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第五十三話 バルバトとアルキラ

「だ、そうだよ。ロラーナ」

「ヘイザス兄様が最後にそんなことを……」

 

 寝癖が目立つロラーナが、椅子にちょこんと座って俺の話を聞いてくれた。

 

「ラグル――頭を渡すとかどうかしてるぞ」

「それは、悪い。ニルスは村の仲間だから、見捨てることができなかったんだ」

 

 長椅子に背中を預けて眠っているニルスに目を向けると、頭がコクリと動いて、黒い髪がはらりと揺れた。

 サリスは昼間なのに、今日は起きていた。

 

 それも、昨日の出来事についていろいろ聞きたいことがあるらしく、起きて待っていた。

 

「ところで、ロラーナ。貴様の兄は、竜になったぞ」

「その……隠してたわけじゃないんですが、竜の血が流れる私達は体の一部を――竜化させることができます」

 

 腕を捲ったロラーナの手が、純白の鱗に覆われた。

 

「私は血が薄くて……これしかできませんが。ヘイザス兄様は、歴代でもかなり竜の血が濃く……」

「完全に竜になれると」

「はい、そうです」

 

 竜化を解いた彼女が腕を戻すと、椅子に座り直す。

 

「ただ、ヘイザス兄様自身はあまり竜になることを好んでなくて、それに……」

「ロラーナ?」

 

「竜になったところで、自身の力は変わらないはず――ハリボテの竜。それが私達、王族の血筋のはず」

 

「サリスは、ヘイザスが竜化してどう思ったんだ?」

 

 いつもの定位置で、腕を組んで考えるそぶりを見せるサリスが顔を上げた。

 

「殺そうとすれば、殺せる……が、一段階以上、強化されていたぞ」


 そうなるとロラーナの話と噛み合わない。

 

「竜石の力?」

 

 ニルスが竜石を埋め込まれた時、彼の腹の周りには竜の鱗が覆っていた。

 今は、普通の肌に戻っていたけど、それを持っていたヘイザスにも何か力を与えているのかもしれない。

 

「竜石にそんな力があるはず……ないのですが」

 

 ロラーナが緑色をした竜石を取り出すと、そっと頭より高く持ち上げてそれを見た。

 

「少し、貸してもらうことはできるか?」

「でも……」

「大丈夫だよ。やばくなったらサリスが手を千切ってくれるだろう」

「オイッ! 勝手に我を巻き込むな」

 

 いいから、とサリスをなだめてロラーナに近寄った。

 

「その……本当に大丈夫ですか?」

「俺を信じて、ロラーナ」

 

 手を差し出すと、恐る恐る石を手に乗せてきた。

 ずっしりとした重み。ざらつきはなく、表面は滑らかなようだ。

 

「ん〜……何も起きないね〜」

 

 しばらく握っていたけど、ニルスのような変化も起きることはない。

 

「返すね――」

 

 ――あれ? ここは?

 

 ◇

 

「バルバトさん! 僕が代わりに倒しに行ってくるね!」

 

「アルキラ……今のお前じゃ無理だ」

 

「そんなの分からないもんっ!」

 

 これは、記憶? アルキラってこの竜石の?

 それにバルバトがどうして。

 

「まぁ、好きにするがいい。俺にアイツらは殺せない」

「バルバトの意気地なし! ざーこっ! ざーこっ!」

 

 バルバトより一回り小さいアルキラは、まるで子供のように騒ぎ立てていた。

 それに対してバルバトは、目を細めるだけで何も言い返さない。

 

 どこか洞窟のような場所で話をする、二人の映像が頭の中に流れてくる。

 

 ――――ザッ

 

「本当に行くのか? アルキラ」

 

 バルバトの視線の先には、アルキラの姿がある。入口から差し込む光が、純白の鱗に跳ね返って洞窟のような建物の中を照らしていた。

 人がかつて住んでいたような痕跡。

 壊れた棚に、黒ずんだコップのようなもの。

 

 バルバトが使うようには見えないし、人がかつて住んでいたのだろう。

 

 洞窟、というのも違うかもしれない。

 反射した光で照らされた壁は灰色をしていた。

 

「行くよ。バルバト」

 

 アルキラの声には幼さはなく、幾年の月日が流れたようだ。

 体もバルバトに負けないくらいの大きさで、背中を向けた彼が振り向く。その瞳は、青く鋭い。

 

「そうか」

 

 バルバトがそう言った。

 

「俺が呪縛から解放してあげる。バルバトも世界も――」

 

 そう言い残したアルキラは前を向くと、振り向かず歩いて行ってしまった。

 

 ――ザッ……ジッ……

 

「ラグルさん? ぼーっとして、どうしたんですか――はっ!? まさか竜石に」

 

「いや……そういうわけじゃない、今……」

 

 腰に下げたバルバトのナイフが熱い。

 革の鞘に収めているのに、まるで生きているかのように熱いのだ。

 

 竜石が、バルバトの鱗に反応したのだろうか。

 前に竜石を見た彼が懐かしむような目をしていたが、そうなると今のは幻覚ではなく、過去の映像なのかもしれない。

 

 不思議そうにクリクリとした目を向けているロラーナに竜石を返すと、俺は今の出来事について話すことにした。

 

「バルバトさんと、アルキラ……さんにそんな過去が……」

「過去かどうかは分からないけど、何かを伝えたかったのは間違いない」

 

 バルバトの鱗で作ったナイフに手を添えたが、今は熱くなく、革のさらりとした感触がするだけだった。

 

「ねぇ、ロラーナ。一つ聞いていい?」

「何かしら? リズアラ」

 

 ロラーナの横で姿勢を正したまま立っていたリズアラが、話しかける。

 

「竜石って、一体の邪竜から出てきたんだよね?」

「――あっ」

「俺が見たのはアルキラと言う、一体の竜だけ……」

 

 なら、他の竜石はなんなんだ。

 どうして存在する。

 

「ほぅ、これは面白い。竜石が他に四つ、つまりアルキラと言う竜は――何を体に取り込んだんだ」

 

「サリスは聞いたことあるか?」

 

「我も勇者によって、封印されてたからな。コーランドなら、何か知っているかもしれんぞ」

「じっちゃん……」

「バルバトさんに聞いてみるのも、いいかもしれません」

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