第三十五話 それぞれの役割
ロラーナが他人の死を容認すると決めてから、サリスが再び話を切り出した。
「それで、次はどうするつもりだ?」
「……それは、姉のところに向かいましょう」
アリシャの話を聞いて、どこかロラーナは焦っているように見える。
とは言え、今日、今から襲ってくる可能性もあるのだ。
カエラの呪いとリンクしているか分からないが、不安の芽は潰しておきたいところではある。
机に寄りかかったままだった、サリスが真っ直ぐに立つと、再び口を開いた。
「ほう……それなら、戦力を分散する必要があるな」
「ええ、サリスさんとリズアラでカエラちゃんを守っていただけますか?」
「ロラーナ、私も行く」
リズアラがそう言うが、首を横に振った。
「いえ、せっかくカエラちゃんが元気になったんだから、側にいてあげて」
「……分かった」
「では、私とラグル殿がレイラ様の元に向かうのでいいですか?」
ロラーナが静かに頷く。
「なぁ、ロラーナはレイラが、アリシャの言う怪物みたいになった原因を知らないのか?」
「心当たりは……ない、ですね」
「そうか。なら、本人に聞くしかないな。虚狼はロラーナを守ってくれ」
結局、何が原因かは分からなかった。
となれば、さっさと乗り込んで、この呪いの件と、怪物になった件を解決して落ち着きたい。
◇
「――いってらっしゃいませ、皆様」
リズアラに見送られて、俺達はレイラ=ドラグーンの元に出発する。
ロラーナ、アリシャ、俺。そして、虚狼。
あれ? てか、こっち……まともな人間いなくね?
ロラーナも竜の血が流れてるし、俺もハーフだし。
まるで、俺達って、人間の城に攻め込む怪物集団なんじゃないか?
アリシャが先頭で、俺が最後尾。
ロラーナを真ん中にして、城に向かって足を進めていた。
「門番さん、こんばんは」
リズアラの家から、城の正門まではそこまで遠くない。
途中で襲撃されることを警戒していたが、何もなく無事に到着した。
城に着くなりロラーナが門番に挨拶をすると、緩んでいた体がピシリと伸びる。
俺達はその横を通り過ぎて、中へと入った。
「レイラお姉様の部屋はこっちです」
城の中は夜だと言うのに、昼間のように眩しい。
でも、夜もだいぶ遅くなったせいか、賑やかさはなく、物寂しいような妙な静けさが漂っていた。
入ってすぐに右の扉。
扉の表面は赤く塗られていて、金色の糸で花の模様が刺繍されている。
ドアの銀色の丸い取っ手も、磨かれたように光を反射していた。
扉を開ければどこまでも続くような絨毯が敷かれ、壁には先端が分かれた支柱のような物が取り付けられており、光る石がそこに置かれている。
一度、ロラーナの兄弟と会う時に来たところと同じ場所だったが、あの時はあまり見る暇がなかった。
「へぇ、こうやって、光源石をずっと光らせてるのか」
俺は壁に手を当て、じっくりと見た。
魔力が紐のように流れている。
それが、光源石を乗せた支柱に魔力を供給して光らせているようである。
「ちなみに、魔力の供給はどうしているんだ?」
「えっと……詳しくは分かりませんが、魔石を利用しているらしいですよ」
魔物の体内にある魔力の源に、こんな使い方があるのは知らなかった。
村に帰ったら、試してみようかな。
「ラグル殿は、魔力が見えるのですか?」
「意識すれば見えるよ。アリシャも見える?」
そう聞き返すと、「いいえ」と返事が返ってくる。
「ラグルさん、普通の人間には見えないんですよ。アリシャさんは……今はヴァンパイアですけど……」
「ロラーナ姫、気になさらず大丈夫です。確かにヴァンパイアになって、身体能力も五感も強化されましたが……ラグル殿のように魔力までは見えないですね。魔眼持ち、ですか?」
「魔眼はないよ。村には何人かいたけど、俺の目はいたって普通だな。気づいたら見えてたし」
「やはり、魔族は魔法にかなり精通しているのですね」
入口でずっと話し込んでしまった。
「ごめん。だいぶ話し込んじゃったね」
「いえいえ、では、参りましょう。こっちです」
廊下をずっと歩いて行くと、左に曲がる道と真っ直ぐに進む道がある。
ロラーナが真っ直ぐ進んでください、と指示をして、先頭を歩くアリシャが前を向いたまま頷いた。
そこから、何度も廊下を曲がり、自分がどの道から来たのかすら分からなくなってしまう。
「迷路……みたいだな」
「あながち間違ってませんよ」
「と、いうと?」
「暗殺者から身を守るため、わざと複雑にしているんです。私は、遠いのは嫌だと父に駄々をこねて、近くの部屋になりました」
「意外と、わがままなんだな。ロラーナは」
そう意地悪を言ってみるが、ロラーナは楽しそうに笑っていた。
「なぁ……聞いていいか分からないんだが、父親の話は聞くけど、その……母親はどうしたんだ?」
「母は……私が産まれてすぐに、姿を消してしまったらしいです」
「そうか……悪い。なんか」
「いえ、顔も覚えていませんので、寂しいとかはあまりなくて。そんなことより……ラグルさんも」
「俺の両親な……二十年も旅行に行ってるんだぜ。早く帰ってこいよ」
俺の言葉に前を歩いていた二人の足が止まる。
「ラグル殿……」
「ラグルさん……」
二人の声が同時に、俺の名前を呼んだ。
「なんだ? 二人して」
「ラグルさんのお父様も、お母様も、無事だといいですね……」
「きっと無事ですよ。ラグル殿……」
ただの旅行なのに、二人して深刻な顔をしてどうしたんだ?
じっちゃんも村のみんなも、そのうち戻ってくるって、子供の頃から言ってるし。
そのうち帰ってくるだろう。
「寂しくなったら、いつでも私に言ってくださいね」
「寂しい? よく分かんないけど、分かった」
俺の返事を聞いてロラーナが前を向くと、アリシャが再び歩き始める。




