第八話 人間の魔法
「あ、村です!」
「本当だ。今日はあそこで休ませてもらえないか相談しよう」
目を凝らすと、人が住んでいるような建物がチラホラと見える。
近づくにつれて、誰かの話し声が聞こえた。
「なにかあったんですかね?」
怒声のような声。
村の入口らしきところに、大勢の人が集まっていた。
「ここをどこだと思っている。ドラグニル領内、ポタポタ村だぞ!」
「はっ? それがどうしたよ? 女騎士様よ、一人で何ができるんだ?」
「頭、俺、コイツ欲しいです!」
「まぁ、確かに美人だ。ギヒヒッ!」
「それ以上、近づくな!」
女騎士と呼ばれた彼女が、集団の中で一番図体のデカいやつに斬りかかる。
「おっと、ほら、もっとだ。ギャハハッ!」
「――クソッ、クソッ! なんで当たらない!」
男の身のこなしはまるで訓練されているかのように、女性の攻撃を避ける。
「おらよっと!」
「しまっ――」
そう言った時には、大男が女を投げ捨てる。
倒れた衝撃で剣が遠くに飛ばされた。
「まだだっ!」
起き上がろうとしたが、手下とおぼしき男に取り押さえられる。
「二ヒヒッ! 動くと喉にも刺さっちゃうかもな〜」
息を吐けば、空気が茶色く染まりそうな下品な笑い。
そいつは、女の頬をベロリと舐める。
「油断するなよ」
「分かってまっせー!」
「行くぞお前ら! 根こそぎ奪え! 男は殺せ、年寄りも殺せっ! 女、子供は――奴隷にしろっ!」
野盗達が動き出す。
「暁の光よ、闇を裂け。一条の欠片も残さず闇を砕け――アスリア=イズリム」
初めて見たロラーナの魔法は、どこか幻想的だった。
揺らめく炎で形づくった竜の頭が、頭上に現れる。
ひらり、ひらりと舞う火の粉はまるで妖精のように飛び交っていた。
「食べちゃえ!」
掛け声は可愛い。
だけど、竜の頭が通った地面は、黒く染まっている。
生えていた草は、放たれた熱気に耐えられず頭から、焼け落ちた。
野盗のボスとおぼしき男に、ロラーナの魔法が襲いかかる。
「ぐらんぐらん揺れろ。大地よ避けよ。迫りくる魔から守れ――ウォルダスト」
大男が地面に手を付けると、ロラーナと同じように魔法の言葉を唱えた。
ぐらりと足元が揺れ、大地が鳴く。
瞬間、土で出来た壁が出現する。
五層の壁。
均等に並べられたその壁にロラーナの、魔法が直撃する。
「いけーっ!」
ロラーナの声に合わせるように、竜が口を開く。
一枚、一枚と壁を砕き、最後の壁にぶち当たる。
炎の勢いは弱くなったが、それでも壁を砕き向こう側に突き抜けた。
「――――」
大きな爆発が、手下を何人か巻き込んで吹き飛ばす。
土煙と炎に包まれた世界は、終末を思わせた。
「いない」
そこには、野盗のボスの姿はなかった。
「――上!?」
ロラーナが上を向いた。
「惜しかったなっ!」
死ね、と言いながら、手に持っていたハンドアックスを投げつけてきた。
「ロラーナ――」
バルバトの鱗で作った簡素なナイフで、それを弾き返す。
「ラグルさん! ありがとうございます! あの方を助けて……」
俺の手に抱えた、女性を見てロラーナは言葉を止めた。
代わりに。
「いつの間に……?」
と、目を見開いていた。
地面にそっと女騎士を降ろす。
おぼつかない足取りだったが、彼女は倒れることはなかった。
「あなた達は?」
「村に泊まりに来たんだけどさ、空いてる?」
「え?」
「外でもいいから、お願い!」
「……あ、その、私の家で良ければ」
「マジ? あざーっす!」
と言うことで、アイツらを倒す動機ができた。
「ねえ、できれば帰ってくれない?」
一応、彼らに問いかけてみる。
「なんだテメーは! なめてんのか!?」
俺は言ったからな。
いいんだな。
知らないぞーい。
「大地よ――」
「――人間の魔法って、不便じゃない」
言葉を発する前に、頭の喉にナイフを突き付けた。
「お前……」
「それに、なんか? 戦い方――綺麗なんだよな」
野盗とか盗賊とか、話でしか知らないけどさ。
見たことある村の奴の話では、使える物はなんでも使う、生き汚いし臆病。
なんて言ってたのに。
最初のロラーナの魔法にも、あまり驚いていない様子だった。
「…………」
「まぁ、いいか。で? どうする?」
「――決まってんだろ。お前らヤレッ!」
決まってるのは覚悟もか。
ナイフをすっと引いた。
肉食獣が餌を取る時のように、身をかがめる。
前から順番でいいかな。
右足だけ――
「――はっ――」
全員が一斉に倒れた。
「バルバトの鱗は良く切れるね。いいね」
光すら反射しないバルバトの鱗は、人間の血液をすすって喜んでいるように見えた。
「それで? あんた、まだやるのか?」
もう一度、問いかける。
が、歯を食いしばるだけで答えない。
「ちなみに、引いてくれるなら、全員の足を治してあげるよ」
「……引かなかったら、どうする?」
「君の足ももらおうかな」
視線を彼の足に向ける。
「――ぐぅっ! 分かった。撤退……俺達の負けだ」
「良かった。魔物とか動物は狩るけど、人間はあんたらが初めてになるとこだった」
去り際に、忌々しげに俺を睨みつけるが手を振って送る。
その辺には、野盗の血の染みが点々と残ってるが勘弁してもらおう。
「ロラーナ、終わったよ」
「ラグルさん、凄すぎないですか?」
「そう?」
「いつ動いたのすら、分かりませんでしたよ」
褒めてもなんもでないぞ。ぐへへ。
「あの……助けていただきありがとうございます」
「私はアリシャといいます。王都ドラグニルの騎士です」
「私はロラーナ、よろしくお願いします」
「ロラーナ……? まさか、ロラーナ=ドラグーンのはずは――」
「――そうですよ」
「えええええええええっ! ええっ!」
バルバトの咆哮並にうるさい。
「し、失礼しました!」
騎士が片膝をついて、頭を下げる。
「あの、そのようなことしなくていいんですよ」
「いえ、そういうわけにはいきません。私は王国に忠誠を誓って騎士になったのですから」
「ロラーナって、凄いんだな」
「そうですよ! えっへん! ――じゃなかった」
ロラーナはアリシャを説得するように、話しかける。
しばらく問答の末、ようやく騎士が立ち上がった。
「アリシャさん、よろしくお願いしますね」
「王女殿下……その優しい心遣い感謝いたします」
「王族って凄いんだな」
二人のやり取りを見て、俺はそう呟いた。
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