第十七話 ようやく到着
勇者の剣? 知らん。
もう、さっきのことは忘れた。
みんなも記憶を忘却したように、その話題には誰も触れない。
そして、村を出発前に村長の家に立ち寄っていた。
「やっぱり凄いたくさん本があります」
「やっぱり? 一度来たことあったかのう?」
「あ……それは、誰もいなくなった村を調査してて」
「そういうことなら、気にすることないのじゃ」
「しかし、村長は本が好きなのか?」
「本、と言うより歴史が好きでのう。先代、先々代から集めた書物がここにはあるのじゃ」
本棚いっぱいに仕舞われた本に目を向ける。
中には、表紙の文字すら分からないくらい掠れているものもあった。
「国宝級の本もあるんじゃないですか? 少し見てもいいですかね?」
「もちろんじゃ。好きに見てもらって大丈夫ですじゃ」
ロラーナはお礼を述べてから、本棚へ体を向ける。
小さい体で高いところの本を取ろうと、必死に背伸びをしていた。
俺はすっと手を伸ばして、ロラーナが取ろうとしていた本を手に取った。
「あっ、ありがとうございます」
「これが気になったのか?」
「はい。なんか呼ばれているような気がしたんですよね」
それは、背表紙も色褪せて読めない。
表紙もほとんどが掠れて、黒かった部分は茶色い錆のように変色していた。
かろうじて”竜”の顔だけが残っているが、内容はまったく読めない。
「ん〜、文字もほとんど読めないです」
横からアリシャも覗いていたが、俺と目が合うと読めないよ、と首を横に振る。
「その本はのう。恐らく、この村が出来る前のものじゃろう」
「分かるんですか?」
「儂の父に教えられたからのう」
「あっ! ここ少しだけ文字が読めますよ!」
「どれどれ……邪竜……打倒し……その体内からは四つの竜石が……」
これは、ロラーナの持ってる石について書いてあるのじゃないだろうか。
「ロラーナ」
「はい、恐らく私のこの石のことかと。でも……竜石は――五つのはずです」
彼女はその本の文字を凝視しながらそう言う。
「アルキラ、ベネ、ドルチェ、クローム、コンストリア。私が知ってるのはこの五つ」
「確か、持ってるのはアルキラだっけ?」
「そうです」
「それは、不思議な話じゃの」
「ロラーナ姫は、王よりその石を託されたんですよね?」
「はい、病で床に伏せる父が、私達兄弟五人に、と」
五つあるのに、四つか。
とはいえ、文字がほとんど読めなくて、王位継承の為に必要な竜石かどうかは分からないだろう。
「ん〜、不思議ですね」
「ロラーナの父親なら何か知ってるじゃないか?」
「そう……ですね」
他に本を探したが、特に目新しいものはなく、俺とロラーナは王都に向かうことにした。
村を出る時に、他の騎士達がポタポタ村に向かう姿が見えた。
アリシャが呼んだのだろうか。
鎧を着た騎士が馬に跨り、街道を走って行く。
「これで、ポタポタ村のみなさんは大丈夫そうですね」
「ああ」
「そう言えば、サリスさんはどうしたんですか?」
「サリス? 俺のポケットの中で寝てる。夜行性らしいな」
「ふふふっ、私よりお寝坊さんがいて安心ですね!」
「ロラーナは、寝起き悪すぎ」
「うっ……」
わざと毒づいてみた。
二日続けてロラーナをおんぶしてるし、少し仕返し。
◇
そこから、数日かけて王都に到着した。
特にポタポタ村の一件以降、何か起きることはなく、平和な毎日だった。
「おお〜! これが王都! 壁たけぇっ!」
「えっへん! 凄いでしょ! オリハルコンを練り込んだ鋼鉄の壁ですよ! 魔物は誰も中に入ってくることはできません!」
ロラーナがピシャリと言う。
「オリハルコン……それがなんだか分からないけど、殴ってみていい?」
「ダメです! ラグルさんは規格外なんで!」
そんなに規格外じゃないと思うのに。
ハリシェス村の連中は、俺と普通に殴り合いできるし。
「入口でキョロキョロしてると、門番の騎士に怪しまれますよ」
「そうなの? こんな大きな建物初めて見たからさ」
「中はもっと凄いですよ」
トタトタと、歩いて行ってしまうロラーナを追いかけた。
「通過書を見せろ!」
大柄の騎士が、槍を手に持ってそう言ってきた。
「これはですね、危険人物が街に侵入しないようにしてるんですよ。あ、はい、これです。よろしくお願いします」
ロラーナが何か紋章が書かれた、小さい盾のようなものを渡す。
すると、受け取った門番の手がふるふると震え出していた。
「でもさ、そんなことしたら誰も中に入れないんじゃないのか?」
「一応、そう言う人のために一定以上のお金を預けることで中に入れますね。何もなければ出て行く時に返されるか、永住権を取得すれば返されます」
なるほどね。お金を担保に取ってるのか。
村で何回か見せてもらったお金は、銅と銀と金の三つ。
後は、半分に割れた硬貨だったような。
「あの〜……中に入ってもよろしいでしょうか?」
「――ロラーナ姫!」
いつまでも返事がなく、ロラーナが声をかけると門番が大きな声を出した。
その瞬間、周囲でどよめきが走る。
「た、た、大変失礼致しました! すぐに迎えの馬車を用意致しますので!」
「あ、紋章ありがとうございます。それと、彼に街を見せたいので馬車は大丈夫です」
「し、しかし……」
「それと、彼のお金は私が払いますので、後で私宛にご連絡してもらえますか?」
気づけば俺とロラーナの周囲に人が大勢集まっていた。
どれも、ロラーナと俺を好奇の目で見つめてくる。
「ロラーナって、凄い人気なんだな」
「なんか恥ずかしいですね」
「貴様! ロラーナ姫に不敬であるぞ!」
門番が槍を俺の首筋に当てる。
「ふぁ〜、なんだ? まだ夜じゃないじゃないか。うるさいな」
ポケットから顔を出したサリスが、欠伸をしながらそう言ってきた。
「争いごとか? ラグル」
「分からん」
「そうか……寝る」
サリスがポケットの中に戻っていく。
「あの……ラグルさんは私の友人ですので、槍を下げていただけませんか」
「はっ! ご友人……大変失礼致しました! 私の首だけで許してください! 他の騎士達の命はどうにか!」
「え? ロラーナってそんなことするの?」
「し、しませんよ! 今の兄達ならともかく……その何もしないので、中に入れてもらえると嬉しいです」
「くっ……寛大な心遣い感謝致します! 道を開けよっ! ロラーナ姫がお通りだ!」
大柄の騎士の後ろに立っていた騎士達が、入口の壁の方に移動する。
槍の柄の先を地面にダンッ、と叩きつけて背筋を真っ直ぐに伸ばした。
「恥ずかしい……」
「王族って大変なんだな」
「はぅ〜」
「パジャマじゃなくて良かったよ」
ちなみに今日のロラーナの服装は、長袖にズボン。
まったく飾り気のない、田舎スタイル。
初めて出会った時のドレスは、ロラーナの血だらけでハリシェス村に捨ててきた。
騎士達に挟まれたロラーナが、その真ん中をペコペコして歩くんだから、王女としての威厳もへったくれもない。
ともあれ、俺とロラーナはようやく王都――ドラグニルに到着した。
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