第15話 フィファレス・ローランズの話/その3
第15話となります。
ご意見ご感想などお待ちしております。
私は12歳の頃に戻っていた。
私が自死を選んでから計算をすれば8年も前に戻っていたことになる。
・・・確か中等学園に入学した時ね。
そうなると何故、神様は私を8年の前に戻したのかを知りたくなる。
その理由はすぐに浮かばなかったが一つ言えるとすれば神様は私を救ってくれた。
この事実を知った私は神様に素直に感謝した。
時が戻った後、私が最初にしたことは状況の把握に努めることだった。
まず、家族関係がどうか様子を見ることにした。
もしかしたら何か家族に変化が訪れているかもしれないと言う不安があった。
でも、両親や兄妹は何も変わっていなかった。
いつもの優しくて暖かい家族だったことが嬉しくなり、最初の食事の時には私は感情が抑えきれず涙を流してしまい家族に心配をかけてしまった。
そして、私のことを心配してくれた母が「大丈夫かしら?」と私のことを心配してくれた。
その夜は私は母と一緒に眠ることになった。
母は昔聞かせてくれた子守歌を歌いながら私の背中を優しく撫でてくれた。
そのおかげで私は母の胸の中で赤ん坊のように眠ることができた。
懐かしいこの温もりを私は感じながら。
だからこそ、家族の愛情を守ろうと改めて決意した。
次に私がしたのは時を戻った原因を調べることだった。
私は中等学園の図書館に通い始めた。
そこで何か資料がないか調べたが何も見つからなかった。
・・・どうしようかしら。
私が次の手段を考えて悩んでいると「おい」と私に声をかけてきた少年がいた。
私は声の方に視線を向けるとそこには今、一番会いたくない人がいた。
それは前世で婚約者だったガブリエル・スプリンゴラだった。
ガブリエルは不機嫌な表情を浮かべながら私に近付いてきて「何してるんだ」と尋ねてきた。
・・・なんか前より態度が悪くない?
ガブリエルの態度に私は不快になる。
「なんだよ」
何も答えようとしない私にガブリエルは苛ついている。
そんな態度を見ていると私はもっと不快になってしまう。
「答えろよ」
ガブリエルが睨み付けながら私に詰め寄る。
「図書館にいましたが何か?」
私はそう答えながらガブリエルを睨み返す。
まさか私に反抗されると思わなかったのだろう。
ガブリエルは「そ、そうなのか」とうわずった声になる。
「何もないなら失礼します」
私はそう言うとその場から離れようとした。
「ちょっと待てよ」
後ろからガブリエルが私に声をかけてきたが私は無視してやった。
とにかくこいつとは顔を合わせたくなかった。
するとガブリエルが予想もしない行動に出た。
ガブリエルは私の両親に昨日の件を伝えてきたのだ。
ガブリエルは私の態度が冷たかったので何かしたかもしれないと不安になったのだろう。
そもそもお前が原因だろと私は心の中で毒を吐いてしまう。
私は両親に呼び出されると昨日のガブリエルとの事を聞かれたので素直に答えた。
「私は何もしていません。いつものように挨拶をして会話をしただけです」
「でも、ガブリエル君はあなたを怒らせたかと思っているわ」
「怒ってはいません。考え事をしていただけです」
私は嘘をついてはいない。
むしろあいつの方が嘘をついていると思っている。
「もし心配なら大丈夫だと伝えて下さい。私は怒っていませんと」
結局、私の両親はガブリエルにそのように伝えてくれた。
ガブリエルも納得したようでそれ以上は何も事を起こさなかった。
・・・まさか私の両親にそんなことを言ってくるなんて。
私としてはガブリエルの態度に呆れてしまった。
私の態度が冷たかったと思っただけで自分の親を通じて私の両親に不安になって尋ねてきたことが信じられなかった。
なんて打たれ弱いのか。
こんな男が後に婚約者になるのかと思うと鼻で笑うしかない。
この後、私はガブリエルの人となり見ることにした。
その結果は最悪なものだった。
ガブリエルは時戻りよりも性格が悪くなっていた。
自分が気にいらない者たちには悪意を持ってひどい仕打ちをしたり辛く当たったりしていた。
私に対してもそうだった。
ガブリエルはあの後も私に絡んできては「女は勉強をするな!」とか「もっと可愛いドレスを着ろよ」と言ってくるが私がすべて無視してやった。
なんでお前の言う通りにしないといけない。
私が素直に言うことを聞くと思うな。
私の拒否はガブリエルには茫然自失にさせた。
するとあいつは今度は暴力で抑えつけようとした。
私を突き飛ばしたり足をかけたりと子供じみたことをやってきたが、私もすべて何も気にしないようにした。
ガブリエルはついに私の頭を叩いた。
だから私はわざと大声で泣きながら「痛いよ!!」と周囲に向けて叫んでやった。
「ば、ばか!」
ガブリエルは私を泣き止ませそうとするが私はさらに大声で泣いた。
周囲に人だかりができると他の生徒が呼んでくれたのだろう、誰かが先生を呼んでガブリエルを職員室へ連れて行った。
結局、ガブリエルは私の泣かせたことで親に怒られることになった。
当然の結果だ。
私、いいえ、女の子を暴力で泣かせた。
誰の目から見ても許しがたい行為だ。
ガブリエルは1週間の謹慎の後、自身の親に連れられて私の元を訪れると涙を流しながら謝罪をした。
「謝罪を受け入れます」
私はわざと母に抱き付きたままガブリエルの謝罪を受け入れた。
それ以降、ガブリエルは私に絡むことが極端に減った。
これで余裕を持って時が戻った原因を調べることができるようになった。
私は時が戻った原因を調べるため、今度は教会にいる神父様に尋ねることにした。
神父様にはいつもお世話になっていたので話しやすいこともあったし、神父様は物知りなので何か良い話が聞けるのではと期待した。
もちろん自然な話の流れで私の秘密がばれないように話をした。
すると神父様は私に<時戻り>の話をしてくれた。
「人は何かしらのきっかけで過去に経験した時間に戻ることがあると言います。これを<時戻り>と言います。実際に教会の記録には実例として書物に残っています」
「そんなことがあるのですか?」
私は思わず声を上げてしまった。
「はい。実際に私も先輩方からその話を聞いたことがあります」
神父様は続ける。
「先輩の話ではある子供が大人の時から戻って来たと言うのです。最初は誰も信じなかったのですがその子供が来年のある時期に隕石が落ちると予言してそれが現実となったのです。その後も天災を予言して当たるので教会としては子供の話を認めるしかなかったそうです」
「その子供はどうなったのでしょうか?」
「その子供は失踪していなくなってしまいました。教会もその子供を探しましたが結局はどこへ行ったか不明のままで見つかることはありませんでした」
神父様は悲しそうな表情を浮かべながら語ってくれた。
この話の子供のことも気になったが、私は神父様の話を聞いて妙に納得した。
この話の子供のように私も時戻りの部類に入ることになる。
となれば、私はある推測をする。
・・・もしかしたら私と同じ<時戻り>がいるかもしれない。
私は部屋に戻ると時戻りの可能性がある人物を考え始めた。
まず、ガブリエル。
あいつを見る限り、時戻りの様子は見られない。
あいつはただ性格が悪くなっただけの子供だ。
次にエミーナ嬢。
彼女はまだ会ってはいないので私は友人経由で色々と聞き込みをしてみた。
エミーナ嬢は前世と違い剣術を習っていると聞いたが時戻りかどうかははっきりさせることができなかった。
そして、グヤコールス君。
彼は確実に時が戻っていると私は思った。
彼もエミーナ嬢と剣術を習っていたが、入門先がペラック・ベルドリッチ氏だと知ると私はすぐに彼が前世から戻ったと気付いた。
前世のグヤコールス君は武術がまったく駄目な人だった。
むしろ彼は文官タイプであり体も細くて運動神経が良くなかったことを覚えていた。
きっと女装をすれば似合うだろうと言った感じだ。
その彼は弟子がすぐに辞める事で有名なペラック・ベルドリッチ氏に入門している。
私は密かにグヤコールス君の様子を見に行った。
驚いたことにペラック・ベルドリッチ氏の体は前世と全く違っていた。
身長は高くて胸元や両腕が鍛えられていた。
そこには前世の彼の姿ではなかった。
・・・凄いわ。
私は思わずグヤコールス君の姿に見惚れてしまった。
そして、彼が一心不乱に木の棒を振り続ける姿を見て私はより確信した。
彼は確実に時が戻っている。
彼も運命から逃れるために生きているのだと。
一方で私の心はグヤコールス君の姿に奪われてしまっていた。
一目ぼれと言うものかもしれない。
だから、私はグヤコールス君にわからないように時々、彼の姿を追うことにした。
そんな私の様子を気に食わないのはガブリエルだった。
あいつは私がグヤコールス君の様子を見ていることを知った。
どうやら私を密かに尾行していたらしい。
なるべくガブリエルにばれないようにしていたが、私の付き合いが悪くなったことであいつは私の様子を伺っていた。
ガブリエルは私に「あいつが好きなのかよ!」と詰め寄ってきた。
私はどう答えようと考えたが、ここで私はあいつの気持ちを逆手にとってやろうと考えた。
あいつは剣術を教えている騎士が忖度で手加減をしているのに自分が強いと勝手に思っていた。
だから、グヤコールス君の名前を出してやった。
彼は学園の中ですでに有名人だったので、あいつにとっては許しがたい存在だった。
だからグヤコールス君には申し訳ないがここで利用させてもらうことにした。
これで時が戻ったか知ることができる。
「だって、グヤコールス君がカッコいいから」
そう言えばあいつは勝手に動くと思った。
私の予想通りにあいつはグヤコールス君に剣術の手合わせをしたいと申し出た。
するとガブリエルの話を聞いたグヤコールス君は「いいよ。相手になるよ」とあいつとの手合わせを受けて立った。
結果は予想通りだった。
グヤコールス君はあいつを倒してくれた。
しかもあいつの高慢で気位高い自尊心を見事に叩き折ってくれた。
本当にいい気味だと思うと私は満足した。
ガブリエルは部屋に引き籠ったまま外へ出なくなった。
グヤコールス君に負けたことが相当堪えたようだ。
私はあえてあいつの見舞いと称してお見舞いに行った。
あいつの落ちぶれた姿を見てやろうと思った。
だが、あいつは私に会おうとしなかった。
執事から「会いたくない」と言われた時、私はあいつの心の弱さにいい気味だと思った。
そして、あいつは私やグヤコールス君から逃げるように王都へ転校した。
しかも私を無視して。
・・・これであいつとの婚約を解消する理由を得たわ。
私はすぐに両親にガブリエルとの婚約を解消して欲しいと願い出た。
父はあいつの失態に思うところがあったようで、スプリンゴラ家との話し合いを進めてくれた。
しかし、先方はなかなか婚約解消の話を認めてくれなかった。
父が言うにはスプリンゴラ家としてはローランズ家との繋がりを失いたくないのがその理由で保留でもいいのでもう少し猶予が欲しいとのことで父も今回だけはと言うことで傍観に徹することにした。
正直、私としては納得できないが父の様子を見れば婚約解消はいつでもできる感じに思えた。
だから、さらにあいつに痛撃を加えることにした。
それは父に「グヤコールス・ペパリッチ君を婚約者候補にしたい」と願い出たことだ。
ガブリエルが嫌う彼が私の婚約者になれば一体どうなるかと思ると私としては良い考えだと思った。
とにかくガブリエルを徹底的に潰しておきたかった。
私も相当にひねくれてしまっていた。
そこには私は前世のように死ぬのが嫌だと言う意味が大きかった。
父は私の提案にしばらく考えたがペパリッチ家と繋がることも一考すべきかと言うと私の提案に賛成してくれた。
私にはまだやることがあった。
私はグヤコールス君に密かに手紙を送った。
<お前の秘密を知っている>
いよいよ私はグヤコールス君と接触することになる。
彼がどんな態度を取るか、私は胸の鼓動を感じながらその時が来るのを待った。
次の話数でフィファの話は終わり、第17話から本編に戻ります。
フィファのひねくれ具合はまだまだ続きます。




