第23話 14歳/再会
第23話となります。
ご意見ご感想などお待ちしております。
グライシンが去った後、私は誰もいない控え場で身動きできず立ち竦んでいた。
まだ周囲には微かだがあの甘い香りが残っていた。
自分の何かしら感覚がおかしくなり狂ってきそうだった。
まだ、何故か胸の鼓動が止まらない。
「ここにましたか、グヤコールス君」
しばらくしてべラック先生が私を見つけてくれた。
私は「あ、はい」と返事をしてべラック先生に顔を向けた。
「どうしたんですか?」
べラック先生は私の顔を見るなり心配をしてくれた。
この時の私の顔はきっと血の気が引いて顔面蒼白だったと思う。
「何かありましたね」
私はべラック先生の問い掛けに素直に頷く。
「そうですか、では、ゲストハウスに戻った後に聞かせて下さい」
今、ここで私に聞いても話がまとまらないとべラック先生は見たのだろう。
べラック先生は関係者への挨拶も切り上げると辻馬車を呼んで私と共にすぐにゲストハウスに戻った。
帰宅後は私は改めてべラック先生に何があったら尋ねられた。
私は控え場で起こったことを話す。
まず、グライシンが自分と同じ時戻りだと語ったことから始まり、その流れで彼が前世で女性だったこと、断罪の場にいて私がガブリエルに斬り殺されたことも知っていると話したことも報告した。
さすがにグライシンに口づけされたことは言えなかった。
こんなこと言えるはずもない。
いくら前世で女性だったといえ、男性に口づけされたのだ。
いや、そうではない。
グラシアスの魅了に胸が高まったことを否定したかった。
私が話終えるとべラック先生が考え込んだ。
「まさか、そんなことがあったとは」
べラック先生も予想もしない展開に当惑していた。
「グヤコールス君、君は彼のことを覚えていますか?」
「いえ、覚えていません」
「でも、彼は君が断罪された場にいたと言いました。もしそうなら彼の姿をどこかで見たはずです」
確かにべラック先生の話すようにグライシンを記憶しているはずだ。
あの日、グライシンは会場のどこにいたのか。
私は思い出そうとするがそれらしき令嬢がいた記憶はなかった。
「思い出せないです」
「仕方ありません」
「すいません」
「責めてはいませんよ。人は誰でも思い出せないことは思い出せないものです」
べラック先生もそれ以上、私に記憶を呼び起こしをさせなかった。
でも、べラック先生は私が隠したいことに気付いていた。
「でも、君はまだ隠していることがありますよね?」
「えっ?」
私の声が短く口の中で上がる。
「長年、君を見てきたのですよ。あなたの態度を見ればそれくらいはわかりますよ」
さすがべラック先生だった。
私の持つ微妙な変化を瞬時に見つけた。
きっと今までも剣士としてそうやって相手を見てきたのだろう、だから誰よりも強くて冷静に立ち回てているんだ。
師であるべラック先生にそう言われてしまえば私はお手上げだった。
私はべラック先生にグライシンに口づけをされたことを伝えた。
「君も災難でしたね」
べラック先生も苦笑するしかないようだ。
「救いすれば元令嬢だったことでしょうね」
べラック先生はそう言ってくれてはくれたが、グライシンに本当に令嬢なのか私は一抹の不安を覚える。
「しかし、これで状況がまた変わりました。明日から君は剣術使いとして王都で名が知られ始めます。ファートマンも君を喜んで勧誘してくるでしょう」
「ファートマン様がですか?」
「ええ。彼や騎士団の彼らは君に期待しています。当然、君が騎士団に入ることを望むでしょう」
そう言われて私は自分の評価の高さを知る。
「きっと他のところからも君を勧誘しようと動くはずです。そこに誰か来るのか楽しみで仕方ありません」
べラック先生の考えでは貴族階級や騎士階級の人たちが人材確保のために私に声をかけてくるだろうと言う。
彼らの間では自分たちの子供に側近や衛士のような友人を作ることが常識的なことであり、青田買いのように人材を求めるのは当然のことだった。
「きっと面会の手紙が多く来るでしょうね」
私の存在は彼らにとって十分に御目に適うものだ。
その時に時戻りの関係者が含まれるはず。
場所が王都であり環境は揃っている。
「言ってる意味がありますね?」
「つまり王子が来るってことですか?」
「可能性は否定しません。王族間の権力闘争は噂に聞こえていますので」
そう言えば、お祖母様が手紙で王族の噂を書いていた。
この国の王妃と側妃が自分の息子たちを後継者にするために暗躍している。
最終的に王妃側が勝利をして、パルダビュー王子が後継者になったと書かれていた。
「王子が直接でなくても母方に当たる王妃側の何かしらが来るでしょう。ですが逃げていても君は16歳なれば王都へ行かなければなりません」
「はい」」
「ならば、ここで君の意志をはっきりと表明しても良いでしょう」
「意志って何ですか?」
私にはまだ理解が足りていない。
戸惑う私を見てべラック先生は笑う。
「君が私の後を継いで剣術使いになることです」
べラック先生は少しも気にせずけろっと話す。
「先生それって・・・」
「君はべラック流で唯一の弟子ですよ。君が私の後を継がないと誰が私の技を受け継ぐと言うのです?」
「私がですか?」
「そうです」
べラック先生の言葉に私は一瞬にして胸が熱くなる。
べラック先生は私のことをそこまで評価してくれている。
私にはそれだけで十分だった。
「君が今回の剣術使いで優勝しなくても私は君に後を継いでもらう考えでした」
「ありがとうございます」
私は感極まる。
きっと頬も紅潮していると思う。
私はべラック先生にちゃんと認められた。
今回の剣術大会でもらった銀の剣なんかよりも先生の言葉が嬉しかった。
「だから君もはっきりと言いなさい。私の後を継ぐとね」
「はい」
「剣術は実戦だけではありません。どんな時でも戦えば勝たなければなりません。例えば剣を持たずに戦うことも」
「剣を持たずですか?」
「そうです。その時、私たちはどのように相手が仕掛けてくるか、その時はどうすれば良いか考えなければなりません。時に長い目で見て考えるのか、それとも瞬時に判断するのか、それは状況次第になるでしょうがどんな時であれ決断を迫られます」
先生は話を続ける。
「剣を使い時は最後の手段だと思いなさい。いつでもどんな時でも相手に応じて巧みにその場に応じた策で対応するのです」
「でも、そんな簡単にはできないのではないですか?」
「だから剣術大会で勝つんです。名声を得れば必ず君に味方してくれる者がでます。彼らがいるででも相手と戦わずに済むものです」
なんともわかりやすい教えだ。
確かに有名になれば良いと思う。
目の前にはそのモデル、べラック先生ががいるのだ。
「今回はその初陣です。こんなに良い機会はないでしょう」
べラック先生が手を叩くと場を仕切り直す。
「大丈夫です。君ならできます。君は弟子ですからね」
べラック先生は笑うと側にあった銀の剣を手にする。
何度か重さを確認すると電光石火の如く、鞘から剣を刀を抜き放つ。
あまりの速さに私は目を奪われる。
「どんな剣であろうと使えなければ鈍で使えない。だったら、使えるようにすればいい。これが私の考えです」
べラック先生は剣を鞘に収める。
「明日以降は忙しくなりますよ」
べラック先生は剣を机に置く。
「その時、彼らが何を考えているのかわかりますよ」
べラック先生は先を見据えている。
剣を持たなくても相手に戦い勝つ。
これが剣術の達人なのだろう。
きっと、べラック先生は私のための戦い方も考えている。
でも、私も自分の考えで戦い方を知らなければならない。
今がそのもっとも良い機会だ。
私もあれほど落ち込んでいたのに、今は戦うことに喜びを覚えてしまっていた。
高揚と言うべきか。
私は優勝の余韻など忘れると新たな戦いに向けて気持ちを新たにした。
翌日からさっそく動きがあった。
べラック先生の言う通り、私に面会を求める人たちが現れた。
その多くが有名な貴族階級の人たちで子息や令嬢の友人に紹介したいと言うものだった。
べラック先生曰く、彼らが私に会いたい理由は私の剣術の腕にあった。
「将来、君が自分の子息や令嬢の警護を任せられる候補になったと言うことです」
確かに私のような人がいれば何があってもそれだけでも心強いし、私であれば相手を倒さなくても彼らを逃がすことはできるだろう。
なんともわかりやすい。
それだけ私の評価は高くなったわけだ。
「そこで面会場所をファートマン団長のところで行います」
べラック先生はあえて近衛騎士団の駐在所で面会場所に指定した。
「これで君の名前はより知られるでしょう」
べラック先生の狙いはこうだ。
私が近衛騎士団と親しい立場にいる。
そうなると勧誘を考える人たちはこう考える。
<騎士団も目をかけている>
つまり、彼らが私を強引に誘おうとすれば騎士団が黙ってはいないと言うことだ。
彼らの脅しは通用しないとの意思表示になる訳だ。
それともう一つの効果が期待できると先生は話してくれた。
「さっさと元凶に来てもらうことにしましょうか」
べラック先生の狙い通りに事が動き始めた。
翌日より私に会いに多くの人たちが現れた。
その多くが貴族階級や騎士階級の関係者だった。
私はべラック先生やファートマン団長と共に彼らに対応した。
ファートマン団長の立ち合いもべラック先生の狙いの一つだった。
「なにせファートマンは近衛騎士団の団長ですからね」
おかげで私にはべラック先生だけでなく近衛騎士団の団長までいると印象付けることに成功した。
「そこまでする必要はあるんですか?」
私が疑問を呈するとべラック先生は「もちろんです」と笑いながら答える。
隣にいるファートマン団長も「こういうことはべラックに任せて問題ない」と認めていた。
その後も私は貴族階級や騎士階級の関係者との面会をこなした。
その多くが私に自分たちの子供たちと友人になって欲しい、将来は我が家に勤めて欲しいと言うものばかりだった。
むろん、私の代わりにべラック先生が当たり障りのない返答で彼らに応じてくれた。
最初からお断りするのもよろしくないし、王都に進学する予定だと言えば彼らは納得してくれた。
そして、私がもっとも会いたくない人物がついに現れた。
「べラック、お前の予想した通り、大物が釣れたぞ」
「来ましたか」
べラック先生は腕を組むと応接室の窓から外の様子を見る。
私も一緒に外を見ると一台の馬車が止まっていた。
馬車の側面には王族の家紋が書かれている。
「あれって・・・」
「そうです、パルダビュー王子です」
ついにパルダビュー王子が私に会いに来たのだ。
いよいよパルダビュー王子と再会する時が来た。
私の脳裏にはあの日の悪夢が蘇る。
「私が対応するので君はあまり話さないようにしなさい」
「どうしてですか?」
「様子見のためです。まず、パルダビュー王子が前世の時とどう変わっているのか確認です。外見も性格も知れば我々も動きやすくなるでしょう」
「わかりました」
べラック先生もその辺りは心得ている。
今は先生に任せよう。
そして、応接室にパルダビュー王子が現れた。
・・・あれ?
私が最初に目が向いたのはパルダビュー王子の髪と瞳だ。
前世よりも目尻が上につり上がっていた。
前はむしろ目の輪郭がなだらかだったと記憶している。
髪型も前世と変わらずショートボブで髪が肩ぐらいまでの長さで全体に丸みを帯びたままだ。
ただ、髪の色は完全に変わっていた。
前は黒髪だったが、今回は真珠のような白っぽい輝きを持たせたベージュカラーの色をになっていた。
・・・ここまで変わっているとは思わなかった。
それ以外は外見は前世の時と変わっていない。
パルダビュー王子はスラッとした高身長で体は細身だが体格のバランスがとれており、その雰囲気は爽やかで親しみやすい印象があり誰もが惹かれる
顔全体のバランスが整っているのは変わらない。
一言で言えば<美男子>だ。
「君がグヤコールス・ペパリッチだね?」
パルダビュー王子が私に声をかける。
王子の声帯は前と変わっていないと思う。
「はい、王子」
私はパルダビュー王子に頭を下げて礼を執る。
顔を上げるとパルダビュー王子が私に向けて笑みを浮かべている。
前世と違う柔らかい笑みだ。
この奥に隠されている偏愛を今回もあるのだろうか。
「ガブリエル君から君のことは色々と聞いている」
ここでパルダビュー王子よりガブリエルの名前が出た。
当の本人は今回は参加していない。
何故、参加しなかったのかその理由は知らない。
「王子のお耳を汚してしまい申し訳ございません」
私は再び頭を下げる。
「そう謙遜しないでくれ。君とガブリエル君との関係は知っている」
「お恥ずかしい限りです」
私は簡潔に答えていく。
これもべラック先生の指示だ。
「パルダビュー王子、せっかくです。席にお座り下さい」
「そうだね」
べラック先生はパルダビュー王子を無駄なく着座を促してくれた。
「それで今日はどのようなご用件でしょうか?」
パルダビュー王子が席に座るとべラック先生がさっそく動いた。
「今日はグヤコールス君に挨拶をと思ってね」
「それは光栄です」
べラック先生が笑顔で応える。
「なにせ稀代の剣士たるペラック・ベルドリッチ殿の弟子だ。皆が興味を持つのは当然だ」
バルダビュー王子も私たちのことを事前に調べてきていた。
「それで僕としてはグヤコールス君と友人になりたいと考えていてね」
「なるほど」
「グヤコールス君は王都に進学すると君の兄上から聞いている。その時には是非とも僕の話し相手になって欲しいのだよ」
「ありがたき幸せです」
私は王子に向かってまた頭を下げる。
言葉少な目だが私としては冷静に立ち回っているつもりだ。
ここでべラック先生が動いた。
「本当にありがたいことです。彼は王都に進学後、剣術大会に参加させて上で隣国に剣術留学をさせたいと思っていたのです」
「剣術留学ですか?」
まさかそんな話をべラック先生が出してくるとは思わなかったのだろう。
バルダビュー王子が笑みを崩すとべラック先生を冷ややかな視線で見つめる。
「はい。彼は私が思う以上に剣士としての素質があります。このまま成長すればこの国随一の剣士になるでしょう。いや、他の国でもその名を私以上に名を轟かせてくれると思っています」
「なんと、べラック殿がそこまで思われているのですか?」
バルダビュー王子が目を大きくした。
「ですので我が弟子が王都に進学した際は大な目で見ていただけますと幸いです」
べラック先生の話はうまい。
バルダビュー王子を立てる一方で、私がべラック先生の正式な後継者だと意思表示をしてくれた。
べラック先生の名は知られている。
事がどうあれ簡単には覆すのは難しい。
「素晴らしいです。そこまで彼に期待しているのですね」
「ええ」
「では、僕もグヤコールス君を応援させて頂きます」
「これはこれはもったいないお言葉です。グヤコールス君、お礼を言いなさい」
「はい」
私は席から立ち上がると王子に頭を下げた。
その後は簡単な世間話をしてバルダビュー王子との面会は終わった。
私たちはバルダビュー王子を見送るため騎士団の正門まで付き添った。
パルダビュー王子との面会は何事もなくうまく終わったと思った。
だが、バルダビュー王子を見送る際にガブリエルの話になった。
「ガブリエルはあの彼に負けてから剣術の修行に励んでいてね」
「そうですか、彼も負けず嫌いですから対戦相手に負けて悔しかったと言っていました」
「でも、君はその相手に勝った。素晴らしいと思ったよ」
そして、王子は私に向かったこう話した。
「僕はグライシンが苦手でね」
それがどういう意味か、この時はわからなかった。
「今後も期待しているよ」
バルダビュー王子はそう言うと馬車の乗り込み王城へ戻った。
・・・グラシアスが苦手ってどういう意味だ?
私には王子の言葉の意味がまったく理解できなかった。
だが、私は王都に進学してから間もなくパルダビュー王子とグラシアスの確執を知ることになる。
私が断罪されるまで残されたのは6年。
私はついにバルダビュー王子と再会した。
この邂逅が一体どんな影響を及ぼすのか私にはわからなかった。
〇登場人物
・グヤコールス・ペパリッチ
この物語の主人公です。
グライシンに口づけをされてしまい動揺しています。
ついにパルダビュー王子と再会を果たしました。
・ペラック・ベルドリッチ
主人公の剣術の師匠です。
今、一番頼りになる剣術使いです。
今回もうまく立ち回って主人公をフォローしています。
・ファートマン・ハイアムズ
近衛騎士団の団長でべラック先生の友人です。
とてもとても強い人です。
相変わらず気の良いお兄さんと言う感じです。
パルダビュー・アリンガローサ王子
王族の第一王子です。
前世の時の元凶で、今回主人公と再会しました。
時戻りの影響で目と髪型、髪の色が変わっていました。
グラシアスとは何か因縁があるようで・・・。




