第26話 14歳/彷徨
第26話となります。
ご意見ご感想などお待ちしております。
私は暗闇の中で何故か彷徨い続けていた。
実体などないのに意識だけが暗黒に覆われた空間で意味もなく彷徨する。
ただ闇の中にいるのに怖くはなかった。
しばらく流れるままに彷徨い続けるとどこからとなく私を呼ぶ声が聞こえる。
・・・誰?
私は尋ねるが相手は答えない。
もう一度、相手に「誰?」と尋ねると急に闇が光の世界に覆われた。
そこはあのパーティー会場だった。
私は正装姿のパルダビュー王子やエミーナ、騎士姿のガブリエルたちに囲まれていた。
・・・どうして、あの日のなっている?
私はそう思いながら周囲を見回してみる。
あれはフィファ?
運良く私は彼女の姿を見つけた。
フィファはこの状況が理解できずにいて、助けを求めるかのように周囲に誰かを探しているようだった。
すると私たちを囲む傍観者たちの中に見知った人物がいることに気付いた。
それがグライシンだとすぐにわかった。
確かにグライシンは美しき令嬢姿だったが同伴する婚約者の姿はない。
彼、いや、彼女は私やパルダビュー王子たちを冷淡で凍りついた表情で見つめていた。
私の断罪劇が始まるとまもなく私はガブリエルに斬られた。
当事者でありながら傍観者視線でこの光景を見るとは思いもしなかった。
私を斬った後、ガブリエルは卑しい笑みを浮かべて満足していた。
パルダビュー王子と肉体関係を結び、王子の愛を独占したガブリエルには最高の栄誉だったようだ。
しかし自分自身が斬られるところを見るのは良い気分ではない。
実力も私に劣るガブリエルに斬られらことが理由ではない。
元凶たるパルダビュー王子がガブリエルの心を魅了し凶行に走らせたことは許せなかった。
当の本人は勝手に涙を流しながら私を介抱している。
その様子を見て私は王子に対して無性に腹が立った。
この人とは関わってはいけない。
そう思った時、私の意識が浮遊を始めた。
その勢いが段々と増していくと私はパーティー会場から離れていくのがわかった。
すると私はあることに気付いた。
・・・グラシアスは何を見ている?
彼は私やパルダビュー王子たちを見ていなかった。
私はその視線を辿ろうとするが、その前に私は当然現れた光の中に吸い込まれていく。
誰を見ている?
私は必死にグライシンの視線を追う。
だが、視線の先を知ることができず一気に私の意識は光に包まれた。
気がつくと私は眠っていた。
この状況は私は時戻りの時に見た時と似ている。
ただ、その時よりも体に痛みがあり動かすのが大変だ。
私は上半身を起こすと痛みがある方を確認する。
私の腹部には包帯が巻かれていた。
・・・そうか、戦った後に気を失ったのか。
私は状況を理解した。
「・・・生きてる」
私はそう呟く。
なんとも言えない気持ちだ。
腹部に巻かれた包帯を見ていると右のお腹がより痛くなる。
そうか、私は斬られたんだ。
両腕に目を移すと切創や刺創がある。
両手を見れば剣の握った跡が残っており、すべての指や手のひらに内出血ができていた。
握力も感じられない。
命をかけて戦うとこうなるのか。
実戦を経験した私は何故か言葉にできない思いに駆られてしまった。
翌日、私の病室にべラック先生とファートマン団長が訪れた。
「どうですか、気分は?」
「体中が痛いです」
今も体中が痛い。
斬られた後はこんな感じなんだと知ると自分の実力不足を思い知らされる。
「二人相手に戦ってあれだけ斬られたんだ。名誉の傷と思うんだな」
ファートマン団長はガハハと大きく口を開けて豪快に笑う。
「しかし、君にも申し訳ないことをしてしまった」
べラック先生が私に頭を下げる。
「どうして先生が謝るんですか?何も悪いことはしてないじゃないですか」
「私は読み違いをしてしまったんです」
「読み違いですか?」
「ええ。まさか君が戦うことになるとは・・・これは完全に予想できませんでした」
べラック先生が眉間に皺を寄せて唸るような表情になる。
「あんな形での実戦になった上に君は怪我を負ってしまった。私も耄碌してしまったようです」
「でも、この年齢で実戦経験ができたのは良かったと思います」
怪我を負ったとはいえ、私は初めて戦うことができた。
今は悪い気はしない。
「君は前向きですね」
べラック先生が苦笑する。
「べラック、彼はね最後まで剣を離さなかったぞ」
隣にいるファートマン団長が路地での戦った後、私の様子を教える。
「なるほど・・・生まれながらの素質を言う訳ですね」
べラック先生が左手を口元に置くと頷きながら納得する。
「今後はより実戦経験を積みましょう。今度は冒険者ギルドに登録するのもありかもしれませんね」
唐突にべラック先生が飛躍した話を始める。
「おいおい、それならうちの方の依頼をこなした方がいいぞ」
「あなたの依頼は無茶なものが多いじゃないですか」
「そうか?」
「あなた、忘れてないですか?これまで私に依頼したものを?」
「もしかして、あれか?高貴たるお貴族様のお嬢様から頼まれた人形を取りに行ったら、人形の中に隠された謎の秘薬のせいでお前が襲われ続けたあれか?」
「それもありますが他にもあるでしょうが」
「う~ん、あれだな。海のある街の灯台に三日間だけ警備を任せたらその日に限って海賊の集団が襲ってきたやつだな」
「それもありますがもっとあるでしょうが」
「なんだっけ?」
「あなたが移動時間を知りたいと言って私にある街道を歩いて欲しいと言った時ですよ」
「ああ、あれか!」
ファートマン団長がようやく思い出したのか両手を叩いて頷く。
「あれは仕方なかった。まさかあの街道に殺人集団の砦あるとは知らなかったしな」
「おかげで私は寝る暇もなく七日間も戦うはめになったんですよ」
「・・・先生、それヤバくないですか?」
ファートマン団長がべラック先生に依頼するたびに運の悪いことばかり起きている。
もしかしたら、べラック先生は運が悪いタイプかな?
「グヤコールス君、彼はね、こういう時に限ってちゃんと調査をしないですよ」
「えっ?」
「彼は私なら問題ないと勝手に思って依頼してくるんですが、本来なら調査すべきところをサボってしまうので毎回ハプニングに巻き込まるのです」
「なんかお前なら大丈夫だと思ってしまうんだよ」
ファートマン団長が笑ってその場をやり過ごす。
「そんな依頼をグヤコールス君に任せるのは早すぎます」
「駄目か?」
「駄目ですよ」
べラック先生はすぐに否定に入る。
「もったいないな」
ファートマン団長は残念そうにする。
でも、そんな二人のやりとりを見ていると二人の信頼関係が見て取れる。
こんな気楽にお互いに愚痴を言い合えるのが羨ましい。
「それよりもグヤコールス君に聞きたいことがあるのでしょ?」
「そうだった、そうだった」
ファートマン団長が言葉を繰り返しながらまた手を叩く。
「グヤコールス君、お前さんと一緒にいた令嬢なんだが名前を教えてくれないか?」
令嬢・・・グラシアスのことか。
さすがに彼のことはここでは言えない。
「知らないんです。急に声をかけてきたもので」
わざとらしく恥ずかしそうにして私は答える。
「令嬢に声をかけられたのかい?」
「そうなんです。それで一緒にカフェでティータイムを・・・」
私は照れるふりをそながらべラック先生を横目で見る。
べラック先生はファートマン団長に見えないように口元を緩ませる。
・・・先生は令嬢がグライシンと気付いているんだ。
そうなるか。
確かに今の状況で私に声をかけるのは数が限らてている。
その中でグライシンほど令嬢に変装できる人はいない。
先生はグライシンが時戻りと言うことも知っているから尚更だ。
「そうなると奴らはその令嬢を攫おうとしたことになるな」
「そうなんですか?」
「ああ。まず、お前さんが襲われる理由が見当たらない。お前さんも襲われる心当たりはないだろ?」
「はい」
「となれば、その令嬢しか理由はない」
確かに今ならグライシンしか襲われる理由はない。
「あの二人組はどうなんですか?」
「残念だが彼らはすでにいないんだ」
ファートマン団長が残念な表情になる。
「俺が倒した後、彼らを拘束したんだが翌日、毒を飲んで死んだ」
「自死ですか?」
私は驚く。
まさかあの二人組が簡単に自死を選びとは信じられなかった。
「あの二人組の後ろにはそれだけ大物がいると言う訳だ。こちらも考えが甘かった」
ファートマン団長としては治安を守る者として憂いは少しでもなくしておきたかったのだろう。
でも、相手は依頼人を守るために自ら口を封じた。
それほどまでに守らないといけない相手だと私でもわかる。
「今後はどうするんでしょうか?」
「令嬢は探し続けるしかないだろう。小さい事であろうと時間が経てば大きい事になるのは許されない。お前さんももし令嬢の件で些細な事を思い出せば教えてくれ」
「わかりました」
私はその場を取り繕った。
どのみち、ファートマン団長には私が時戻りだと話す機会がある。
でも、今ではない。
その時までは同じ時戻りのフィファやグラシアスの話は秘密にしよう。
私はしばらく病室で治療に専念した。
看護師さんからいつ頃、退院になるのか確認すると二週間はかかるだろうと教えてくれた。
それまでは何もできない私には兄とお祖母様が面会に訪れてくれた。
二人とも私が怪我を負ったことに驚きながらも人を助けたことを褒めてくれた。
ファートマン団長が令嬢の件を伏せてくれていたようで、私が人助けで怪我をした体裁にしてくれたのだ。
私は二人にご迷惑をお掛けし申し訳ございませんと謝った。
二人は私が謝る必要はないと言い、自領にいる両親にも事情を話しておくから休みなさいと労いの言葉をかけてくれたので私は二人に感謝するのみだった。
しかし、暇になればなるほど何かをしたくなるのが人の性分だ。
私は兄に頼んで王都で流行している書籍を持ってきてもらった。
どのみち全部は読み切れないと思っていたが、時間があまりに余っていたので予想も早く本を読み終わりそうだった。
さて、どうしたものかと思っていると私に面会を求める人が現れた。
それはグライシンだった。
彼は病室に入ると「やあ」と手を挙げて挨拶をしてきた。
グライシンは女装ではなく普通の私服姿だった。
「どうだい、体調は?」
グライシンは笑顔で話しかけてくるが若干、顔が曇っているように見えた。
「順調かな」
「それは良かった」
そう言うとグライシンは病室のドアを閉めた。
そして、私の近くに行くと頭を下げる。
「すまなかった」
「大丈夫。気にしてないから」
私はすぐに頭を上げるよう促す。
「それとお前のことは騎士団の人に聞かれたけど何も話はしていないよ」
「僕は話してくれていいと思うけど?」
グライシンは首を軽く傾げる。
「いや、時戻りの件もあるから話はしない。それよりファートマン団長が言ってたんだけど、今回の犯人の目的は令嬢の可能性があると言っていた」
「そうなんだ」
「グライシン、何か心当たりはある?」
私は遠慮することなくグライシンに尋ねる。
「正直、わからないんだ」
「そうなの?」
「うん。僕もどうして尾行されたのか心当たりがない」
グライシンの様子を見ると彼が嘘をついているように思えなかった。
となれば、彼も知らない何かがあると言うことになる。
「グライシンを攫おうとした可能性もあるって言ってたから。今後は気を付けた方がいいかもしれない」
「そうだね。僕も気を付けるようにする」
今日のグライシンは素直な態度で私の話に同意した。
「グヤコールス君」
「うん?」
私が相槌を打つとグライシンが私の側に寄る。
そして、私に抱き付いた。
「な、何してんだ!?」
私は不意をつかれて動転してしまった。
「感謝の気持ちさ」
「いやいや、お前、男だろ!?」
「前世は女さ」
グライシンがより私を抱き締めると今度は私の髪に顔を埋めた。
「だから、しばらくこうさせてくれないか?」
「お前さ・・・」
私は呆れながらもグライシンの好きにさせることにした。
グライシンは私を抱き締めながら何度も背中をさすったり頭を顔で撫でたりする。
これが女性だったら嬉しいが目の前にいるのは男性。
でも、グライシンは元は女性だかた複雑な気持ちになる。
「あれ?」
私はグライシンからあの甘い香りが漂っていないことに気付く。
「どうしたんだい?」
「香りがしない」
「香り?」
「あの甘い香りがしない」
「僕は香水なんかつけないよ」
グライシンがそう答える。
「でも、会うたびに甘い香りがしてた」
「それって勘違いじゃないのかな」
「そうかな」
となれば、あの甘い香りは何だ?
グライシンも知らないものなのだとすると、女性だった時の名残りなのかもしれない。
その後しばらく私はグライシンのされるがままになった。
結局、グライシンは私に面会に来たのに甘えに来ただけだった。
彼ももしかしたら自分が狙われたかもしれないと知って不安になったかもしれない。
だから私に会いにきたのかもしれないが抱き付くのは遠慮して欲しい。
もし看護師や他の人に見られたら大変なことになるかもしれない。
そんな思いながらも、私はグライシンの心の弱さをようやく知ることとなった。
〇登場人物
・グヤコールス・ペパリッチ
この物語の主人公です。
大怪我を負い治癒院にて治療中です。
・ペラック・ベルドリッチ
主人公の剣術の師匠です。
今、一番頼りになる剣術使いです。
過去に騎士団からの依頼を受けていたことが判明しました。
・ファートマン・ハイアムズ
近衛騎士団の団長でべラック先生の友人です。
とてもとても強い人で頼りにある人です。
・グライシン・フェネシン
隣国の青年。中性的で男女問わず人気があります。
令嬢姿になると美人になるほどです。
どうもグヤコールスに気があるようです。




