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第三話 じっちゃんの名前がださい

「魔族……だと」

「そうじゃ、魔族じゃ」

「…………」

「驚いたかえ?」

 

「――何それ。人間と違うの?」

 

 俺がそう言うと、じっちゃんは眉間を指で挟んで肩を震わせた。

 

「本――当に馬鹿じゃの。頭まで魔力と筋肉で出来ておるわ」

「ああ――ジジイ、やるか!」

「やらんっ!」

 

 たく、俺がこの年になるまで知らないのは、仕方ないだろ?

 

 子供の頃から、農業やら、狩りやら、そんなんしか教えてもらってないんだからよ。

 ぐだぐだ言ってないで、さっさと教えろ。

 

 間違えて、コップをじっちゃんの頭だと思って握り潰してしまったじゃないか。

 

「なに、魔族は人間より寿命が長くて、魔法に卓越した種族なんじゃ」

 

「それが俺達なのか? 寿命ってどれくらい?」

「知らぬ。寿命で死んだ者を聞いたことないからの」

 

 じっちゃんがヒゲの生えていない顎を擦りながら、視線を上げる。

 

「死に急ぐものばかりだったからの。群れない孤高の戦士。人間との戦争で、だいぶ数が減ったのじゃ」

 

 好戦的な人種だったのだろうか。

 

「……ちなみに人間の寿命は?」

 

「ん〜む、八十歳くらいじゃったかの。わしも久しく人間の世界に降りておらぬから忘れてしもうたよ」

 

 人間の寿命短いな。ゴンタとハナコ以下じゃないか。

 

 

「つまり、森の外には他に魔族がいると?」

 

 寿命がないなら、さぞ繁栄していることだろう。

 

「おらぬよ。この村にしか魔族はおらぬ」

「それはどうしてだ?」

 

 じっちゃんに、俺はそう聞き返す。

 

「――それは、昔、人間と魔族で戦争があったからです」

 

 澄んだ透明感のある声が聞こえた。

 ロラーナが風呂から上がったようである。

 

「服は大丈夫か?」

「はい。ちょっと胸の当たりが苦しいですが、貸していただき、ありがとうございます」

 

 薄緑色のワンピースを着たロラーナは、目鼻立ちがくっきりとしていて、整った顔立ちをしている。

 スラリとした体躯で出るとこが出て、引っ込むところは引っ込む。そんな感じだ。

 

 そのせいで、田舎の服が妙に浮いて見えた。

 そんなアンバランスな彼女が、失礼しますと言って、俺の横の椅子に座る。

 

「戦争って、魔族が勝ったんだろ?」

「いえ、人間が勝利を収めました」

「どうして?」

 

 さっきの話を聞いたら、人間に勝ち目なんてないように思えるのだが。

 

「魔族はのう、孤独なんじゃ」

「孤独?」

 

「個で存在して、決して群れない。だから、人間に敗北した、でしょうか?」

 

「お嬢ちゃんは、博識じゃな。その通りじゃよ」


 初めて聞いたことばかりだ。

 

「魔王様、あの御方がまとめようとした時には遅かったのじゃよ」

 

「魔王って偉い人?」

「――ちっ!」

 

 ジジイ、後で覚えとけよ。

 

「魔王は、魔族を統べる最強の存在です」

「そんな人……魔族がいたんだな」

 

「結局は勇者に倒されて、魔族は人間に滅ぼされましたが」

 

 でも、この村の連中はみんな仲いいし、戦争をするようには見えないんだよな。

 それに孤高の存在、そんな感じもしないし。

 

「時代じゃよ。我ら魔族は、五百年前に戦う事をやめたのじゃ」

 

「じっちゃんって、その戦争の時の生き残りなのか?」

 

「まあ……そうじゃな。魔王様の右腕をしておったよ」

 

 ただの色ボケジジイかと思ってたら、意外と凄かったんだな。

 

「右腕……黒月のコーランド?」

 

「ふぉっふぉっ、久しぶりにその名で呼ばれたわ」

 

「黒月のコーランド……じっちゃんが」

「どうじゃ? 凄いじゃろ」

「パッとしない名前だな」

 

 黒月とか、なんかダサい。

 しかも、強そうに見えない。

 

「……ラグルよ……表に出ろっ!」

「上等だ! クソジジイ!」

「ちょっと! 二人とも落ち着いて!」

 

 ロラーナが慌てた様子で、俺とクソジジイをなだめる。

 浮いた腰をストンと降ろして、ジジイを睨みつけた。

 

「すまんのぉ。つい、カッとなってしまったわ」

「うちのジジイが騒がしくて、申し訳ない」

 

「その、ラグルさんはジジイとか言ってますけど、全くコーランドさんは、お爺さんに見えませんよ……」

 

 でも、九百九十九歳だよ?

 俺からしたらジジイとしか思えん。


「お嬢ちゃん、コヤツは馬鹿なんじゃ」 

「あ……」

 

 ロラーナも納得するな。

 

「そう言えば、寿命はないかもしれないって言ってたよな? ジジイ」

「…………」 

「見た目も村の連中と変わらねーし。つまり――」

 

 俺が言葉を言いかけた瞬間、ジジイの姿が消えた。

 アイツ、ジジイじゃねー!

 

「くそ! 逃げやがったか!」

「ふぉっふぉっ! ワシは子牛の様子でも見てくるかのぉ! ふぉふぉふぉ」

 

「空間転移……ですか。それも無詠唱で。流石コーランドさんです」

 

 俺とロラーナは、静かになった部屋に取り残されてしまった。

 

「そう言えばさ、ロラーナも……スンスン」

「え? 私匂います?」

「いや、普通の人間じゃないよな?」

「分かるんですか?」

「ん〜、薄っすら竜の匂いがする」

 

 森に漂っていた血の匂いは、獣かと思っていた。

 だけど、倒れているロラーナを見て勘違いかと思ったんだ。

 

 今もかすかに匂う、竜の匂い。

 

 彼女の反応を見ても、間違いじゃないらしい。

 

「ロラーナ=ドラグーン。ドラグーンの名前の通り、私の体には竜の血が流れております」

 

「おお、だから獣の匂いがしたのか!」

 

「け、獣……おほん。そうですね。私達王族はかつて悪虐の限りを尽くした竜を倒してその血を飲みました」

 

 竜の血か。滋養強壮の効果があるもんな、あれ。

 疲れた時には一発で効く。

 

「その時に、ドラグーン家は人間をやめ、竜の血を受け継いでおります」

 

「つまり、ハーフ……俺と仲間じゃん!」

「ラグルさんも竜の?」

 

「違うよ。魔族と多分人間のハーフらしい」

「魔族と人間の……」

 

「俺もさっきじっちゃんに初めて教えてもらったんだよな」

 

 全然知らなかった。

 むしろ、父ちゃんも母ちゃんも教えてくれなかったし。

 いなくなったし。

 

「そうだったんですね」

「らしいね」

「お父様とお母様は何も……?」

 

 ロラーナは聞きづらそうに口ごもるように、そう言った。

 

「五歳の時にさ――」

 

 『ラグル! 父さんと母さんは新婚旅行に行ってくるから、コーランドと留守番してるんだぞ』

 『ラグルちゃん、いい子にしててね』

 

「って、旅行に行って帰ってこなくて、二十年くらいかな」

 

「……魔族って、なんか……凄いですね」

 

「ずっと、じっちゃんと一緒だったからな〜」

「寂しくはないんですか?」

「全然」

「それなら、良かったです」

 

 寂しいかと言われれば、子供の頃はそう思ったかもしれないけど、今となったらそれが普通だからな。

 じっちゃんも村の人も、なんだかんだいい人だし。

 

「ロラーナは、しばらくしたら帰るんだろ?」

「ええ」

 

「俺はそっちの方が――寂しくなるかもな」

 

 過去より未来。

 出会ってわずかだけど、いなくなるところを想像すると、心が軋むような感じがした。

 いつもお手に取っていただきありがとうございます!

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 毎日投稿いたしますので、よろしくお願い致します。

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