第19話 14歳/初陣
第19話となります。
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大会初日を迎えた私はべラック先生と共に大会の受付会場となる中央広場に向かった。
中央広場に到着するとすでに多くの参加者が受付に並んでおり、中には興奮状態で口喧嘩をしたり押し問答をしたりと騒がしい様相を呈していた。
「あれは成人の部ですね。相変わらず血の気が多いですね」
「いつもあんな感じなんですか?」
「ええ。自分の腕に自信があると無駄に相手にアピールしたくなるのです」
「自分勝手な子供みたいですね」
「ああ言う輩は所詮3流の剣術使いにしかなれないのですよ」
べラック先生は苦笑しながら私を連れて目的の場所へ向かう。
私の参加する青年の部の受付は広場の奥にあった。
そこで私は受付で参加登録を済ませると受付の人からエントリーナンバーを受け取った。
私のナンバーは39番でグループは6組目になる。
「数字などあまり意味がないのですがね」
べラック先生としては剣術は数字に左右されることないと考えている。
世間で言う縁起の悪い数字=忌み数は<4・13・17・39>だが、実際にその数字で不幸に見舞われたことは少なく、要するに忌み数は気の持ち方であり剣術には関係ない。
「さて、あそこにあなたを睨んでいるのがガブリエルと言う子ですかね?」
べラック先生が目で私の後ろを差した。
私が振り返るとそこには見覚えのある男の姿があった。
あれはガブリエルだ。
久々に見たガブリエルは相当恨みを溜め込んでいたのだろう、私を尊大に睨んでいた。
その周りには友人たちがいて私の姿を見て笑っている。
「ええ、ガブリエルです」
私はガブリエルの姿を認めた。
相変わらず自己中心的な態度だ。
そう言うところだぞ、だからフィファがお前を嫌うのは。
私は心の中でガブリエルに呟いた。
「殺気だけが先行してますね。あれでは予選も厳しいかもしれません」
べラック先生がそう言った瞬間、ガブリエルが慌てて視線を逸らしながらその場から逃げ出した。
そればかりか周りの友人たちもその場から離れていった。
「ほら、私が見ただけで逃げましたよ」
「先生、睨みました?」
「何を言っていますか、私はただ彼を見ただけです」
いや、どう見ても違うでしょう。
べラック先生が一流の剣術使いならではの威圧感をガブリエルたちに浴びせたのは確かだ。
べラック先生の圧は鍛錬中に経験したことがあるが、あの威圧感は実戦を場慣れしていない者なら誰もが恐怖で慄いてしまう。
その圧力に負けてしまったガブリエルたちが耐え切れずにその場から逃げ出すのは当然だ。
「では、予選会場に向かいましょう」
「はい」
私はべラック先生の強さを改めて納得しながら青年の部がある会場へ足を運んだ。
会場に入ると係員に案内されて私はすぐに予選のグループへ移動した。
ここからは私一人になる。
べラック先生は「では、私は試合場で待っています」と言い私と別れた。
参加者たちはグループごとに整列していた。
6番グループの私は背が高い方なので後方にに並ばされた。
・・・どんな人がいるのかな。
私は周囲の様子を確認する。
そこには私と同年代の人たちがいた。
誰もがまだ子供っぽさや幼さが残っており剣術使いの特徴である肩幅の広さも大きくはない。
このメンバーだとそれほど鍛錬を積んでいないと知る。
簡単に言えば上流貴族の嗜み程度の剣術士か習っていない。
この手の人たちは実戦経験はないに等しい。
では、他に誰か強そうな人はいないか?
私は周囲を見回す。
すると奥の組にはガブリエルの姿を見つけた。
私の視線に気付いた彼は相変わらず睨んできていた。
さすがガブリエルだ。
こういう時は立ち直るのが早い。
しかし、よくよく見るとガブリエルは身長は私より高いが肩幅がそれほどでもない。
それが鍛錬の度合いの違いを現わしていた。
ガブリエルも貴族階級しか相手にしない剣術道場に通っているのだろう。
本当に強くなったのも疑問に思ってしまう。
だが、それよりも気になる人を見つけた。
ガブリエルから視線を外して他に誰かいないか探した時、別のグループに他の参加者とは全く雰囲気の違う人がいた。
背は私ほどだが体格に見合わない肩幅の広い。
もっとも特徴的なのは背中まで伸びた長い髪だ。
髪は束ねられているが、それが中性的な感じを醸し出している。
もしかしてあれがグライシン・フェネシン?
彼は私の視線に気付いておらず、同じグループの参加者と談笑をしていた。
彼も強いのかどうかこの段階ではわからない。
まだまだ情報が足りないが、予選さえ突破すればその姿が見えてくるはずだ。
会場の準備が終わったようでようやく青年の部の予選会が開始された。
私たち6組グループは広場に用意された場所へ移動した。
そこには正方形の形をした試合場が設けられており、土質材料を固めて砂を撒いた赤い色した地面が板張りのように整理されていた。
しばらくして初老の男性、試合の立会人がやってきた。
「では、これより試合を開始します。こちらで用意した藁を束ねて作った剣を使用してもらいます。当たっても痛くないので大丈夫です」
そう言うと立会人の人は私たちに一人ずつ丁寧に藁の剣を渡す。
「皆さんの身長や体格に合わせて藁の剣を渡しています、後は各々が慣れるようにして下さい」
なるほどと思った。
私たちは剣術を嗜む限りは手持ちの武器がなければどんな状況でも手にできる武器を使わないといけない。
今回は怪我をしないように藁の剣を体格に合わせているが、その後は自分の感覚で戦えと暗に言っている。
おそらく戦い続けると手にマメができたとしても、それは武器を使いこなせないのが原因なので自己責任を負えと言う意味だと私は理解した。
・・・べラック先生がこの大会を薦めたのも納得だ。
私は感心しながら立会人から渡された藁の剣を軽く振る。
軽いな。
これはあまりに軽すぎるよ。
これだと私が戦うのが不利かな。
私は何度も藁の剣を振り重さを確認する。
いつも使用している剣と比べると雲泥の差だ。
私はこの状況をどうするか冷静に考えてみる。
このまま藁の剣を振ったとて、相手より先に攻撃をできるが・・・それだと逆に態勢を悪くして反撃を受けるかもしれない。
そうだな・・・こうするか。
私は藁の剣を相手に対して受け身で対応することを選んだ。
6組グループの試合が始まった。
最初の組は三分間の時間を示す砂時計の砂が落ち切る前に試合が決着がついた。
続けての試合も砂時計が往復する前に終わった。
そうなるといよいよ自分の番になった。
私は立会人に呼ばれて試合場へ向かう。
最初の対戦相手はイスタッチと言う名の青年だ。
やせ型の体格で肩幅は広くないが腕の力具合を見れば筋肉質のような感じがある。
気負い過ぎているのか私の前で藁の剣を振り回していた。
なんか気負っているな。
私は冷静に相手を見ている。
「始め!」
立会人の掛け声と共に試合が始まった。
ついに始まった。
これが私の運命に抗う最初の一歩となる。
私の両手にも自然と力が入りグリップからミシミシと音がする。
私はいつもように剣身を上段に構える。
べラック先生直伝の剣術の構えだ。
だが、私は最初から相手に攻撃をするつもりはない。
まず、相手に打たせること。
これは自分が決めたことだ、
さっそく対戦相手は私に向かって突進してきた。
剣も上段から一気に振り下ろす形となり、私の頭に向かって剣が進んできた。
私は剣身でその攻撃を受け止めると一気に押し戻した。
「うわぁ!」
私の押し戻しに耐えきれず対戦相手は地面に尻餅をついた。
・・・弱い。
まだ打ち込みに慣れていないのが一目で分かった。
私は再び構えを戻すと相手の出方を待つ。
対戦相手は「あれ?」と言いながらすぐに立ち上がるとまた同じように私に向かって突進してきた。
だが、今度も私は相手の攻撃を受け止めるとまた力の限り押し戻した。
今度は対戦相手は試合場の外まで吹き飛ばされた。
これには周囲にいた人々も驚いていた。
完全に打ち込みが慣れていないとこうなるのかと私も知った。
これが何度も繰り返されるとさすがに対戦相手も私への攻撃が止まってしまった。
彼も何度やっても私に跳ね返されると分かってくれた。
では、こちらの番。
私はゆっくりとすり足で対戦相手に近寄る。
相手が私の圧で後ろへ下がった瞬間、私は一気に駆け寄った。
私の動きの速さに対戦相手は何も動くことができない。
そこへ私は彼の胴部分へ剣を薙ぎった。
乾いた叩いた音と共に、私は対戦相手の横を駆け抜けていった。
あまりの速さに対戦相手も茫然自失になって動かない。
周囲の人々も「なんだあれは」とか「年相応の動きじゃないぞ」と言った声が聞こえた。
「そこまで!」
立会人が手を挙げた。
「勝者はグヤコールス!」
呆気なく私は勝利をした。
私はべラック先生を見る。
べラック先生は満足な笑みを浮かべながら頷いて応じてくれた。
この後、私はグループの対戦相手に対して圧倒的に勝利を収め続けた。
一方的と言っていい。
最初の対戦相手と同じように私は相手の攻撃を受け止めながら、相手が弱ったところで一気に反撃に転じて一撃で葬ることで勝利を続けた。
そうなると途中からは棄権をする者もいたので私はほぼ不戦勝で決勝トーナメントへ進出を決めた。
「言ったでしょ、君は強いんだ」
「案外、みんな打ち込みしてないんですね」
「それはそうでしょう、私の鍛錬は実戦向けです。そこいらの生ぬるい剣術とは違いますから」
べラック先生は自信満々で答える辺り、自分の剣術に対する矜持があると思う。
「さて、あなたが勝てばライバルたちの動きが気になりますね」
確かにべラック先生の言う通りだ。
まずはガブリエルの状況だが彼も予選を突破していた。
私とべラック先生は彼の戦いを見てみたが相変わらず若さゆえの力任せの戦い方で防御など関係ないと言ったところだ。
「あれだと最後まで持ちませんね」
べラック先生が首を横に振る。
やはりべラック先生にはガブリエルの習う剣術が未熟なのだろう。
「私としてはもう一人の彼の剣術が気になります」
そう、その一人こそグライシン・フェネシンだった。
グライシン・フェネシンも予選を突破した。
運良く彼の試合を見ることができたが、その剣術はこれまで見た事もない戦い方だった。
まず、構え方が違っていた。
グライシン・フェネシンは藁の剣を両手で握るとそのまま右下に剣先を向けて構えた。
重心はしっかりと両脚で支えられており、どんな体制からでも打ち込めるように動けるようになっていた。
対戦相手が突きでグライシン・フェネシンを攻撃したが、その動きは一瞬にして躱されると地面から這うように剣の軌道が上昇して対戦相手の剣を吹き飛ばした。
「勝者、グライシン・フェネシン!」
立会人の声が試合場に響き渡る。
「うん、素晴らしい。あれも実線向けですね。隣国で見た事がありますが久々に見ると隙がありません」
「はい」
「もし君ならあの構えからどう攻撃しますか?」
「とにかく先に相手に攻撃させます」
「それはどうしてですか?」
「僕が攻撃したら下手をすると避けられてしまい、そのまま側面から反撃を喰らう可能性があります」
「そうですね。彼の動きは剣先を見切ってから少ない動きで避ける。上半身だけで避けていたのもそう言うことでしょう」
確かにグライシン・フェネシンは相手の突きを僅かな動きで躱していた。
グライシン・フェネシンは動体視力が良いとわかる。
「相手が動かない場合はどうしますか?」
「動きまで待ちます」
「なるほど。でも、長時間になった場合はどうしますか?」
「我慢比べですね」
「いいですね。ただ、戦場ではそんな余裕はありません」
そう、そこが問題だ。
べラック先生の剣術は実戦向けの剣術。
実戦向けの戦いに待つと言うことは許されない。
そして、べラック先生の意図もすぐに理解できた。
「じゃあ、彼と戦う前に答えを出なさいといけないんですね」
「その通りです。これは宿題です。あと3日はあります。その間に考えなさい。難しい宿題ですがあなたなら答えが出せるでしょう」
私が頷くのみだ。
すべてのグループの予選会が終わり、係員が今後の予定を伝える。
係員は決勝トーナメントのくじ引きは当日になると言い、それまでは各々決勝トーナメントに備えるように言うとその場で解散となった。
「久しぶりだな」
ガブリエルが私に声をかけてきた。
待ちに待ったのだろう、私に近寄るとニヤニヤと笑ってきた。
相変わらず気の触る態度だ。
「お前も決勝トーナメントに進出したんだな。運が良かったな」
ガブリエルが言うと周囲の者たちも笑った。
「そうだな」
「それでお前、予選はどうだった?」
「どうだったって何が?」
「成績だよ!俺は4勝2敗で勝ち抜けだぞ。どうだ、すごいだろう?」
ガブリエルが自信満々に話す。
「お前はどうなんだよ?」
「僕は全勝」
「ぜ、全勝!?」
ガブリエルの声が驚きで上擦んだ。
「嘘だろ!そんな訳ないだろ!」
ガブリエルが周囲の目など関係なく大声を上げる。
私は成績表をガブリエルに渡した。
ガブリエルは成績表を見て「うっうそだろ・・・」と呟いた。
私の成績が予想もしていなかったのだろう。
その辺りもガブリエルの傲慢な態度の表れだった。
「うち2戦は不戦勝で相手が辞退ってなん・・・だよ、それ・・・」
ガブリエルは私の話を聞いて意気消沈した。
彼の友人たちも同様だった。
ある者は口をポカーンと開けていた。
そんなに驚くことはないだろう、お前。
「じゃ、失礼するね」
私はガブリエルから成績表を強引に取り返すとそのまま会場から退散した。
「ちょっ!?」
「三日後に会おう」
ガブリエルをこれ以上相手にせず、私はさっさとその場から離れた。
会場の外ではべラック先生が待ってくれていた。
「遅かったですね」
「ガブリエルに絡まれてました」
「彼も相変わらずと言ったところですか?」
「はい」
人はなかなか変わらないものだと思う。
ガブリエルはとにかくフィファの心を取り戻したい。
でも、そんな性格だと永遠に彼女の心が取り戻せるはずもない。
まだまだガブリエルは子供と言ったところだ。
「では、帰りましょう」
「はい」
こうして私たちは中央広場を後にした。
私の初陣は問題なく終わった。
まずは予選は突破した。
幸先の良い展開であり、次は決勝トーナメントとなる。
ここからが本番だ。
私の意識はグライシン・フェネシンにある。
彼とは必ずどこかで対戦する。
その時、どう攻略するのか。
べラック先生から与えられた宿題を持ち帰った私はただただその事のみ考え続けるのだった。
〇登場人物
・グヤコールス・ペパリッチ
この物語の主人公です。
剣術大会の予選を難なく突破しました。
決勝トーナメントで順当にいけば対戦するグライシン・フェネシンの攻略法を考え中です。
・ペラック・ベルドリッチ
主人公の剣術の師匠です。
今、一番頼りになる剣術使いです。
主人公にグライシン・フェネシンの攻略法を考えるよう宿題を出します。
・ガブリエル・スプリンゴラ
主人公を目の敵にしています。
彼も剣術大会に参加して予選を突破しています。
相変わらず性格が悪いです。
・グライシン・フェネシン
隣国の青年。中性的で男女問わず人気があります。
べラック先生から見ても強い剣術使いです




