第四十六話 処刑された一族
「私の父がどうして……嘘……ですよね?」
ロラーナは震える声で問いかけたが、グリムは首を横に振ると、男にしては少し長い髪が揺れた。
そして、ロラーナを真っ直ぐに見て、再び口を開いた。
「処刑されたのは事実さ。でも、それがどうしてかは、分からない。父……アルド=フェロードに聞いても教えてくれないんだ」
「アルド……フェロード……!?」
アルド=フェロードと名前を呼んだ時のロラーナは、何かを思い出すかのように、ゆっくり言葉を発した。
すると、はっ、とするように目を見開いて、頭蓋骨を自分の顔の目の前まで持ち上げる。
「アルドおじさん……」
「ロラーナの知り合い?」
「はい……私が子供の頃、王宮に仕えていた――歴史学者様です。小さい頃に行方不明になって、そんな……」
「悲しい顔をしないでください。ロラーナ姫もすっかり大きくなられました。名前を聞くまで、誰か分かりませんでしたよ」
骸骨と話しているロラーナの姿は奇妙に見えるが、アルドと呼ばれた男の声は、最初と違って穏やかな口調になっていた。
「どうして、アルドおじさんが……父に」
「……申し訳、ございません。このことをお伝えしたいのですが――奴らが聞いているかも知れませんので……」
ロラーナが事情を聞いても、アルドは申し訳なさそうに言葉を返すだけだった。
しばらくの沈黙の後、再びアルドが言葉を発した。
「……ロラーナ様は竜石を渡されましたか?」
「はい、持っています」
緑色の魔石を取り出して見せる。
「アルキラの竜石……それは良かった」
その石を見て、アルドは安心したような声を上げた。
「聞いてください。もし、他の竜石に触れる機会があっても、触ってはいけませぬ」
「それは……どうしてですか?」
「……これ以上は、見つかるかもしれませんので、お答えすることは……」
他の竜石に触れるな。
でも、王になるためには竜石が必要。
「でも、こうしてロラーナ様に出会えて良かった。無事に大きくなられて、安心しましたよ」
「私は……いえ、アルド様に再びお会いできて良かったです。それにご家族の方にも」
ロラーナが、アルドの家族に向かって深くお辞儀をする。
それには、父の犯した罪に対する謝罪が込められているのかもしれない。それほど、長く頭を下げていた。
「頭をあげてくだされ。ロラーナ様を私達は恨んではありませぬ」
「それは……」
「私達は悲しい結末になりました。ですが、こうして、正しい心の持ち主に出会えて満足です」
「んまっ! 死ぬのは怖かったけど、幽霊になってみれば楽しかったぜ」
「僕もー!」
「グリムとロイと、妻のスウェンには、この家に人が近づかないようにお願いしておりましてね」
つまり、この家族のせいでこの周辺には人が近づかなくなったというわけか。
「あのさ、ここにはそんなやばい秘密があるのか?」
「はい、えっと……」
「ラグルだ。ロラーナを王にするために、守護者となった」
「古の勇者の魔法を操る人物が、これは頼もしい」
「ロラーナのことは任せて欲しい」
「いい人に出会えましたな。さて、その秘密に関しては隣の部屋の書類をみてください。ただし――」
アルドの語気が少し上がる。
「絶対に声に出さないこと。古代文字に詳しい人物がいれば、すぐに内容は分かると思います」
「そうか……分かった。ところで、あんたの望みは魔法陣の破壊でいいか?」
「ええ、私は家族の死にすら、立ち会えていません。ずっとここに隠れていました」
そして、家族を生き返らせようとしたのが、あの魔法陣。
「結局は家族をこの世界に縛りつけて、永遠に彷徨う結果に。自分の命を依り代にしたことで、私の魂はこの頭に閉じ込められることに」
姿が見えないのはそう言うことね。
「妻も、亡霊となってから言葉を話すことができません。息子達も、新しい世界に旅立たせてやりたいのです」
「わかった。俺が壊して解放してやる」
「よろしくお願い致します。と、言いたいのですが、円環の魔法陣はかなり複雑。そして、解除が難しいのです」
俺は背後にある魔法陣へ振り向く。
さっきと変わらず、音も立てずにゆっくりと、右回りに回り続けていた。
「少し、待っててくれ」
「ラグルさん、前みたいに……」
カエラを助けた時のようになるのでは、と心配しているのだろう。
だから、安心させるため、肩越しに振り向いて頷きを返す。
「大丈夫だよ。カエラの呪いよりはマシだと思う」
あの時は、傷つけないように慎重にやったが、今回は最悪破壊してしまってもいい。
ロラーナの返事を待って、魔法陣に近づいてそっと手を伸ばす。
「あ〜、これは確かに」
目を閉じて、魔法陣の構成を見ている。
知らない文字がびっしりと脳裏に浮かび、大して知識のない俺にとっては、さっぱり分からなかった。
なら、見方を変えればいい。
魔力はどこから供給されてるんだ?
ああ、これか。
火柱の先端が魔素を集めて、それを増幅してやがる。
人間の魔法は無駄ばっかりだけど、やっぱり綺麗だ。
こんなに精巧に魔力を編み込めない。
だから、そこを断ち切れば――
「――これで、終わり」
「まさか、こんなに簡単に。ラグル様はいったい……」
「一応、魔族と人間のハーフらしいよ、俺」
「魔族と人間のハーフ……そして、勇者の力。なんと因果な話、ですな」
円環の魔法陣は、先端から砂のように崩れ始める。
「感謝致します。ロラーナ様、ラグル様」
「どういたしまして」
「アルドおじさん……」
「悲しい顔をしないでください」
「お姉さん! ありがとう!」
「いやー、ついに新しい世界に行く時が来たか」
スウェンは深々とお辞儀をする。
そして、三人は消えていった。
「みんな、天国にいけましたかね?」
「きっと、な」
残されたのは俺とロラーナ、そして物言わなくなった骸。




