第14話 フィファレス・ローランズの話/その2
第14話となります。
ご意見ご感想などお待ちしております。
衛兵に拘束された私の前ではパーティー会場は大混乱に陥っていた。
ガブリエルは「何故ですか!」と呼びながら王子に近寄ろうとした。
だが、王子の身を案じた衛兵たちに彼の抵抗がなくなるまで体中を殴打した。
王子の後ろに控えていた取り巻きたちもガブリエルのように衛兵たちに拘束されていた。
「お待ち下さい!」
「悪いのはガブリエルです!」
「私たちは関係ありません!」
彼らはも口々に他人へ責任転嫁をしていたが、衛兵たちはお構いなしに王子の命に従った。
彼らも衛兵たちに瞬く間に拘束された。
その近くではエミーナ嬢はその場に蹲って泣いていた。
「わたし・・・そんなつもりじゃ・・・」
彼女からは謝罪の言葉が何度も繰り返し聞こえた。
その相手がグヤコールス君だと私は知る。
やがて彼女も衛兵に拘束されると私と一緒に地下牢と連行された。
その後、私がどうなったのか?
地下牢へ幽閉された私を待ち受けていたのは暴力での過酷な尋問だった。
取り調べを担当した騎士団の団員からは「ガブリエルを促したのはお前か?」と聞かれた。
私はすぐに否定した団員は私の頬を叩いたり両膝を蹴ったりして強引に自白させようとした。
だが、私には身に覚えないことだったので何を聞かれても否定することしかできなかった。
そのたびに私の顔や体はあざや切り傷が出来てしまった。
そして、私はついに心が折れてしまった。
「・・・私のせいです」
ただそれだけを呟いただけで私は尋問から解放された。
地下牢に戻された私は痛みに耐えきれず冷たいベットの上で涙を流した。
本当に怖かった。
私は何もしていないのにどうして殴られたり蹴られたりされたのかわからなかった。
ただ、ガブリエルの婚約者だけでこんな理不尽なことを受けてしまうなんて・・・。
私は悔しかった。
王子もそうだがガブリエルが一番許せなかった。
私以外の人と不貞を働いた上に、嫉妬のあまりグヤコールス君を殺した。
一番許せなかったのは王子と肉体関係にあったことだ。
これほど侮辱的なことはなかった。
婚約者の私をないがしろにした。
私の存在が否定されたとしか思えなかった。
・・・どうして王子と。
男性に寝取られたと思うだけで私は自分が惨めで仕方なかった。
私が地下牢に入れられてから幾日か経った。
体の痛みはまだ残っていた。
食事は運ばれてくるが食欲などなかった。
乾いた喉を潤すだけにしかできなかった。
気掛かりなのは家族のことだ。
家族は一体、どうなっているのか。
それだけが心配だった。
そんな私の前に現れたのはエミーナ嬢だった。
「・・・エミーナさん」
私は痛みが残る体を引きずりながらベットから起こした。
「・・・あなたは地下牢から出れたんだ」
エミーナ嬢は汚れていない服を着ていた。
その姿を見てきっと釈放されたのだと思った。
「ごめんなさい」
エミーナ嬢は私に謝罪した。
「・・・今更謝られてもどうにもならないわ」
私は拷問で無理やり自白させられた。
きっと私は流罪となるだろう。
折れた心だから覚悟はできていた。
でも、そんな私の気持ちをさらに追い込む出来事が起こった。
「フィファレス様、あなたに伝えないといけないことがあるの」
「・・・なにかしら?」
私の問い掛けにエミーナ嬢は何故か言葉を詰らせた。
何度か私の顔を見てはすぐに目を伏せる。
そのたびに私の胸の鼓動が妙に高まっていった。
「どうしたの?」
私の脳裏には家族の姿が浮かんでいた。
「ねえ、言って」
私は声を震わせながらエミーナ嬢に尋ねた。
彼女の瞳からは涙が流れていた。
その様子に私はその先の事を察してしまった。
「・・・あなたのご家族が王子から毒杯を賜りました」
「うそ・・・うそよ!!」
私は鉄格子を掴みながら大声で叫んでしまった。
どうして私の家族がこんな目に合わなければならないのか。
私には理解できなかった。
「どうして・・・どうして・・・」
私はその場に蹲ってしまった。
私にとって家族は宝物だった。
いつも優しくて愛おしい両親や兄妹はいなくなった。
「王子は国王や王妃様が戻られる前にグヤコールス様の復讐をしようとしています」
「・・・それって理不尽じゃない」
そうだ、勝手にグヤコールス君を追い込んだのは王子だ。
そもそも王子が勝手に断罪する権利はない。
それに王子がやったことをどうして私たちが巻き込まれないといけないのか。
私は王子に怒りを覚えた。
「フィファレス様、王子はあなたを自分の手で斬首したいと願っています」
「そんなのありえないわ」
王子自ら私の首を斬りたいとは・・・。
そこまで私が恨みを買う理由は一つしかない。
「私がガブリエルの婚約者だからね。だから家族も殺したのね」
道理に合わない不当なやり方をしてまで私を殺したい。
私は怒りで両手を床に打ち付けた。
「許せない!許せない!許せない!」
こうなれば自分から命を絶ってやる。
「エミーナさん」
私はエミーナ嬢に声をかける。
「私に自死用の毒を渡して下さい」
私は自分の考えを彼女に伝えた。
「フィファレス様、待って下さい!私がなんとか王子を説得してみせます」
エミーナ嬢は私の考えに焦っていた。
「王子の説得は無理です。王子はすでに正常な判断ができなくなっています」
「ですが・・・」
「うるさい!」
私はエミーナ嬢を怒鳴りつけた。
「フィファレス様!?」
声を荒げる私にエミーナ嬢は驚きを隠せないでいる。
「エミーナさん、あなたにも今回の責任はあります」
ええ、あなたもわかっているはず。
王子はあなたを利用したようにあなたも王子を利用した。
グヤコールス君を何を求めたかは知らない。
でも、あなたのせいで私たちは巻き込まれてしまった。
あの「わたし・・・そんなつもりじゃ・・・」と言うあなたの呟きはその意味だと私は気付いていたわ。
私はさらに続ける。
「あなたが王子を止められずはずないじゃない。あなただって死ぬかもしれないのよ」
「覚悟はできています」
「だったら、私にも抵抗させて!王子の手で殺されなんてまっぴらごめんよ!」
私はエミーナ嬢を睨みつける。
「だからあなたも責任を取りなさい!私に毒を下さい!」
「・・・そうですね」
私の懇願にエミーナ嬢の心を動かした。
エミーナ嬢は胸元から小さな小瓶を取り出した。
「これは王妃様から頂いた秘薬の毒薬です」
エミーナ嬢は私に小瓶を渡してくれた。
「ありがとう」
私はエミーナ嬢に微笑んだ。
これで私は家族の元へ行ける。
「フィファレス様」
エミーナ嬢が私に声をかける。
「何かしら?」
「グヤコールス様の銀色のブレスレットはどうされましたか?」
「これのこと?」
私はベットに隠していた銀色のブレスレットを取り出した。
「これを頂けないでしょうか?」
「グヤコールス君のお墓に埋めるのかしら?」
「はい。私にはそれしかできませんので」
私は言われるままmにエミーナ嬢が銀色のブレスレットを渡した。
「あなたはこの後どうするの?」
「王子を・・・王子を殺します」
「そう、頑張ってね」
王子への復讐は彼女に任せよう。
私は冥界で王子を恨むことしかできないし。
「じゅあ、帰って」
「わかりました」
エミーナ嬢はそのまま地下牢を離れた。
再び一人になった地下牢を私は小瓶の蓋を開けた。
小瓶からは何も香りが漂わない。
これが王族の秘薬なのかと思うと私は何故か苦笑してしまう。
理不尽な事で死んでしまうなんて・・・それも男同士の関係で。
・・・ガブリエルの馬鹿。
すべてはあいつのせいだ。
王子と一緒にあいつのことを恨んで死んでやる。
私は一気に毒を飲んだ。
その瞬間、一気に記憶が遠のいていった。
これだと苦しまずに済む。
私は痛みが嫌いになっていたのでそれがほんの少し嬉しかった。
こうして私は死んだ。
死んだはずだった。
だが、私の意識は闇の中を彷徨い続けていた。
なにこの感覚は?
やがて小さな光が見えると一気にそこへ意識は吸い込まれていった。
私は目を覚ました。
そこは見覚えのなる部屋だった。
「・・・ここって」
私は周囲を見回してみる。
やはりここは私の部屋だ。
「どういうこと?」
私は部屋の中を歩き出す。
姿見の前に来た時、私は自分の姿を見て驚いてしまった。
「嘘でしょう・・・」
姿見に映る私の姿が幼い頃のものだった。
ありえないと思った。
私は何度も顔や体を触った。
感触も感覚はある。
「時が戻ったの・・・」
信じられないことだが私は冷静に勤めることにした。
部屋の中を確認して私の服や靴のサイズを確認した。
「そうなのね」
すべての状況を把握した時、私は知った。
私の時が戻ったのだ。
私は思わず笑ってしまった。
神様に感謝した。
そして、心に決めた。
王子とガブリエルに復讐してやる。
ええ、女の復讐がどれほど恐ろしいものか知ればいいと。




