#2 幼馴染なんてこわくない(6)
*
――おや?
ミュシャは目玉をくるりと動かした。
滞留していた空気が、すこし動いたからだ。
「エリス、あんたはいまの感じた?」
昨晩と変わらぬ恰好のまま、縁側で待機していたエリスは、起きているとも寝ているとも言えぬその虚ろな瞳をミュシャへ向けて、こくりと頷いた。
「間継たちが動いた――にしては早すぎるか」
すでに陽は空高くのぼっている。
昼を過ぎたあたりだろうか。
この空間の時間経過などあてにならないが。
もし現実とおなじなら、囚われてから12時間ほど経過していた。
「ガーデンは思った以上に、わたしたちを必要としてたのかしら?」
そんな質問をしたところで、エリスが何の反応も示さないことはわかっている。
ミュシャはそっと芝生から起き上がり、白いドレスをはたいて草を払った。
はらはらと落ちていく芝の葉が、ふわりと舞い上がった。
そのまま逆巻きに上昇すると、空の彼方へ飛んで行った。
「呪が、ほつれているようね」
雲一つない空であるのに――
暴風域にでも入ったように、風が吹き荒れはじめた。
ミュシャはてくてくと歩いて、庭の端まで行くと、
「エリス、この壁ぶっ壊して」
と太々しく命令する。
すぐさま、壁に向かって突進するエリス。
堅い腕を振り上げ、勢いのまま打ちつけた。
ブロック塀は激しく砕けて、大穴が開く。
エリスはごろごろ転がって、そのまま路地に出てしまった。
巨体が抜けた後を、ミュシャは難なくついてきた。
肌に貼りつくような湿度が戻ってきた。
遠くを走る車のエンジン音や、鳥のさえずりも聞こえてくる。
ベッドタウンなので、昼日中の人通りは少ないが――
それでも数軒からは掃除機だとか、テレビの気配を感じられた。
「抜け出せたようね。でも――助けがきたようには見えないけど」
あたりは平穏そのものである。
騒ぎがあったようにもみえない。
迎えが来ているというわけでもなかった。
たったいま外壁に開けた大穴だけが、交通事故のようで異質だった。
「どうしよう。任務を続けるか、撤退するか……」
判断がつかず、ミュシャも逡巡してしまう。
が、それもつかの間だった。
環境に溶けていた美しい鳥の歌声が、ふいにキーを下げていった。
やがてそれは野太い男の声のように耳に障ってから――
ぽとり、とミュシャの前に墜落した。
セキレイだった。
翼を広げ、口を大きく開いたまま死んでいた。
いや、よく見ればそれは死んでいたのではなく――
「止まってる」
外傷はなかった。
内臓の痛みに苦しんだ形跡もない。
氷漬けにでもされたように、セキレイはその一瞬の姿のまま固着されていた。
見れば電線に留まるカラスも、動きが止まっていた。
注意深く耳をそばだてれば――
環境音が、少しずつではあるが、確実に減ってきていた。
「籠のなかのほうが安全だったかもね」
エリスに聞かせるでもない冗談をつぶやいていないと、ミュシャも気が滅入るのだった。




