第四十三話 物件内覧
「そ、そそそそのっ! んにゃっ! 本当にこの物件を見るつもりかにゃ……」
内覧ということで、俺とロラーナが気になった物件にライラが案内してくれた。
「もちろん。こんなに条件に合致する家は中々ないからな」
「雰囲気があって、私もワクワクします! ライラさん、お願いします!」
案内された物件の前で、俺達三人は建物を眺めている。
ライラは、なんだか中に入りたがっていなかったけれど、俺はこの物件を気に入っていた。
敷地も広いし、塀に囲まれている。
周辺の家は新しいのに、誰も住んでいなかった。
「あの〜……もし何かあっても弊社としては、責任が取れないにゃん? やめといた方がにゃ」
「ん? そんなにここはやばいの?」
「……はいにゃ。ここは弊社『夢と希望とローンのマイハウス』が、都市開発に乗じて購入した中古の物件です……にゃん」
ライラの耳がペタリとたたまれて、重たそうに口をゆっくり開いて、説明してくれる。
「前に住んでいた方が、行方不明になったとか、殺された、それか……取り憑かれて狂ったとか、いわくがあるのにゃ」
「へ〜、それならどうしてこんな物件を、夢と希望と……えっと、まぁ会社が買ったんだ?」
「それは……お祓いでもすればなんとかなるだろうと、上層部が言ってたらしいですにゃ……結局は意味がなかったのですにゃ〜」
それが原因で、この周辺の家には誰も住んでいないのだろうか?
「元々は、この家しか周辺には建っていなかったのですにゃ……人口の増加に伴って、住宅地を広げなくちゃいけなくなって……」
周辺に家を建てたわけか。
「夜になると、女性の声が聞こえた。人が首を吊っている。男が奇声を上げながら走る……なんて、そんなクレームが後を絶たず……今も売れずに、お荷物物件としてずっと持っているんだにゃ……」
「ラグルさん……なんか、凄いところに来ちゃいましたね……」
「ロラーナは怖いのか?」
「……お化け屋敷みたいで、楽しみです! さあ、中に入りましょう!」
だ、そうだ。
ロラーナが大丈夫なら、まっいいか。
「会社としては、お買い上げいただければ、税金やら、何やらと助かるにゃんですが……お勧めは」
「んまっ、大丈夫だよ。うちにはもっとやばい奴いるし」
伝説のヴァンパイアの王様がいるんだぞ?
ゴーストに比べたら、遥かにやばいよな。
「……わかりましたにゃ。私も覚悟を決めた……にゃん」
ポケットから取り出した鍵で、門を開けた。
錆びついた部分がギーッ、と鳴いた。
太陽が俺達の真上にあるのに、音がない世界のせいか喉が詰まるように呼吸が浅くなる。
敷地に足を踏み入れれば、妙に空気が沈んでいるように見える。
「近くで見ると、結構大きいな。この家」
家と言うより屋敷と言っても、おかしくないかもしれない。
二階建てで、横に広い。
「……昔、学者さんが住んでいたらしいにゃです。ただ、その人は行方不明となってしまって――」
「――あっ!」
「ひゃっ!」
ロラーナの声に、ライラは小さく叫んで両手で耳を押さえながらしゃがみ込んでしまう。
「どうしたんだ? ロラーナ」
「あそこに……誰かの影が……」
指差した方に顔を向けるが、そこには何もない。
「気の所為ですかね?」
「どうだろう。とりあえず、中を見てみようか。ライラ、大丈夫か?」
「はぅ……怖いにゃ! もう嫌だにゃ!」
ライラは小さく丸まって、その場から動かなくなってしまった。
「困りましたね……」
「ん〜、ライラ、俺達二人だけで、中を見てきていい?」
「へっ!? こんなところに一人になるのは嫌だにゃっ!」
ガバっと立ち上がったと思ったら、ライラが必死に訴えてくる。
「一緒に行く? 店に戻っててもいいよ」
「う〜……それはプロとしてのプライドが……行くにゃ! 決めたにゃん! 怖いけど中をしっかり案内するにゃっ!」
ライラが口早くそう言って、玄関の鍵を開けた。
「さっ! 入るにゃ! ちゃちゃっと案内するにゃんよ!」
急かされるように、俺とロラーナが部屋に入った。
「思っていた以上に、広いな」
城と比べれば狭いが、やっぱり、じっちゃんの家と比べると、家と犬小屋くらいの差がある。
玄関に入って、左右に扉がある。
その間の廊下も大人が二人寝転んでも、まだ余裕があった。
奥の方には二階に続く階段があって、その手前には左右に分かれる廊下がある。
「えへへっ! 一番乗りです!」
ロラーナが元気よく、部屋に上がる。
「ただいま〜。なんちゃって!」
こっちを振り向いて、そう言ってきた。
俺がおかえり、と返事しようとする。
「おかエり」
あれ? 今の誰?
「はぅ! ラグルさん! やっぱり怖いです! 私!」
さっきまでお化け屋敷みたい、とか言ってた人物とは思えないくらい、顔を真っ青にして俺の腕にしがみついてきた。
すっ、と目をロラーナに合わせると、目尻にたくさんの涙が溜まっている。
俺はそんな潤んだ瞳を、じっと見つめた。
「う〜……だって、王様になるんだから、幽霊怖いとか……だめかと思って」
つまり、ずっと痩せ我慢をしていたわけだ。
「なぁ、ライラ」
ロラーナと二人で外で待っていてもらおうと、声をかけながら振り向くと、彼女は玄関にもたれかかるように意識を失ったまま座り込んでいた。
「……心霊現象ね」
俺は意識を空気中の魔素に集中する。
一部の濃度が、人の形となっているけれど、魔力が含まれているとなると、それは純粋な幽霊ではないんじゃないかと思う。
じゃぁ、それをおびき寄せているもの、もしくは縛りつけているものはなんだ?
俺が痕跡を探すように、視線を走らせる。
「ああ、やっぱり」
「え? ラグルさん! 中に入るんですか!?」
「そうだよ。この原因の確認をしないとね」
「……原因? でも、嫌です!」
駄々をこねるように腕を引っ張ってくる彼女ごと、中に連れて行く。
「ん〜、二階に繋がってるな」
「や〜だ〜! 怖いから帰る〜!」
そう言って聞かないロラーナを抱き上げて、俺は階段を一つずつ登る。
可愛げのない声で鳴く木の板は、悲鳴を上げているようにも聞こえる。
俺の腕の中で震えるロラーナは、目を強く瞑っていた。
「こっちか……」
二階に上がると、左右に分かれる廊下があった。
部屋は均等に並べられていて、登って正面には窓がある。
その廊下を右に曲がった。
「この部屋の中であってるよな?」
三つ並んでいる部屋の真ん中。
無機質な木の扉を貫通するように、魔素が乱れていた。
手を伸ばす。
ドアノブを握ったはずだった。
冷たい……。
人の手。
家に入った時に聞こえた声は女性だったのに、今握った手は男のもの。
丸いドアノブはいつの間にか男の手に変わっている。
「ふんっ!」
「――ぐへっ!」
悶絶するような声がして、握っていた手がドアノブに変わっている。
「ひぃぃ〜!」
腕の中から、知らない男の声に驚いたロラーナが顔を真っ青にして、情けない声を上げていた。
「誰かいるのか〜」
躊躇なく扉を開くと、正面に黒い椅子と机が置いてある。
左の壁には本棚がずらりと並べてある。
「そろそろ降りてほしいな……」
「嫌です!」
動きづらいから、そう声をかけたが両腕が首に巻きついてくる。
むしろ、余計悪化したわ。
仕方ないと諦めて、部屋をぐるっと見回しても昔の住人が置いていったものしかない。
でも、頭のスイッチを切り替えると――
「――本棚の後ろか」
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