第18話 14歳/抱擁。
第18話となります。
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王都での滞在が三日ほど過ぎた頃だった。
いつもの鍛錬が終わった後、私はべラック先生と共に騎士団の団長室へ案内された。
私たちを出迎えたくれたファートマン団長はいつもの気楽な挨拶もそこそこに今回の剣術大会に関しての情報を教えてくれた。
「今回の大会の1日目は各ブロックに分かれて総当たり戦になる。そこでお前さんは参加者たちと戦うことになる」
ファートマン団長の説明はこうだった。
予選では7名1グループに分かれると参加者同士がそれぞれと対戦を繰り返して全員と戦う。
今回は8つのグループになり、その中で上位1名だけが決勝トーナメントに出ることができる。
決勝トーナメントでは8つのグループの勝者で争うことになり、勝者同士が相手と戦い抜いて優勝を決める試合方式となる。
決勝トーナメントの順番がくじ引きで決まるので誰を相手にするかはその時次第となる。
「1日目は予選会でそれが終わると3日の休息の後に決勝トーナメントとなる訳だが理解できたか?」
「はい」
ファートマン団長の話を聞いた私は頷く。
頭の中では1日目に6人の対戦相手がいると考えると体力勝負になるだろう。
その時、どこまで体力を保存して戦えるのかそれが勝利のカギとなる。
それと共に剣術使いとして初めて本格的に戦えると思うだけで心が躍っている。
「最低でも6人と戦う訳ですね」
「そうなる。だが、お前さんの場合は9人になると思うぞ」
「9人ですか?」
ファートマン団長の指摘した数に私はピンとこない。
「そうだ、お前さんが決勝まで行けば9人だ」
その話を聞くとファートマン団長が私に抱く期待値の大きさを知ることができる。
「いいのですか、こんな大切なことを教えても?」
べラック先生がファートマン団長に尋ねる。
「構わないさ。考えてみろ、誰がどう優しく見てもお前の愛弟子が予選は突破するんだ。決勝トーナメントも順当にいけば勝ち上がのは分かり切ったことだ」
ファートマン団長の経験がそのように予想させるのだろう。
「確かにその通りです。彼が負けるとは思えないですし」
べラック先生も私に相当な期待値を抱いていた。
なので私はあえてこんな質問をした。
「先生」
「なんですか?」
「僕は強いですか?」
なんともくだらない質問。
でも、それくらいはこの二人の前で言ってもいい。
「強いです」
私はファートマン団長に視線を向ける。
「ああ、お前さんは強い」
ファートマン団長も頷く。
二人の認識は同じで私の評価は高い。
「だが、油断は禁物だ。お前さんと同じく実力があると候補者がいる」
ファートマン団長はこの大会で優勝候補が2名いると教えてくれた。
一人はガブリエル・スプリンゴラ。
あの大嫌いなガブリエルだ。
私に負けてから訓練を積んでいるとフィファから聞いている。
その実力は未知数だが負ける気がしない。
そして、もう一人。
グライシン・フェネシン。
彼は時戻りの前には聞いたことのない名前だった。
そもそも中等部にも高等部でもその名の生徒はいなかったはずだ。
これも時戻りの影響かもしれない。
「彼は隣国からの留学生で王都で最近話題になっている美男子だ」
なんだろうか、この気持ちは。
美男子と聞くと何か変な気持ちになる。
もし・・・もしも・・・その彼がパルダビュー王子のようなタイプの人だったらどうしようか。
あまりそんなことを考えるのは良くない。
「彼は男女問わず人気があり剣術の腕も良いと聞いている。私は彼の剣術を目にしたことはないがこの騎士団の数名は彼の剣術を見て筋が良いと言っていたので腕は確かだろう」
剣術の腕もそうだけど、男女問わず人気があるのは怖いな。
つまり周囲から好かれるタイプと言うことだ。
「まずはガブリエルですね。ガブリエルは一度負かせていますが、再度、負かせてやろうと思います」
「どうした?何か個人的にあるのか?」
「知り合いの女性に意地悪をしていたので」
なにせフィファが嫌がっている相手だ。
それにパルダビュー王子の取り巻きをしているのだから、どうせ「俺が強い」とか自慢しながら弱い者を苛めているかもしれない。
「駄目ですよ、グヤコールス君、君はこれから有名な剣術使いになるのです。感情に左右されるのはよろしくない」
べラック先生は私を柔らかい口調でやんわりと窘める。
べラック先生は私とガブリエルの因縁は理解しているので、その辺りを理解した上での諫言だった。
「すいません」
私はすぐに謝罪する。
今は感情的になるのは良くない。
「せっかくです。ガブリエルと言う子に君の実力を見せつけましょう。君が優勝して彼が二度と抵抗できないようにすればだけです」
べラック先生が何気無しに言う。
「そうだ、勝てばいい」
うんと頷きながらファートマン団長もべラック先生に同意する。
「そうですよね、実力を見せればいいんですよ」
確かにその通りだ。
勝って実力を見せてやればいい。
「勝ちます。勝って相手を戒めてやります」
私がそう答えると二人は満足な笑みを浮かべてくれた。
予選会の前日になった。
色々な予定が立て込んでいた上にお祖母様の予定ともうまく嚙み合わなかったのだが、昨日になって二人とも都合がついたので私はようやくお祖母様に面会する機会を得た。
その日の昼過ぎ、私はお祖母様の屋敷に伺った。
お祖母様の屋敷は王都の外れの小さな丘にあった。
久々にお会いするお祖母様は相変わらず品位のある慎ましい方だった。
あの時より髪の毛は白くなった部分が増えていたが相変わらずその姿は美しかった・
樹木や花壇に彩られた庭園の四阿に案内されたお祖母様は私を微笑みながら出迎えてくれた。
太陽の日差しが滞在する人に直接当たらないように作られた四阿は程良い温もりに包まれていた。
「あら、こんな大きな子は私の孫にいたかしら」
お祖母様は冗談ぽく穏やかに話しながら私に座るよう促してくれた。
「あれから6年になるかしら」
「はい」
「もうそんなになるのね」
お祖母様は口元を手で隠しながら笑う。
「それで剣術大会の方がどうなの?」
「なんとかなると思います」
「自信があるようね」
「勝つためにいますので」
「いい答えよ」
お祖母様は私の答えに満足する。
その後、私はお祖母様にこれまでのことを話した。
お祖母様に紹介して頂いたべラック先生の元で鍛錬を積み続けていることをまず伝えた。
そのたびに体の成長が自身の予想を超えて著しいものになったので家族が驚いていると話すとお祖母様も「可愛らしいあなたしか知らないからよ」と理由を教えてくれた。
また、ガブリエルの手合わせの件やエミーナのこと、フィファのことも伝えた。
お祖母様はその話を聞くと少し考え込んだ。
「どうしたんですか?」
「そう・・・これは時戻りの流れがあなたの意志で変わってきてるわね」
「はい、僕もそう感じています」
「ただ気になることがあります。あなたの意志が強いほどあなたと出会うはずの人たちと前倒しで出会うようになっているのね」
「確かにそうですね」
エミーナもガブリエルも確かに前倒しで出会っている。
「それにあなたの知らないところで時戻りを経験している人がいる可能性も見逃せない」
「フィファのことですね」
「ええ。でも、そうなるとエミールと言う子も時戻りの子の可能性もあるわ」
「でも、そんな風には感じませんでしたが」
「女性はあなたが思っている以上にしたたかなものよ」
それはどう意味なのか私にはわからない。
でも、お祖母様の視線ではそう見えている。
「お祖母様の経験から見てですか?」
「そうね、私もそれなりに色々と経験しているからあなたの話を聞いただけでも想像はできるわ」
お祖母様にそう言われると妙に説得力があって納得できる。
「あなたに出会うのも早ければあなたにアプローチをしているのも気になる。それだけでも怪しいし裏があるかもしれないわ」
「そうかもしれないですね」
「だからどんな時でも気を付けなさい。油断は禁物です」
「はい」
数多くの人生経験を積んでいるお祖母様の言葉には重みがあった。
その後、お祖母様の近況の話を聞いた。
お祖母様は私から時戻りの話を聞いた後、歴史書を読み出して時戻りの事を調べ始めたのだがその結果、この国の歴史に興味を持って小説を書き始めた。
すでにいくつかの作品を偽名で発表しておりそれなりの評価を得ているそうだ。
ただ、時戻りの話は小説の中で書いていない。
もし小説を読んだ時戻りの関係者がいて何かしらの反応を起こしてしまったら何が起こるかわからないと考えたからだ。
その辺りはお祖母らしい慎重さだった。
「それでね、あのブレスレットの件だけど私のお母さまの代から我が家にあったようなの」
「そうなのですか?」
「ええ。でも、購入先が少し気になって調べてみたわ」
「それは王都にないと言うことですか?」
「そうなの・・・」
お祖母様は右手を右頬に当てて考える仕草をした。
「外国と取引している交易商から買ったと商品書から書いていたのだけど、その交易商も廃業してわからなくなっているの」
「じゃあ、それ以上は追えないのですね」
「今のところわね。でも、その手に詳しい人を探しているから何かしら情報を手にできると思うの」
そう言うとお祖母様は立ち上がって私の側に歩むと私を優しく抱き締めてくれた。
「だからあなたはあなたのできることをしなさい」
「お祖母様・・・」
お祖母様が私の髪を優しく撫でてくれる。
胸元に顔を埋めながら私の胸が高まっていく。
「私はいつでもあなたの味方です」
私は無意識のうちにお祖母様に抱き付いた。
「あらあら、甘えたがりなのね」
お祖母様が髪を撫でながら笑っている。
「あなたは本当に可哀想な子。自分勝手な人たちの身勝手な行動で追い詰められて一度は死んでしまった。でも、あなたは時戻りで新しい人生を歩み機会を得たわ。そう、あなたは生まれ変わったの。だから好きに生きて運命に抗い続けなさい」
「・・・お祖母様」
私はよりお祖母様の胸元に顔を埋めていく。
「大丈夫よ。あなたは戦うことができる子。戦いなさい。どんなことがあっても戦い続けなさい」
「はい」
私はお祖母様の優しい温もりを感じているといつの間にか眠りについてしまった。
結局、私は目が覚ますまでお祖母様の膝の上で眠り続けた。
そして、私は剣術大会の当日を迎えた。
いよいよ本格的な時戻りへの抵抗が始まる。
その時、どんなことが起こるのか期待と不安が胸の中で交錯していた。
・グヤコールス・ペパリッチ
この物語の主人公です。
お祖母様の優しさに触れながらいよいよ剣術大会に参加します。
・ペラック・ベルドリッチ
主人公の剣術の師匠です。
今、一番頼りになる剣術使いです。
・ファートマン・ハイアムズ
近衛騎士団の団長でべラック先生の友人です。
とてもとても強い人です。
・ボヴァリー・ペパリッチ
グヤコールスの祖母です。
孫のグヤコールスの時戻りの秘密を調べています。
グヤコールス君にとって聖女のような存在になりつつあります。




