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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第八章「御城坂事変」
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第七話 堕天使×天使

「そっちも生きてるみたいでよかったよ」


 深夜は安堵したように短く呟くと、すぐに自分の足元でのびている悪魔憑きの身体を剣でつついた。


「……うん、こいつも生きてるね」

『憑依タイプだろうから、身体強化はちゃんとしてたと思うよ』

「じゃあ、コイツに関してはあとは警察か協会に任せるとして、爆弾の方はどうなってる?」

『契約が切れて魔力の匂い自体は薄くはなったけど、魔道具状態で残ってる。こっちもちゃんとあとで潰しておいたほうがいいね』

「ん、了解っと。でもその前に――」


 相棒たる剣とのやり取りを終えた深夜は、改めて雪代に――いや、彼女の背後にいる天使の少年に視線を向けた。


「待ってください!」


 その意図を嗅ぎ取った雪代は、両者の視線を遮るように手を大きく広げるが、肝心の天使は自らその手の下をくぐって、深夜の前に立ち相対する。


「……」

「……」


 両者の無言の睨み合いは、火花が幻視できそうなほどに周囲の緊張感を高めていった。


「ねえ、紗々」


 その沈黙を破ったのは、天使だった。


「この悪魔憑きを倒すのも『人助け』になるのかい?」


 そして彼は無防備に振り返り、深夜を指さしてそんな素っ頓狂な疑問を口にした。

 当然、その言動に一番困惑したのは雪代だ。自然とその場にいる全員の視線が彼女へと移行する。


「え? えっと……彼らと戦っても人助けにはなりませんよ。その人は無害ですから」

「そっか! じゃあ、君達は帰っていいよ。じゃあねー!」

『ちょっと待てぇ! なに勝手に話進めてんのよ! そもそも、あんたに用があるのはこっち側なんだけど!』


 深夜達への興味が完全に失せたアルメロスは、また雪代の方へと戻っていく。当然、ラウムはそんな一方的な話で納得できるわけもなく、剣の状態のまま叫んで呼び止める。

 もはや、先ほどまでの緊迫した雰囲気はひとかけらすら残っていなかった。


「君達の都合なんて僕は知らないよ。っていうか、君は誰だい? 悪魔の癖にずいぶんと馴れ馴れしいね」

『私は元天使であんたの大先輩よ! ちょっとは敬いやがれ!』

「へー、地上や地獄には『天使を騙る悪魔がいる』って聞いていたけど、本当だったんだね」

『なんで私が嘘つき呼ばわりされないといけないの!? 本当に天使だったんだってば! ちょっと紗々からも何か言ってやってよ!』

「紗々、交友する相手はもっと考えて選んだ方がいいよ」

『よっしゃ、今すぐぶちのめしてやる! 覚悟しろクソガキ! 行くわよ深夜!』

「あぁ……面倒くさい」


 ここまできてしまうと、もはや戦いではなく子供同士の口喧嘩だ。すっかりやる気が萎えてしまった深夜は剣から手を放し、ラウムの武装化を解除した。


「うわっ、とと! 深夜まであの天使のこと庇う気!? 契約違反だよ!」

「庇うわけじゃないけど、ここで今から戦ったら周りの人を巻き込むだろ」

「むー……」


 今にも深夜にまで飛びかかろうかというほど気が立っていたラウムだったが、その言い分には納得したらしく、大人しく押し黙る。


「アルメロス……だっけ? 確認だけど、お前も俺達と戦うつもりはないんだよね」

「うん。君達を倒すことは命令にないし、気分がよくなることでもなさそうだから」

「お前達天使は、異能者を狙っているんじゃないのか?」

「そうだね。異能者狩りは天使の責務の一つだ。だけど、それは僕に降りている命令じゃないから、僕に君を殺す理由はない」


 アルメロスは悪びれた様子もなく、自分の仲間が異能者を殺していることを認め、同時に自分は無関係だと言い放つ。藪蛇だったかもしれない、という深夜の杞憂は即座に霧散した。自分に課せらた命令以外に興味がないというのが、まさかここまで徹底されているとは。

 彼の隣では、ラウムが肩をすくめており、表情だけで「だから言ったでしょ」と伝えている。


「……お前が受けた命令ってのはなんなの?」

「最初に言わなかったっけ? 僕は『魔人』を探しているんだよ」


 深夜としてはほとんどダメもとで聞いたつもりが、天使の価値観に守秘義務という言葉はなかったらしい。


「確かにお前は、俺に『魔人か?』って聞いてきてたな」

「神が魔人を探してるって、どういうことよそれ!」

「主の真意は知らないよ。主が命じたのは『魔人を見つけて連れてこい』というものだ。そして僕達天使はそれに応えるだけだ。あぁ、でもガブリエル様はこう言っていたな」


 アルメロスは思い出した言葉をそのまま復唱する。おそらくそれは、本当に一字一句そのままなのだろうと、その場にいた誰もが確信した。


「人が作ったまがい物、目障りで仕方ない。って」


 ◇


「本当にありがとうございました!」

「いえいえ、私達はユキちゃんを連れてきただけですので」


 雪代が避難場所扱いとなっていた一階のフードコートに行くと、ユキの母親はすぐに見つかった。


「お姉ちゃんも天使さん達もありがとう!」

「認識が誤っているね、ラウムは天使じゃないよ」

「そんなことないよねーユキちゃん。ラウムちゃんは可愛い天使だよねー」

「黒い天使さんもビーム出せるの?」

「び、ビームは……無理かも……」


 同行していたラウム、アルメロスと歓談するユキの隣で、彼女の母が「天使?」と首を傾げ、雪代の頬に冷や汗が流れた。


「それでは我々はこれで失礼します! ほら、行きますよ」


 これ以上この天使と悪魔を放置すると何を口走るかわからない。雪代はそう判断し、人外二人を強引に引っ張ってフードコートから距離をとった。


「お願いですから、騒ぎを起こすようなことは慎んでください……というか、ラウムはよかったんですか?」

「なにが?」

「神崎さんを一人で行かせて」


 アルメロスから大した情報が得られないとわかると、深夜は一人慌てた様子で灯里の元へと向かって行った。

 雪代はてっきり、ラウムは隠れてでも彼の後を追うと思っていたのだが、意外にも彼女はユキの護送や残された爆弾の事後処理に同行していた。

「え? あー……だって、紗々のこと心配だからさ」

「また嘘くさいことを言って……」

「本当だってば! 天使と二人きりなんて危ないよ」


 雪代はラウムの目が泳いでいたのを見逃さなかったが、彼女はあくまでも「雪代の護衛」という言い訳を崩さないつもりらしい。


「私のことより、あの爆弾魔どうするの? とりあえず、縛ってトイレの個室に放り込んだけどさ、私たちが倒して解決しました! とは言えないでしょう?」

「どうせ爆弾をちゃんと処理するまでは、警察をこの中に入れるわけにも行きませんし、それが終わってから協会に連絡して判断を仰ぎます」


 雪代達がこの建物の中を自由に動き回れるのも、ある意味ではまだテロリストによって封鎖されている……と思われているからだ。

 逆に犯人がもう既に拘束されていると知れ渡れば、内外の混乱は凄まじいものになると予想される。


「巻き込まれた一般人の方々には悪いですが、もう少し大人しくしていてもらいましょう」

「不安だろうけど、爆弾がまだ残ってる以上仕方ないよねー」

「紗々! 早く魔道具を処理して『人助け』の続きをやろうよ!」


 今後の計画を相談する雪代達を、アルメロスが急かす。その様子はやはり無邪気な子供のようだ。


「っていうか、紗々はあの天使のクソガキとどこで知り合ったの?」

「神崎さんから聞かなかったんですか? 空から落ちてきたんですよ」

「なにそれ。天使が墜落なんてだっさーい」


 ラウムは手のひらで口元を覆うが、肝心の口角は隠されておらず、嘲笑を誤魔化すつもりは一切ないらしい。


「空を飛んでいたら透明な壁にぶつかったんだよ。あれはきっと魔人による妨害だね」

「はいはい、そういうことにしておいてあげる……っていうか、紗々はオシャレして御城坂に何用できてたわけ……? もしかして、デート!?」

「違いますよ。孤児院時代の幼馴染に誘われてランチの予定……っあ!」


 雪代は大声をあげて立ち止まり、慌ててスマホを取り出した。


「私がしばらく動けないと、連絡するのを忘れてました! ちょっとだけ待っててください!」

「ランチって……もうとっくに過ぎてるよ?」

「ですよねぇ……」


 覇気のない声を漏らしながら、雪代はスマホを耳に当てる。コール音が一度、二度、三度目がなり終わる前にその通話は繋がった。


「あ、柚子、ごめんなさい! 実は……」

「御城坂アウトレットモールにいる。でしょう? 慌てなくて大丈夫だよ、紗々ちゃん」


 通話の相手、それはかつて雪代と同じ孤児院で過ごし、彼女のルームメイトであった親友、沢羽柚子だった。

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