第四十七話 繰り返される毎日
「と、言うことで王位継承が終わるまで、明日からお引越しをします!」
「ほう、どんな家になるのか楽しみだ」
「どこまでもついていきます」
夜のいつもの団欒でそう宣言するように言ったロラーナに、サリスとアリシャは各々返事をした。
「リズアラ、カエラちゃんは大丈夫?」
「ちゃんと話してありますので、問題ありません」
意識を失っていたライラが起きるのを待って、あの幽霊の出る物件と、周辺の家を購入した。
しかも、全部合わせても金貨十枚と、かなり安く買えてしまった。
「他に必要なものは、向こうに住んでから買うとして、他に持って行く物があれば準備しましょう」
椅子から立ち上がったロラーナは、どことなく楽しそうである。
「サリス、向こうについたら罠を仕掛けるの、手伝ってくれないか」
「はっ! なんでそんな卑怯な真似を我がしなくてはならんのだ」
王というのはこんなにもプライドが高くて、めんどくさいのだろうか。
ロラーナは、こんな風にならないといいな。
と、いつものように虚狼を取り出す。
「……まぁ、致し方ない。弱き者を守るのも王の務めよ」
赤月と呼ばれた吸血鬼には似つかわしくない、まっとうな、王の言葉だわ。
「ところで、サリスって古代語読める?」
「古代語? 読めるわけないだろう。馬鹿が」
「だよな。期待してない」
「なんだとっ!」
マジ、めんどくせーやつ。
「ほらほら、二人とも喧嘩しないでください」
ロラーナが近づいて、俺とサリスをなだめる。
「こやつが俺を馬鹿にしてくるからだぞ。ロラーナ」
「お前が一言、余計なんだ」
「もう、困ったお二人です」
「まあまあ、ラグル殿もマスターも、なんだかんだ仲いいですからね」
仲いいのか? ムカつく時はあるけど嫌いではない。
「ふふっ、ロラーナも大変ですね」
あまり笑ったことのないリズアラも、少し打ち解けてくれたのだろう。
前のような硬い表情はなくなっていた。
みんながいる前では丁寧に話す彼女も、ロラーナと二人だと砕けたような言葉遣いにいつもなっている。
ロラーナを王にするための、小さい集団としてはそれなりにいい雰囲気じゃないだろうか。
さて、と。
今日はこれくらいでお開きかな。
後はサリスとアリシャに任せて――
「――っ!?」
アリシャが突然、窓の方へ振り向いた。
「どうした、アリシャよ」
サリスが声をかける。
「血の匂い……これは……レイラ様の従者、カインの」
耳に届いた彼女の言葉は、昨日レイラの部屋で見た光景が頭に浮かぶ。
「アリシャ、その血の匂いが濃いのはどこからする?」
俺がそう言うと、アリシャは窓をあげて空気中に漂う血の匂いを嗅ぎ始めた。
「濃いのは……城の方から。もう一つは、恐らくですが昨日の墓の方だと思われますが……しかし……」
「わかった」
俺は短く答えて、虚狼を手に取ると、ロラーナが声をかけてくる。
「ラグルさん……どこに?」
「様子を見てくるよ。ロラーナとアリシャはここにいて欲しい。サリスも、ちょっと頼んだわ」
「私も……いえ……姉をよろしくお願いします」
彼女は言いたいことを堪えるように飲み込んだ。
星と月の光が今日も俺を出迎えてくれる。
満月がわずかに欠けているが、綺麗な夜だった。
血の匂いなんて似合わない。
だけど、恐らく今日も――
「虚狼」
俺の声に反応した、斧が形を変える。
真っ黒い斧。夜の世界にはピッタリだ。
ぎょろりとした目玉が、刃の表面に筋が開いて現れる。
「今回は、少し本気を出そうか」
一人で行動ができるなら、守る者も力を抑えて戦う必要もない。
俺の言葉に反応するように、虚狼の瞳がぐにゃりと曲がる。
◇
今日も墓場では死者が静かに眠っている。
「戦いの痕跡も、死体もない」
そう、全てが始まる前に戻っていた。
「……ああ、来たか」
レイラ=ドラグーン。お前はなんなんだ?
「……アルキ……ラ」
昨日と同じ服装で、真っ白なドレスは真っ赤に染まっていた。
「アルキラがそんなに欲しいのか? お前は?」
そう問いかけても、やはり何も反応しない。
「まぁ、いいか」
今回は俺だけだ。
すぐに終わらせてやるよ。
「頭以外、食っていいぞ。虚狼」
地を駆ける。
レイラから距離はあったが、横に薙ぎ払うように振るう。
刹那――
――黒い波動が虚狼の刃から、放たれる。
それは、津波のように触れたものを飲み込んでいった。
墓石も、地面も、そして、レイラの首から下も全てを飲み込む。
残ったのは抉れた地面と、その中心に転がったレイラの頭だけ。
「やっぱり……これでも生きてるか」
残った髪の毛を左手で掴んでレイラの頭を持ち上げると、目玉をギョロギョロと動かしながら、歯を打ち鳴らしていた。
「まぁ、人間ではないよな」
サリスなら、ここから体を再生して、すぐに襲いかかってきそうではあるが。
でも、アリシャが最初に戦った時は、再生していたと聞いていたが、なんで再生しないんだ?
「やっぱり……分からないな〜。これは参った」
頭を潰しちゃう?
でも、殺すのはロラーナにダメと言われているし――
「――ちょっと、考え事してるんだから、横から攻撃するのやめてくれない?」
「っ!」
レイラの頭に向けていた視線をわずかに揺らして、白い仮面の男に向けた。
あの時、首を持って行った奴。
ヘイザスの従者――ニレシアが、俺に向かって大剣を振り下ろしてきた。
「あ〜……この頭どうしよう。まぁ、片手が使えれば十分か」




