第24話 14歳/密会
第24話となります。
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翌日、私は自領へ戻る準備を始めた。
王都でやることはすべて終えたのだからこれ以上ここにいても仕方なかった。
今回は予想以上に収穫があった。
一番の目的であった剣術大会では優勝できたし、お祖母様だけでなくファートマン団長にも会える機会を得た。
また、バルダビュー王子と再会して直接情報を得た事も大きい収穫だった。
正直、会いたくはなかったが前に進むためには仕方ないことだった。
べラック先生も私と王子のことを気にしていた。
「どうでしたか?」
私はべラック先生に王子の印象を尋ねられた。
「王子の外見が変わっていました」
「そうですか」
「グラシアスと違った変わり方をしていました」
「それはどんなところですか?」
「まず目です。前世と違い目尻が上につり上がっていました」
「よく覚えていましたね」
「自分でもよく覚えていたと思っています」
「他には」
「髪の色が真珠色になっていました」
「昔はどうだったんですか?」
「黒髪でした」
「かなり変わっていますね。これも時戻りの影響でしょうね」
「そう思います」
時戻りが色々な人たちに及ぼす影響に法則はないのかもしれない。
グラシアスのように性別が変わることさえある。
でも、王子は外見以外に何か変わったことが他にもあるのかはわからなかった。
「ボヴァリー様には報告したのですか?」
「はい」
「それでなんとおっしゃられたんですか?」
「先生と同じ意見でした」
お祖母様にもバルダビュー王子やグラシアスのことは聞いてもらったが、お祖母様もべラック先生と同じ反応だった。
「ボヴァリー様もそう思われているのなら問題はないでしょう」
べラック先生もお祖母様の反応を予想していたようだ。
「私としては王子に対して初手をうまく打ち込めて良かったと思います」
まずは相手の出方を見てその出鼻をくじく。
今のべラック先生は私に剣を使わない戦い方を教えている。
今の私はただその方法を吸収するのみだ。
「グヤコールス君、初戦はこんなものでしょう。ただ、次戦はそうはいきません。君が王都に進学すれば完全に敵地となります。王子がもし前世の記憶があるのなら君を狙ってくるでしょうし、そうでなくても時戻りの影響を受けた人が君を害するかもしれません」
べラック先生の表情は硬い。
「正直なところ時間がないのが辛いところですが、私は君が王都に行くまでに可能な限り戦う方法を伝えます」
「ありがとうございます」
「16歳になれば独り立ちです。君はまだまだ強くなれます。期待していますよ」
べラック先生の言葉に私はただただ感謝するしかなかった。
自領へ帰る準備ができた頃、私の元に一通の手紙が届いた。
その日はべラック先生から休息日をもらっていたので私は気晴らしに街に出ようと思っていた。
使用人から届けられた封を見ると差出人は書かれていない。
私は無言のまま封を開いた。
手紙の主はグライシンだった。
そこには一言だけ書かれていた。
<今日の昼に中央広場で会いたい>
グライシンが私に会いたい理由は私に興味があるだけだろう。
それに一つだけ気になることがあった。
それはバルダビュー王子が帰り際に話したあの一言、
「僕はグライシンが苦手でね」
がどうしても気になっていた。
私はグライシンに探りを入れるために彼と会うことにした。
私は指定された時間に中央広場へ行くと目立たないように広場の片隅で移動した。
「グヤコールス君」
あの甘い香りの主が声をかけてきた。
私は振り返る。
そこには見知らぬ女性がいた。
彼女は貴族風で薄紫色のワンピースを着ており、ドレスハットで顔を隠している。
「・・・誰?」
私は思わず女性に名を尋ねる。
「僕だよ」
そう言うと女性はドレスハットから顔を露にした。
「僕って・・・嘘だろ?」
ようやく私は女性が誰か気付いた。
「グライシンなのか?」
「やっとわかってくれたね」
クスクスと悪戯っぽく笑うグライシンの姿に私は驚きを隠せない。
彼はしっかりと化粧を施していた。
「似合うだろう?」
「いやいや・・・そんなこと止めてくれ」
私はグライシンと口づけをした時のことを思い出す。
その様子を見てグライシンもあの日の事を思い出したようだ。
「僕も初めてだったのだけどね」
「初めて?」
「初めての口づけさ」
そう言われて私は両手を頭に抱えてしまう。
こいつは何がしたいんだ。
まったく理解が追いつかない。
「君は意外とうぶだね、剣術の時はあれだけ冷静なのにこんな時はおどおどと子供みたいになる」
「それはお前のせいだろう」
「つまり僕が魅力的だってことかい?」
グライシンは私の腕を取る。
まるで娼婦のようにわざとらしく胸を押し付ける仕草をする。
「それなら話が早い。このままデートを決め込もう」
「何言ってるんだ?」
グライシンは大胆な行動に私はさらに焦りを覚える。
「僕に聞きたいことがあるんだろう?」
「どうしてそう思うんだ?」
「僕はこれでも人を見る目があるんだよ」
そう言うとグラシアスが強引に私を連れて歩き出す。
さすがに鍛えているだけあって私は抵抗も虚しく歩くはめになった。
しばらく二人で通りを歩いていると周囲の皆が私たちの方に興味を持つようになった。
「グヤコールス君も有名人だね」
「いや、お前の方が目立ってるだけだろ」
剣術大会で優勝しても、所詮はまだ青年の部だ。
むしろ本大会と言える成人の部に優勝すれば名を馳せるものだ。
私が目立つはずもない。
「つまり、僕が綺麗ってことかな?」
「はいはい、綺麗ですよ」
もう否定するのは止めることにした。
グライシンはその辺りにいる令嬢よりも確実に美しい。
やはり前世の影響なのか、おそらく彼は女性の時はきっと多くの男性を虜にしていたはずだ。
「ありがたいね。僕は君をもっと好きになりそうだ」
その言葉に体が身震いしてしまう。
そういうのはやめてほしい。
「そんな反応されると悲しくなるじゃないか」
グライシンがさらに腕にまとまりつく。
そのふりをしながらわざと力いっぱい私の腕に抱き付く。
腕が段々と痛くなる。
「痛いんですが?」
「何の事かな?」
「お前、怒ってるだろ?」
「ご名答」
「わかったよ。失礼なこと言ってすまなかった」
「わかればいいよ」
やっとグライシンが力を緩めてくれた。
「それでこの後はどうするんだ?」
「僕が贔屓にしているお店がある。そこに一緒に行こう」
「お前の奢りか?」
「君は甘いね。男性は女性をエスコートする時は自分から積極的に動かないといけないんだよ」
「お前も男じゃないか」
「今は令嬢さ」
私はグライシンに押し切られる形で彼の薦めるカフェに入ることになった。
彼の顔なじみなのだろう、店員は私たちを奥の座席に案内した。
「もしかして、お前はいつもここに来る時は女装しているのか?」
「駄目かい?」
「駄目じゃないけど、普通そんな事するか?」
「どうも時戻りの時の記憶があってね、こんな感じになってしまうんだ」
「そうなんだ」
確かにグライシンは前世では令嬢だった。
だからと言って女装と言うのは大胆過ぎると思う。
その後、私たちはカフェのメニューに書かれた紅茶セットを注文した。
紅茶セットは隣国産のダージリンとケーキだった。
ダージリンもケーキもグライシンが贔屓にしているカフェだけあって味は良かった。
この店の雰囲気も用意されたものを見れば優良店だ。
「さて、君は僕に何を聞きたいんだ?」
さっそくグライシンが話を振って来た。
「グライシンはバルダビュー王子のことを知っているのか?」
「ああ、もちろんさ」
グライシンがティカップを置く。
「この前、バルダビュー王子と会ったんだ」
「へえ」
「驚かないのか?」
「別に」
グライシンの態度が素っ気なくなる中、私はグライシンにバルダビュー王子と会ったことを話した。
そして、帰り際にバルダビュー王子が話した一言が気になると話した。
「僕はグライシンが苦手でね」
この言葉の意味を私は知りたかった。
「グライシンはバルダビュー王子とどんな関係なんだ?」
「聞かない方が良いと思うよ」
「つまり言いたくないってこと?」
「言わなくてもわかるだろ?」
グライシンが私を少し睨み付ける。
なんとなくグライシンが言いたくないのは察した。
これ以上は何も聞くの止めよう。
私はここで話を終わらせることにした。
「わかった。これ以上が聞かない」
するとグライシンは少し目を見開いた。
「どうした?」
グライシンの反応がおかしいことに気付く。
「それで引くのかい?」
グライシンは信じられないと言った感じだった。
「お前、聞かれるの嫌なんだろ?」
「そうだけど・・・」
グライシンの様子を見るともしかしてもう少し聞き続けて欲しかったのかと思ってしまう。
「お前が言いたくなったら教えてくれればいいよ」
「君は優しいね」
「そうかな。僕もグライシンと同じように時が戻った経験者だ。そちらの気持ちも理解できるさ」
私はダージリンを一口含んで会話に間を取る。
その時になって私は何者かの存在に気付いてしまった。
殺気か・・・いや・・・もっと別のものか、なんとも言い難い。
これもべラック先生からの鍛錬の賜物か。
「どうした?」
グライシンも私の様子が変わったことを知る。
「僕たちは見られている」
私は瞬時に誰かがこの様子を見ていると伝える。
「えっ」
グライシンは何者かの気配に気付いていなかった。
「何もするな」
周囲を見回そうとするグライシンを私は止める。
「考えたくないけど王子の手の者かもしれない」
私の意識が集中する。
うん、確かに二人ほど気配を感じる。
それも私たちを囲むように座っている。
彼らの顔が見えないのが辛い。
「嘘だろ・・・」
変装に自信のあったグライシンが動揺している。
グライシンがこれだけ焦るところを見ると変事には慣れていないようだ。
「単に僕を観察したいだけかもしれない」
グライシンを落ち着かせようと私はわざとらしく話す。
「どうすればいい?」
「しばらくここにいて、その後は君を屋敷まで送ろう」
「でも、僕が変装しているってばれないか?」
「それは運任せさ」
私は何故か冷静にいられた。
そう、これも剣士なるための授業の一環だと思えばいい。
そして、私はグライシンに密かに指示をする。
これもこの後に必要になるはず。
グライシンも私の考えを理解すると指示に従ってくれた。
「行くよ」
「わかった」
グライシンも覚悟を決めた。
私たちがしばらくしてカフェを出る。
すぐにグライシンが私の腕に抱き付く。
彼は緊張しているのか腕に力が入っている。
「それって必要なのか?」
「偽装だよ、偽装」
珍しくグライシンが強がっている。
「ま、いいけど」
私は何事もなくグライシンを連れて彼の屋敷へ向かう。
このまま進めばどこぞのタイミングで私たちに襲ってくるかもしれない。
監視のままなら一番嬉しいが、彼らの雰囲気が前よりも殺気に満ちている気がする。
この状況は14歳の剣士にとってこれはかなりキツイ。
でも、戦いになれば迷うことなく剣を抜くしかない。
「君は実戦経験はあるのか?」
「ない」
「だろうね」
「僕は前世でも戦ったことはないんだ」
「僕もさ」
ひそひそと話す私たちは恋人同士のように歩いている。
ただ、ぎこちないその姿を見れば相手も私たちが自分たちの存在に気付いていると思う。
どんな状況でも相手は甘くないと思わなければならない。
「この辺りで相手が来るかもしれない」
「どうする?」
「お前は戦うな。あくまで令嬢でいろ」
「だが・・・」
グライシンも戦うつもりなのだ。
「一人の方が戦いやすいし、王子はもしかしたら僕の実力を知りたいだけかもしれない」
「それだけの理由で?」
「あの王子だ。何をするかわからないだろ?」
私が答えるとグライシンの腕の力がさらに強くなる。
緊張感が増している。
「次の角を曲がったら走るんだ」
「わかった」
グライシンは私の指示に頷く。
私たちが通りの角を曲がった瞬間、グライシンは走り出した。
当時に私はすぐに抜刀して振り返った。
私たちが走り出したと気付いた尾行者が通りの角を曲がって駆け込んだきた。
私が待ち構えていると知った彼らが足を止める。
・・・ここで時間を稼ぐ。
相手は2名。
それぞれ変装しているが使い手だとわかる。
彼らも隠し持っていた短剣を取り出す。
ついに私は初めて実戦を経験する日が訪れた。
私の心には死への不安と共に戦うことに高揚した矛盾した気持ちが支配していた。
それは時戻りへの抗いが本格的に動き出した瞬間だった。
〇登場人物
・グヤコールス・ペパリッチ
この物語の主人公です。
女装したグライシンに戸惑いながら、ついに剣士として初めて実戦を経験します。
・グライシン・フェネシン
隣国の留学生で主人公と同じ時戻りです。
前世は女性ですが今は男性です。
主人公と会うために女装した姿で現れました。




