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第四十二話 美味しジュースと物件探し

「いらっしゃいませー! 本日はどのようなご要件かにゃっ? 賃貸でも、建売でもどんなお家も取り揃えているにゃっ!」

 

 黒いジャケットと、黒いズボンを履いて、身だしなみを整えた店員が俺とロラーナを出迎えてくれた。

 店内は静かな音楽が流れていて、周囲を見回すと、家具のサンプルなどが並べられている。

 

「えっと、家を探していて……」

 

 猫族の人間の耳がピコッ、と真っ直ぐに伸びた。

 

「物件のお探しですにゃっ! こちらのテーブルで待っているにゃん!」

 

 丸いテーブルに案内されて、俺とロラーナは椅子に座った。

 

「こちら、お飲み物です」

 

 すると、ジャケットを着た青年がお盆を片手にジュースを運んできた。

 こと、っと静かにテーブルに置くと、失礼しますと言って戻っていく。

 

「美味しそうなジュースですね。何でしょう?」

「なんだろうな? はっ!? これは!?」

「どうしたんですか!? ラグルさん!?」

 

「――めっちゃ美味い!」

「ええ!? そうなんですね! はっ!? これは!?」

 

 俺がストローに口をつけて、出されたジュースを飲む。

 酸味が口の中に広がって、ぽっぺたが窄まるような感覚がしたが、その後に広がった甘味が頬のこわばりを消してくれる。

 

 なんと言うか、病みつきになるような味がした。

 

 先に俺が飲み干して、ロラーナが続く。

 名残り惜しそうに隅々まで啜る彼女は、王女には見えない無邪気さがあった。

 

「はぅ〜……私、このジュースめちゃくちゃすきです」

「俺も、もっと飲みたい」

 

 じっと、空になったガラスのコップを見ていると、猫人の店員のお姉さんが現れた。

 

「ん? お客さん、どうしたかにゃ? 何か問題でもあったかにゃ?」

 

 コップを不思議そうに眺めていたら、そう声をかけられた。

 はっ、となって顔をあげると、分厚いファイルを持ったお姉さんが不思議そうな顔をして俺達を見ている。

 

「いや、このジュース……」

「凄く美味しくて――」

「うにゃっ! それは嬉しいにゃっ! おーい、こちらのお客さんに、ジュースのおかわりよろしくにゃっ」

 

「いいんですか!?」

「もちろんにゃお。作り方は企業秘密にゃんだけど、たくさん褒めてくれるのは嬉しいにゃっ」

 

 なんと言うか、懐っこい店員さんだと思った。

 ジュースを褒められただけなのに、鼻歌を歌いながら、持ってきたファイルをめくっている。

 

「それで、お客さんは、どんな物件をお探しですかにゃ?」

「それなんだけど、廃墟に囲まれた家とか、周囲が壁に囲まれた家とか、それか――」

 

「――ちょっ、ちょっと待つにゃ!? もしかして、わけありかにゃ!? そう言うのはちょっと……」

 

 店員の女性が慌てたようにそう言ってくる。

 

「そう言うお客さんにはちょっと……うちも、信用問題とかにゃ、あるので〜」

 

 それも、そうだよな。

 

「あの……大きい声を出さないで欲しいのですが……私――実は」

 

 ロラーナが、この王都に入ってくる時に騎士に見せた紋章の入ったレリーフを机に置いた。

 

「これにゃ……にゃにゃにゃっ!? 王……むぐむぐ……危なかったにゃんっ!」

 

 思いっきり声をあげそうになった口を、自分のモフモフでぷにぷにしたピンク色の肉球で塞ぐ。

 肩で息をする彼女は、慌てたように自分のジュースに口をつけた。

 

「すっぺっ! 甘いっ! かーっ! 今日は凄い一日だにゃ……こんな日が……来るにゃんて、ゴホッ、ゴボッ!」

「あ、その、だ、大丈夫でしょうか?」

「はう! 大丈夫でございましゅるにゃお!」

 

 最早呂律すら回っていない。

 

「はっ! もしかして、お二人は……禁断の恋ですかにゃ? それなら、人目につかない物件を探すのも納得にゃ」

 

 店員が体を乗り出してくると、手を口元に添えて小さい声でヒソヒソと話してくる。

 

「え! いや、違うんです! これには――」

「――そんなところだ。それで、家は売ってくれるのか?」

「ラグルさん! そりゃ、将来のフィアンセ候補ですけど……ぶつぶつ」

 

 そう思い込ませていた方が、いろいろと都合がいいだろう。

 横でぶつぶつと言っているロラーナには悪いが、話を進めさせてもらうことにする。

 

「にゃるほど〜。それなら、このライラにお任せにゃんっ!」

 

 この猫人族の店員さんの名前は、ライラと言うらしい。

 猫の手をぎゅっと握って、胸をポンッと軽く叩いた。

 

「ちなみに、ご予算の程はどれくらいか聞いていいかにゃ?」

 

「えっと、お小遣いの一部を持ってきたから、少ないかもしれませんが、金貨百枚くらいは……」

「――へっ? 金貨……百枚? は、え?」


 ライラがロラーナの言葉に声を失っている。

 

「その、お小遣いが金貨百枚かにゃ?」

「小さいころから、コツコツ貯めてまして。その……少ないですか?」

 

「少ないどころか……なんでも買えますよ」

 

 猫語を忘れてしまったらしく、ライラは普通の人と同じ話し方になった。

 

「お小遣いで……ははっ、さすがにゃ……。私の給料、ううっ……」

 

 ライラから悲しそうな声が、ツラツラと出てくると今にも泣いてしまいそうになっていた。

 

「……んにゃっ! そんなこと言っててもしょうがないにゃん! 人は人、私は私にゃおーん!」

 

 今度はライラがばっ、と顔を向けてそう言ってきた。

 

「それじゃぁ、お二人の物件に合うところを探すにゃん」

いつもお手に取っていただきありがとうございます!


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