートマン団長はお祖母様の手前、今までと違って騎士らしい態度に徹していたのでそれが可笑しくて笑いそうになる。
隣にいるべラック先生もその姿に苦笑している。
「まさかボヴァリー様とここで再会するとは思いませんでした」
ファートマン団長はお祖母様に話しかけているがその表情はいつも以上にぎこちない。
お祖母様に会って緊張しているようだ。
「あら、噂ではあなたは私と会うのが嫌だと聞いていましたが?」
「何をおっしゃるのですか、ボヴァリー様と会うのは嫌だと自分は思っていません」
ファートマン団長はすぐに首を大きく横に振ってお祖母様の言葉を否定する。
「お祖母様」
「どうしたのかしら、グヤコールス?」
「お祖母様とファートマン団長、べラック先生はどのような関係なのですか?」
そう、前から聞きたかったんだ。
二人はお祖母様の名前を聞くと恐縮したり態度を改める理由を知りたかった。
「昔の教え子ですよ」
お祖母様は少女のようにクスクスと笑って答えてくれた。
「教え子ですか!?」
私がべラック先生とファートマン団長を見ると、二人とも照れた顔をしていた。
「グヤコールス、あなたにはまだ話していなかったわね。私は若い頃、王都の学園で教鞭を取っていたのです」
「そうなのですか?」
その話は私も知らなかった。
お祖母様は婚姻後も学園から乞われて、その後も教師を務めながら多くの生徒に勉学を教えていた。
その生徒の中にべラック先生とファートマン団長もいた。
まさかお祖母様が教師の職に就いていただけでなく、べラック先生たちがお祖母様の教え子だった事実にも驚いてしまった。
「この二人はね、本当に勉強嫌いで自分気ままに行動しては無茶苦茶なことをして何度も退学になりかけた問題児なの」
その話を聞いて私は吹き出しそうになるのを我慢する。
ファートマン団長なら想像できるが、まさかべラック先生も問題児だと思わなかった。
人とは何かしらあるものだと知る。
「ボヴァリー様、勉強嫌いだったのはファートマンです。私の成績はいつも上位でした」
べラック先生もお祖母様にそう言われて困り顔だ。
「そう言うけど、あなたはあなたでファートマンを止めに行くと言っては一緒に問題ばかり起こしたじゃない」
「あれは不可抗力です。問題を起こしたファートマンを私が止めようとしたのに何故か状況が悪化してしまうのです」
「いや、お前も楽しんでいたじゃないか」
その後、べラック先生とファートマン団長がお互いに堂々巡りの口論を始めた。
ああだこうだと二人が話す内容を聞くととんでもないことばかりをしていたんだと知る。
学生なのに冒険者ギルドに登録して依頼をこなしていたとか王都で暗躍していた盗賊団を有言実行で退治したりと聞いていてもとんでもない武勇伝ばかりだ。
そんな二人の様子を見たお祖母様は「本当に変わらないわね」と頬杖をつきながら笑う。
「グヤコールス」
「はい」
「良かったわね、この二人と巡り合えて」
「はい」
私も目の前で面白可笑しく滑稽なやりとりする二人の姿を見てそう思う。
「今後もべラックとファートマンを頼りになさい。この二人なら何があっても助けれくれます」
「そうですね」
私も相変わらず軽口を言い合う二人のやりとりを見ながら笑みを綻ばせた。
いよいよ王都を出発する時間が来た。
出発の時間前には兄も合流したので大所帯の見送りになってしまったがそれでも私は寂しさを感じた。
そんな時、ゲストハウスの使用人が私に手紙を渡してきた。
「これは?」
「グライシン様と言う方が渡して欲しいと」
「そう」
私はそれ以上は何も言わず手紙を受け取った。
見送りにこないところがグライシンらしい。
もしあの出来事がなければ彼のことだ。
きっと令嬢に変装して来るかもしれない。
あれは正直、卑怯だと今更ながら思う。
「では、参りましょうか」
べラック先生が促すと私は騎乗する。
「兄上、お世話になりました」
私は兄に頭を下げる。
「帰ったらちゃんと父上と母上に謝るんだぞ」
「わかっていますよ」
私は頷くと兄も笑って返してくれた。
「お祖母様もお体にはご自愛下さい」
私はお祖母様に別れの挨拶をする。
「ええ。あなたが王都に来るのを待っています」
お祖母様も私に手を振って送ってくれた。
「ファートマン様もお元気で」
私はファートマン団長にも頭を下げて挨拶をする。
「ああ」
ファートマン団長も拳を挙げて応じてくれた。
「では、行きましょうか」
「はい」
べラック先生の合図と共に私は馬を進めた。
こうして王都の旅は終わった。
王都での滞在は短くて長いものだった。
その間にも時戻りの影響は続いていた。
それは自領に戻った際に知ることになる。
エミーナがフィファに詰め寄ったのだ。
一体どうしてそうなったのか。
私はその理由を知ることになる。
次回の第28話までで一旦終了となります。
第29話からは王都編となる予定です。
〇登場人物
・グヤコールス・ペパリッチ
この物語の主人公です。
大怪我を負いましたが無事に退院できました。
今度は自領で問題が起きてしまいその対処に追われることになります。
・ボヴァリー・ペパリッチ
主人公の祖母です。
グヤコールス曰く「聖女」様で密かに女性として憧れを抱いています。
孫のグヤコールスの時戻りの秘密を調べています。
グヤコールス君にとって聖女のような存在になりつつあります。
・ペラック・ベルドリッチ
主人公の剣術の師匠です。
今、一番頼りになる剣術使いです。
お祖母様の教え子で問題児だったことが判明しました。
・ファートマン・ハイアムズ
近衛騎士団の団長でべラック先生の友人です。
とてもとても強い人で頼りにある人です。
彼もお祖母様の教え子で問題児だったことが判明しました。




