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第17話 14歳/王都

第17話となります。

ご意見ご感想などお待ちしております

私がべラック先生と共に王都に到着したのは7日後のことだった。


我がペパリッチ家の自領から王都へ向かうには騎乗して陸路での移動となる。


時間にして7日間の旅は変事もなく順当にこなすことができた。


王都はこの国でもっとも有名なロール川の下流沿岸にある大都市だ。


この王都の中は区分けされており中央にある王宮を囲むように市場や公共的な施設、住宅地などに分けられている。


例えば王宮の近くには政治の中枢となる議会や華やかな文化で彩られた美術館や博物館などが点在するし、そこから少し離れると経済的に裕福な貴族階級や騎士階級の移住地区や平民の暮らす集合住宅などがある。


王宮に続く巨大な大通りからもそこから枝分かれのように通りが出来ており、そこには多くの市場や商店が連なっている。


その様子を地方から来た者たちが見れば王都の繁栄やその大きさに驚くしかないだろうと思う。


だが、私は違っていた。


王都は忌む場所でしかなかった。


理由は明白だ。


私はここで理不尽に命を奪われたからだ。


王都の正面門をくぐり抜けると私は少し体に寒気が走った。


「大丈夫ですか?」


べラック先生が私を心配そうに見ている。


「嫌な事を思い出したようですね」


べラック先生は私の様子がおかしいと気付いているようだ。


「心配をかけてすいません」


そうは言うものの私の表情は曇ったままだ。


忘れることができるはずもない。


そんな私の気持ちを察してか、べラック先生もそれ以上は何も言わなかった。



私たちは兄のラヴェルが用意してくれたゲストハウスに滞在することになった。


剣術大会が行われるこの後、1週間前のことでありそれまでは旅の疲れを癒しながら大会に備えることになる。


「待っていたぞ」


ゲストハウスに到着すると兄が出迎えてくれた。


私の姿を見るなり、兄は私に抱擁してくれた。


「お前、また体が大きくなってないか?」


兄は私の腕を掴んだり、胸を触ったりしながら感心していた。


確かに私はまだ兄には劣るもののその体格はすでに兄に近いものになっていた。


でも、兄も負けてはいない。


兄は農業の勉強で鍬を打ったり農作業用の道具を鍛冶したりしているので体格が大きいのだ。


私などまだまだと言ったところだ。


「身長も俺を抜きそうだな」


「そうかな」


「謙遜するな。お前は成人するまでまだ時間があるんだ。これからも成長するぞ」


兄は私の成長した姿が嬉しいようだった。


ペパリッチ家の後継者である兄は自領を継がなければならないが、それまでに多くの勉学を学ばなければならない立場だ。


特に農業に従事し国の食料の一角を担うペパリッチ家の後継者になるとプレッシャーは半端ないものだろう。


自領の住民たちの生活も守らなければならない。


そんな責任を負う覚悟をしている兄は強い。


だからこそ時戻りの前の兄のことを思うとまだまだ信頼できない自分がそこにいた。


「そちらは?」


「僕の剣術の師匠のべラック先生だよ」


「ペラック・ベルドリッチです」


「あなたがべラック先生ですね」


兄はすぐにべラック先生に挨拶をすると両手で握手をした。


「弟がお世話になっています。どうでしょうか、うちの弟は?」


「グヤコールス君は素晴らしい才能の持ち主ですよ。私も鍛え甲斐があります」


べラック先生はしれっと話すのだから私は嬉しくなりながらも恥ずかしくなり照れてしまう。


褒められるのは満更ではない。


「そうですか。それは嬉しいです」


兄も満足している。


「では、今日の食事会の後に続きでも話しましょう。まずは長旅の疲れを癒して下さい。この後、客室係が案内しますのでお待ちを」


こうして私とべラック先生はそれぞれの部屋に案内された。


兄の手際の良さに私は感服したのは言うまでもない。


時戻りの前よりも兄は優しくなっていた。


いや、兄は私のことを認めている。


私の考えは無駄ではないと知ると安心する。


夕方になり、私たちは兄が企画した食事会に参加した。


参加者の多くは兄の知り合いだったが、皆が人柄や態度が気さくで親しみやすい方々だったので安心して食事をすることができた。


ちばみにこの国の食事会は主に何かしらのテーマの話をしながら職を嗜むのが多い。


今回の食事会も王都での話題が中心となっていた。


特に王都では王族の話が常に話題となるそうで、今回は王妃と側妃との派閥間争いも苛烈になってきており日和見をするのも大変だと兄は教えてくれた。


また、高等学園での授業内容な卒業生の進路なども兄は教えてくれた。


その一方で兄は婚約者候補を選び始めていると教えてくれた。


ただ、農業に従事する限りは華やかな王都での暮らしに慣れた令嬢を娶るのは忍びないので地方から候補を選んでいるそうだ。


「うちはいつも伴侶探しが大変な理由がわかったよ」


兄は苦笑しながらも将来を見据えて行動を起こしていた。


私はそんな兄の様子を見ながら、


・・・なるほど。こういうところでも情報収集をするのか。


時戻りの前の私はこのような食事会にあまり参加しなかったし誘われることもあまりなかった。


だからエミールのことも知ることが遅れたし、王族のこともパルダビュー王子のことも知らないことが多かった。


・・・そこは反省すべきことだな。


私は社交性に欠けていた過去の自分を恥じながら目の前にいる兄の対応力の高さに感服した。


今回はお祖母様と同じく兄を味方にしないといけないと思った。


いつか時戻りの話をしよう。


今の兄なら素直に受け入れてくれるかもしれないと。



翌日、私はべラック先生に連れられてある場所へ向かった。


べラック先生が案内したのはなんと近衛騎士団の駐在所だった。


「先生、ここって」


「はい、この国で一番有名で一番強い騎士団がいるところです」


べラック先生は何事もなく騎士団の衛兵に手紙を渡して誰かに取り次ぎを願った。


衛兵はべラック先生のことを知っているようで楽しそうに話をしながらすぐに目的の人物を呼びに行った。


「誰と会うんですか?」


「それはお楽しみですよ」


べラック先生が笑みを浮かべながら答える。


すると衛兵が戻ってきて私たちを応接室へ案内してくれた。


部屋に入るとしばらくすると大柄で茶色の短髪の男性が現れた。


べラック先生の頭を一つ抜いた身長で肩幅が広い。


・・・この人は強い。


私でも一目見ればわかる。


「よう、久し振りだな」


男性がざっくばらんにべラック先生に挨拶する。


「相変わらずのようですね」


べラック先生はそう言うと鞄の中からお酒を取り出した。


「ペパリッチ産の発泡酒です」


「これは助かる」


男性はまるでオモチャをもらった子供のような仕草でお酒を頰擦りしながら先生に感謝していた。


その様子に私は唖然とする。


「あとで騎士団の方にも馬車で届きますから皆さんにも伝えて下さい」


「おお、いいね」


べラック先生も男性の様子が楽しそうだ。


「うん?」


男性が私の存在に気付いた。


「彼は?」


男性は私を見た後、すぐにべラック先生に尋ねる。


「彼がグヤコールス・ペパリッチ君。私の弟子にしています」


「弟子だと!?」


男性は目を大きくして驚いた。


「お前、弟子がとれたのか?」


「失礼ですね。私はちゃんと弟子と育てることができますよ」


おやおやとべラック先生は笑みを浮かべて私を見る。


どうもべラック先生が弟子を取るのが男性にが珍しいことのようだった。


「グヤコールス君、挨拶を」


「は、はい」


私が立ち上がるとすぐに男性へ挨拶をする


「グヤコールス・ペパリッチです。宜しくお願いします」


私が挨拶をし終えると男性は「お、おう」と言いながら私を見て「話は本当だったのか」と頷いてた。


「グヤコールス君が挨拶したんだから君も挨拶をしないと」


「そうだったな」


男性が立ち上がる。


「私はファートマン・ハイアムズ。近衛騎士団の団長を務めている」


「団長!!」


私は驚きのあまりべラック先生を見る。


やはり先生はニヤニヤしている。


・・・私だって近衛騎士団の団長の名前は知っていますよ。


そう、ファートマン団長は歴代の騎士の中でもっとも有名で稀代の最強騎士と名高い方だ。


これまで幾多の戦場で敵と戦いそのたびに功績を挙げた。


特に有名なのでこの国に侵攻してきた蛮族との戦いと聞いている。


その戦いでは冬だと言うのに3つの蛮族が連合を組んで至る場所から侵攻してきた。


本来、蛮族は手を組むことはない。


ただこの時に蛮族の長は地頭が良かったそうで、密かに他の蛮族に密書を送り同盟を結ぶと示し合わせて侵攻を開始した。


後手に回ってしまった我が国だったが、そこで活躍したのが目の前にいるファートマン団長だった。


ファートマン団長は各基地に走り馬(伝令)を送ると同時にわずが50騎でまず最後に侵攻してきた蛮族の元に向かった。


侵攻間もない蛮族はまだ戦いに本腰ではなく略奪に精を出していたので、そこをファートマン団長は手勢と共に急襲した。


急なことに蛮族は攻撃に対応できず、しかもファートマン団長はそこにいた蛮族の族長を一刀両断で倒した。


その結果、1つ目の蛮族が頭目を失ったがために国境の外へ逃げ帰った。


ここでファートマン団長は休むことなく2番目に侵攻してきた蛮族の野営地へ向かった。


ここでは数の少なさを利として夜中に敵を急襲した。


いきなりの奇襲に蛮族は同士討ちさえ始めてしまい、最後にはまたファートマン団長は族長を一撃の元で葬り去った。


こちらもこの蛮族は国境の外へ逃げ帰った。


最後に残されたのは首謀者である蛮族のみだった。


彼らは周囲に斥候を放っていたため、ファートマン団長が2つの蛮族を敗退させた上に族長を倒したことを知っていた。


彼らは合戦に持ち込むために平野で陣を張ったし、騎士団の夜襲などにも対応できるよう斥候の数も増やしていた。


だが、ファートマン団長は驚くことに手勢を引き連れたままこの蛮族の前に堂々と現れた。


その後の話はとんでもなく凄かった。


ファートマン団長は大声で「我と戦う者はいないか!!」と叫んで蛮族を挑発した。


何度も蛮族の陣を歩きながら大声で挑発を繰り返すので、ついに蛮族の中から腕に自信がある戦士が現れるとファートマン団長に挑んでいった。


そこからはファートマン団長の無双が始まる。


この戦いを目撃した者の証言ではこう書かれていた。


最初に現れた蛮族の戦士をまず団長に向けて槍を投げた。


この槍をファートマン団長はまさかの右手で槍を捕捉するとそのまま相手に向けて投げ返したそうだ。


凄まじい勢いで投げ込まれた槍は蛮族の戦士の胸を貫いて相手は絶命したそうだ。


これが伝説の始まりとなった。


この戦いを合図に次々とに現れる戦士たちはファートマン団長はに挑んでいった。


だが、相手が剣や槍で団長に挑もうとするたびに団長のランスで倒された。


半日後、ファートマン団長の前には無数の亡骸が転がっていた。


この様子を見た蛮族の族長は無言のままこの国から撤退をした。


その時、ファートマン団長の顔には一切の斬り傷はなかったそうだ。


つまり、敵の攻撃が当たる前に倒している証拠だ。


それほどまでにファートマン団長は強かった。


この蛮族の戦いの後、ファートマン団長の名声は各国にも広まり今では剣術使いだけでない、騎士になろうとする者たちの憧れにもなっていた。


「そんな方と会うなら一言あっても良かったと思います」


「いえいえ、君がどんな反応をするか知りたかったので」


先生は私の態度を見て満足そうにしている。


・・・先生は何を考えているんですか?


私は困惑してしまう。


そんな私の様子を見てファートマン団長が助け舟を出してくれた。


「実はべラックとは昔からの剣術仲間でね、こうして時々王都に来てもらってはうちの団員たちを鍛えてもらっている」


つまり、べラック先生は騎士団長様と友人関係だと言うことだ。


私がさらに頬が引き攣った。


やはりべラック先生はとんでもない人なのだ。


「そうなんですね」


私は冷静を装うしかなかった。


「それで今回は何が用があるのだろう?」


ファートマンさんはべラック先生に今回の目的を尋ねる。


それは確かに気になるだろう。


べラック先生はすぐにファートマン団長の質問にこう答えた。


「1週間後に行われる剣術大会にグヤコールス君を参加させるのですが、ここの訓練場を借りたいんです」


「なんだ、そんなことか。いいぞ、好きに使え」


ファートマン団長は有無もなく訓練所の使用を認めた。


「明日から使えるよう準備してやる。その代わり、二人の練習をうちの団員たちが見学するのを認めてくれ」


「構いませんよ」


べラック先生も素直に承諾した。



翌日、ファートマン団長はさっそく訓練所を用意してくれた。


訓練所に行くと団員たちが私たちの訓練を見ようと駆け付けていた。


その中に一人の騎士、ジャスティンさんと言う騎士の方が代表として私たちに挨拶をしてきた。


「べラック先生、お久し振りです」


「やあ、皆さん元気そうで何よりです」


「隣の彼は先生のお弟子さんですか?」


「そうです、皆さんにご挨拶を」


「グヤコールス・ペパリッチです」


私は頭を下げる。


「もしかして、ボヴァリー様のお孫さんですか?」


ここでまさかのお祖母様のお名前が出るとは思いもしなかった。


「お祖母様をご存じなのですか?」


「ご存じも何も我々はボヴァリー様にお世話になった身です」


「ボヴァリー様は我々にとって女神のような方ですので」


「違うだろう、聖女と言うべきだ」


「いやいや・・・」


と、何故かお祖母様の話題で盛り上がる。


べラック先生もそうだけど、お祖母様も何者なのか知りたくなる。


「グヤコールス君」


私がいつものように訓練用の鉄の棒を用意すると、ジャスティンさんたちが私に声をかけてきた。


「それは?」


「訓練用の棒です」


「ちょっと見せてもらっていいかい?」


「はい」


私はジャスティンさんに訓練用の棒を渡した。


「これは重いな」


ジャスティンさんは物珍しそうに訓練用の棒を持ちながら感触を確かめると近くにいた別の騎士に訓練用の棒を渡した。


「そうですね」


その騎士も棒を上下に動かしながら重量を確かめていた。


「俺もいいですか?」


そこからは団員の方々は訓練用の棒を代わり代わり各々手にする。


「おいおい、ぎっしりしてるんじゃないか」


「どれどれ」


騎士の方々はその重さと感触を楽しむかもように私の鉄の棒を手にして振り回したりした。


そのたびに彼らはその重さに驚いていた。


一方で私も彼らが軽々と鉄の棒を振ることに驚いていた。


それも片手で易々と振るのだから騎士団の実力は凄いのだと思った。


「これはいつから使っているんだい?」


「去年からです。それまでは木の棒を使用していました」


「いや、これは驚いた」


騎士団の団員たちは口々に感心してくれた。


「いつもどんな訓練をするんだ?」


「そうですね、鉄の棒を300回素振りしてからべラック先生が構えた場所に鉄の棒へ打ち込むのが300回ですね」


「はぁ!?」


ジャスティンさんがびっくりしていた。


「おかしいですか?」


私にはいつもの練習なので別段普通なのだが。


「おかしいも何も普通は君の年齢ではそこまでやらないし、そもそもやれるはずがないんだ」


「えっ?」


私は自分の練習量を自覚していなかったようだ。


「だから君はそれを当たり前のようにこなしていることが我々には信じられないんだ」


そう言うとジャスティンさんはべラック先生に目を向ける。


「べラック先生。この子にはいつから稽古をつけているんですか?」


「彼が十歳の頃からですね」


「まだ幼少期じゃないですか」


「彼から入門したので私のせいではありませんよ」


あっけらんと答えるべラック先生にジャスティンさんたちも呆れていた。


「この子は将来、どうなるんですかね?」


「いっそ、うちに勧誘しましょうよ」


「俺の部下にするのはお断りだわ」


団員たちが口々に私のことを話す中で、べラック先生は「じゃあ、始めましょう」と私に合図してきた。


私はいつものように訓練を始めた。


団員たちも私と同じように素振りを始めたり打ち込むをしたりしてべラック先生の鍛錬に自由気ままに参加していた。


「おいおい、なんぜ大規模な訓練になってるんだよ」


訓練所を訪れたファートマン団長はその様子に呆れてしまっていた。


そんな彼もこの訓練に自然と参加して汗を流していた。


・・・なんか温かい。


私の心は晴れやかになっていた。


王都を訪れた時のあの嫌な気持ちもいつしか消えていた。


きっとべラック先生が私に気を使ってくれたのだと思う。


べラック先生は本当に優しい。


私はべラック先生に感謝するのみだった。

〇登場人物


・グヤコールス・ペパリッチ

この物語の主人公です。

嫌な思い出のある王都で兄と再会したり近衛騎士団の人々と出会いました。

やっと騎士団の団員から自分の実力を知りました。


・ペラック・ベルドリッチ


主人公の剣術の師匠です。

近衛騎士団にも顔が広いので相当な有名人のようです。

今、一番頼りになる剣術使いです。


ファートマン・ハイアムズ

近衛騎士団の団長でべラック先生の友人です。

とてもとても強い人です。


近衛騎士団の団員たち

皆さん、気持ちのいい人ばかりです。

べラック先生やボヴァリー様を慕っています。


ラヴェル・ペパリッチ

主人公の兄です。

しっかり者の兄でグヤコールスを気をかけてくれています。

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