第二十一話 自分の意思
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「大丈夫か? ロラーナ」
ロラーナの兄弟達が外に出ていって、彼女はその場にへたり込むようにしゃがんでしまった。
サリスがコウモリの姿になって、俺の肩に止まったと同時に声をかける。
「だいじょはない……かもしれなくもないです」
どっちだよ。分かりづらい。
俺が意識を奪ったアリシャを抱きかかえると、ロラーナは椅子の背もたれに手をつきながら立ち上がる。
「とりあえず、アリシャさんを私の部屋に運びましょう」
疲れ切った顔をしたロラーナは、フラフラとした足取りで部屋を出る。
俺もその後を追って行こうとすると、右のポケットにサリスが潜り込んで行く。
俺は寝る、そう言って彼は姿を消した。
◇
「アリシャさんを、ベッドにお願いします」
ロラーナの部屋はめちゃくちゃ広い。
そりゃ王族だし、お金はあるって知ってるけどこれほどとは思わなかった。
どれくらいかって? やっぱりじっちゃんの家は犬小屋だったよ。
ベッドもふかふかだし、じっちゃんの家の布団は煎餅みたいだし。
ロラーナがベッドに備え付けられているカーテンを降ろす。
カーテン? ベッドに? 意味分かんねー。
「はぅ〜。きゅぅ〜!」
俺が驚き過ぎて呆れていると、謎の声をあげたロラーナは窓際に置いてあった椅子に座って机に突っ伏してしまう。
「いつもあんな感じなのか?」
彼女に歩み寄りながら、声をかけると、のっそりと顔をあげる。
振り向いた彼女の顔は半目で、今にも寝てしまいそうだったが、何度か強く瞬きをして目を覚まさせていた。
「いつも……そうですね。私はこういう性格なんで、兄弟にはからかわれていましたね」
からかう……とは程遠い雰囲気だったような。
「王位継承の呪いでもかかったんでしょうか。からかいの対象は……いつの間にか淘汰される対象になったんだと思います」
そう言った彼女はすっと目を伏せた。
「兄と姉は悪いこと、もしていたのかもしれないです。でも、私に接してくれる時は愛情がありました」
「今は、愛情の代わりに……殺意」
「……そう、ですね。今日なんてラグルさんも、サリスさんもいなければ……」
王位継承なんてなければいいのに、と続けた彼女は目を伏せる。
「みんなが変わったのは、王位継承の話が出てからなのか?」
「そうです。父から石を譲り受けた時、四人の性格が豹変しました」
権力が全てを狂わせたのだろう。
「長男、ヘイザスお兄様は、冷静沈着で兄弟のまとめ役でした。ですが、今は”鉄の仮面”と呼ばれています」
「鉄の仮面?」
「そうです。歯向かうものには容赦しない。それが、貴族であっても平民であっても」
「門番のあの態度は、ヘイザスって奴のせい?」
「恐らく……何人も処刑されたと聞きます」
冷静な彼の仮面の向こうには、処刑人としての冷酷な一面があるというのか。
「次男、ニヒト兄様。三男、グリシュ兄様。そして、長女のレイラ姉様。全員に黒い噂を聞いたことがあります」
兄弟のことを話す、ロラーナの言葉は重苦しくて俺は何を返していいか見つけられなかった。
いつもなら、ふざけて話を流せるのに、彼女のそんな表情を見せられたら、何も言えない。
「本当に、ラグルさんありがとうございます。サリスさんも目を覚ましたら、そう伝えてください」
「言っとくよ」
王都に来るまでの数日間のロラーナと過ごした日々は楽しかった。
それが様変わりしてしまった今は、楽しくない。
バルバトともすぐに打ち解けるくらい、ロラーナは分け隔てなく接している。
そんな、不思議な魅力の彼女を取り戻したく思えた。
窓の外を見ながらこれからについて考えていると、視界の隅に映るロラーナはコクリコクリと、頭が上下している。
俺はなるべく音を立てないようにして、少しでも休ませてあげたいと思った。
◇
「んにゃっ!? はにゃっ!? 私はにゃっ!?」
「疲れてたんだな。ロラーナ、おはよう」
寝起きの猫人間は健在で、どことなく安心感を覚える。
彼女は相当疲れていたらしく、外に目を向ければ太陽が今度は眠りにつこうとしていた。
ロラーナからアリシャに視線を移す。
彼女は起きる気配なく、静かな寝息を奏でるだけだった。
「くぅ〜っ!」
俺が両手を上げて背筋を伸ばすと、軽快な音が肩から鳴る。
「ラグルさんは、ずっとそのままでいたんですか?」
「まあね」
「その……すいません。私ばかり寝てしまって」
「気にする必要ないよ。ロラーナが寝ている間に、いろいろ頭の整理ができたしさ」
「……整理、ですか?」
彼女は少しだけ顎を引いて、上目遣いで俺を見る。
「なんかさ、ここまで成り行きみたいだったじゃん。じっちゃんにいろいろ言われて、強引にさ」
「……そうですね。ラグルさんも嫌々でしたもんね」
「嫌々ではないけど……まぁ、だからさ、ちゃんと言わないとと思って」
「……はい」
彼女の言葉は重く沈み、今にも泣き出しそうなくらい涙が溜まっているのが分かる。
だからこそ、俺ははっきり言わなければならない。
「ロラーナ=ドラグーン。俺は君を――王にする」
真っ直ぐに見つめて、ロラーナに俺の思いをぶつけた。
彼女がうたた寝していた間、ずっと考えていたのだ。
どうしたら取り戻せるのか。
自然な姿の、ロラーナ=ドラグーンを。
珍しく、何年ぶりくらいかに、めちゃくちゃ考えた。
本当にどうしたらいいのか。
みんなが認める立派な――王になればいい。
「――え?」
「ちゃんと俺の気持ち、言ってなかったろ。早く王になって、いつもみたいに――笑ってくれよ」
ただ、それだけでいいや。
じっちゃんに言われた婚約者とか、よく分からない。
でも――この一つの願いだけは絶対に叶えてみせるよ。




