第三十三話 みんな仲良し
「ん? リズアラ、何かあったの? 目が真っ赤だよ? それに、ラグルさんも……まだ疲れた顔をしてますね……大丈夫ですか?」
昨日の疲れでこんな風になっているわけじゃない。
そのことを知らないロラーナは、椅子に座っているカエラの髪の毛をとかしながら、俺とリズアラの顔を見比べていた。
「お姉ちゃん、いっぱい泣いちゃったもんね。私もびっくりして泣いちゃったよぉ」
「ちょ! カエラ!」
リズアラがそう叫んでも遅いようで、ロラーナはカエラの言葉にはっ、とした表情になる。
「そっか〜。リズアラはカエラが元気になって嬉しかったんだよね。それなのに、ラグルさんに迷惑かけて、びえーん! って、なったんじゃない?」
妙に鋭いというか、ほとんど合ってるんだが。
心でも読めるのか?
ロラーナのすぐ横に立っているリズアラに目を向けるが、一瞬だけ合うと弾けるように顔を逸らした。
茶色い髪の隙間から見える、彼女の耳の先端は赤く、こっちが気になるのか、チラチラと視線を向けてくるが、顔を向けることはなかった。
「そうだ! カエラちゃん、髪の毛切ろうか」
リズアラと同じ栗色をした髪の毛は、長年切っていなかったのだろう。
ロラーナがいくら整えてもボサボサで、尻まで隠れるくらい伸びている。
「本当!? ロラーナお姉ちゃんが切ってくれるの?」
「ええ、任せて。私も子供の頃はリズアラの髪もよく切ってあげてたんだよ」
「やったー! お姉ちゃんとお揃いがいい!」
両手を突き出して喜ぶカエラに、ロラーナが微笑みかける。
リズアラは、元気になった妹を見て、いつも凝り固まってるような表情がほころんだ。
たったそれだけなのに、達成感とは違う、温かいものが流れ込んでくるような気がした。
これがロラーナの目指している世界なのかもしれない。
「ロラーナお姉ちゃん、可愛くしてねっ!」
「カエラ! ロラーナ姫にそんな言い方しちゃ――」
「――いいのよ、リズアラ。それに、私も昔みたいに、ロラーナって呼んで欲しいかな」
三人の会話を耳にしながら、ゴミ箱に捨てられたサリスを回収する。
持ち上げた時に、薄っすら瞼が開いたけれど、すぐに閉じてしまった。
テーブルの上で、白い布を被せられたアリシャの横に、並べるように寝かせてやると、サリスは横に寝ている彼女に体を寄せて丸まってしまった。
「吸血鬼の王にも、可愛らしいところがあるじゃないか」
そう軽口を叩いても、サリスもアリシャも起きることはない。
サリスが丸まった拍子にずれた布を直している最中も、三人の会話とハサミの軽快な音が聞こえていた。
「……分かった。ロラーナ」
「えへへっ! 嬉しいな。リズアラが帰って来てくれたみたい」
「お姉ちゃんとロラーナお姉ちゃん、仲直りしたの?」
「ん〜、喧嘩はしてないからちょっと違うかな。私がリズアラに冷たくされてたんだよ……シクシク」
ようやく雪解けって感じかな。
サリス達から目を離して視線を動かすと、泣き真似をするロラーナが視界に映った。
「お姉ちゃん、めっ!」
「カエラまで……ふふっ、リズアラにはかなわないなぁ。分かったよ。ロラーナ――ごめんね」
「うん、許します。リズアラ」
二人が顔を見つめ合って笑っている。
カエラも赤みが戻った頬を緩ませて、ロラーナとリズアラを真似るように笑っていた。
仲直りできてよかった。
後は、俺もしっかりリズアラに言わないと。
「リズ――」
「――ラグルさん」
ほぼ同時に発した言葉は、わずかにリズアラの方が早く、俺の口を塞いでしまった。
ロラーナの横に立っていた彼女が、ゆっくりと歩いてくる。
「あらためて……このたびはカエラ=エイスを助けていただきありがとうございます」
リズアラは両手を体の前で合わせて、深々とお辞儀をしてくる。
「そして、ロラーナ姫……ロラーナを、友達を、助けてくださりありがとうございます。リズアラ=エイスの名に誓って、微力ですが……私もロラーナ=ドラグーンを王にする手助けをさせてください」
むしろ、こっちからお願いするつもりだったんだけどな。
「その……なんというか……いや、俺の完敗だよ。リズアラ」
「完敗……ですか?」
「そうだ。君の心は強い、それは俺が保証する。俺なんかよりも、ずっとずっと強かった」
「いえ……そんなことは……」
否定してくるリズアラに、俺は首を横に振った。
「ごめんな、体痛かったろ? もっと違うやり方があったのに、弱い者いじめするみたいでさ……ずっと謝りたかったんだよ」
「それは私も一緒ですから……」
「そうかもしれないけど……三人の仲がいい姿を見せられて、万が一があったらと思うと……自分の力が少し怖くなったんだよね」
自分の心を懺悔するようにさらけ出し、リズアラの奥にいるロラーナとアリシャにも目を向けた。
「だから、いろいろ――ごめんな」
今の俺にできることは、謝ることしかない。
「安心……しました」
リズアラの呟きが耳に届き、ゆっくりと俺は頭を上げた。
「……安心?」
「ええ、力に溺れた怪物じゃないと。ちゃんと、あなたも――人間だと」
「人間……そうだな」
半分は魔族だけど、何故か「人間」と言われたことが嬉しかった。
「それで、お返事をいただけていませんので、教えていただけますでしょうか?」
「――むしろ、こっちからお願いしたい。ロラーナを――頼む。俺達に協力してくれ」
俺がそう言うと、リズアラは柔らかい口調で「はい」と返事をする。




