第十六話 勇者誕生
「私は……」
と、目覚めたアリシャにこれまでの経緯を説明した。
「そんなことが……人々を守る義務を背負った私が二度も……一生の不覚」
寝ている間、メルヘン模様だったアリシャは、キリッとした顔で俺達の話を聞いていた。
全てを話し終えると、今度は泣き崩れてしまいそうなくらい顔がしわくちゃになる。
「あわわっ! アリシャさん! 大丈夫ですよ! 一人だったんですし、ね? ラグルさん」
「ん? 俺は一人で戦ったぞ?」
「こらっ! そんなこと言っちゃだめでしょ!」
「うう〜」
「ラグルは、規格外だからな」
「う〜……えぇ!? コウモリが喋った!?」
俺、規格外なのか? みんなじっちゃんに鍛えられたらそうなるんじゃない。
「あ、こちらはサリスさんです。赤月のサリスさんらしいですね」
「赤月……どこかで聞いたことあるような……」
「サリスもやっぱり有名人?」
「人ではないがな、それなりに名前を残すことはしたぞ」
アリシャが部屋の本棚を漁りだす。
「あった!」
デフォルメされた絵本。
『勇者物語』と表紙に書かれていた。
「目が点だぞ。これ」
「ラグルさんは黙っててください!」
「はい……」
「え〜と、あった!」
なになに。
黒月は人を飢えさせ、赤月は人を喰らう。
通った後には痩せ細った人間か、肉すらも血に変わった世界が残った。
「めっちゃ、サリス悪い奴じゃん」
「だから言っておろう」
「虚狼……」
「まてまて、今はもうそんなことするつもりはない」
手斧サイズになった、虚狼を手に取った。
「そう言えば……ラグル。貴様のその腕輪」
サリスは強引に話題を変えてきた。
「それは魔道具か? 腕を切り離しても、一緒に戻る。まるで、魂そのものに刻まれてるような」
「そうだよ。じっちゃんに外すなって言われてる」
「何の為にですか?」
「封印してる。力が強すぎるからって」
「――はっ?」
それがサリスからなのか、ロラーナからだったのかは分からない。
目と口を大きく開けて、そう言ってきた。
「貴様……本当は魔王なんじゃないか?」
「本当に世界征服できそう……」
「はぁ〜、絵本楽しかった!」
アリシャはすっきりとした顔をしていた。
メルヘンパワーを補充したらしい。
◇
「――村長さん!」
いい朝だ。
もちろん、今回もロラーナをおんぶしている。
一夜明けて少し落ち着いてから、村長に会いに行くことにした。
村長宅に到着すると、庭先で体操している姿が見えた。
アリシャが大きな声で話しかけるが、ポップな村長の体操は止まることはなかった。
「村長さん! 村長さん! 村長さん!」
「ほへぇ?」
イゴールが村長の真似をしていたから、またオカマみたいな喋り方になりそうで、不安だったが大丈夫らしい。
むしろ、目の前に立っているアリシャに気づかない村長に心配になる。
俺はロラーナを背負ったまま、アリシャの後を追う。
「ほっ! すまぬアリシャ、寝ておった!」
嘘だろ? あんなにリズミカルに動いていたのに寝てたと言うのか。
睡拳?
もしかしたら、偉大な人物なのかもしれない。
「村長はいつも寝ながら体操してますよね。てか昨日、私達を助けてくれた、ラグルさんと……ロラーナさんです」
彼女に紹介されて軽くお辞儀をする。
一応、だらんと首元に垂れたロラーナの手を持って返事をしておいた。
「ほっほー! そうじゃったのか! 危ないところ助けていただきありがとうございますですぞ」
お辞儀をした村長の頭の天辺は、朝日をよく反射する。
「なんも無い村で何もお礼はできぬのが、非常に心苦しいですな……」
「お礼? いらないよ」
「しかし、のう……」
「それならさ、ロラーナ姫が守ったって代々受け継いでって」
寝てるからって、勝手に英雄にしたてあげようとする。
村長はニカッと笑って、お安い御用じゃと、返事を返してきた。
「ところでさ、あの髑髏はどうしてこの村に?」
「ふむ、話すと長くなるがの……ここは勇者様が魔王を倒した土地なのじゃ」
「勇者が……ここで?」
それならもう少し栄えていてもいいのに、ハリシェス村並みに何もない。
「そうですじゃ。かつては一大国家があったらしいのじゃが……竜によって滅ぼされたのじゃ」
「竜って、ドラグニルって国家になったところに巣を作ってたって言う?」
村長が頷く。
「生き残ったのは”守り人”の儂ら一族。ほそぼそと暮らしておったら、村になっていたのじゃ」
「なるほどね」
「封印する方法も、解除する方法も守り人の一族しかしらぬ。しかし……よりによって孫に変身してるとはのう。開け方教えて、うふ! とか騙されたわ」
あっ、話し方はやっぱりオカマだったんだ。
「他に盗まれた物は?」
「あの骸骨だけだったはずよ」
「それなら、安心です」
村長との会話を黙って聞いていた、アリシャの肩が下がる。
俺は少しずれ落ちた、ロラーナを持ち上げ直す。
「……んっ」
「ロラーナ、起きたのか?」
「ほえっ! ここどこ? 私、またパジャマ!?」
「ほっほっほっ! 英雄様のお目覚めのようじゃな」
「英雄!? どこ? どこにいるの!? 私もみたいです」
背中でジタバタと動き回る彼女を、そっと地面に降ろす。
「ロラーナ、おはよう」
「ロラーナ姫、おはようございます」
「ロラーナ様、この度は村を助けていただきありがとうございますですじゃ。ポタポタ村の村長ですじゃ」
ん? 村長って村長って名前なのか?
「村長さん! 無事で何より――眩しっ!」
村長に目を向けたロラーナが悶絶した。
「元気でいいですのぉ。ところで、お二方は勇者チャレンジをしませぬか?」
「はっ!? もしかしてあの有名な勇者チャレンジですか?」
「勇者チャレンジ? 何それ?」
村長が俺達をとある場所に案内する。
「やったー! 私、一度やってみたかったんですよ」
「ロラーナ様は、もしかしたら勇者かもしれませぬぞ」
なんだろう。って、あれは――
「こちらですぞ」
「めっちゃボロボロの剣」
「こらっ! ラグルさん、勇者様の剣をそんなふうに言っちゃダメです!」
これが勇者の剣か。
なんか、もっと凄いのを想像してたけど、地味。
刃先なんて錆びついてボロボロだし、宝石がハメられていた場所は空っぽ。
たくさんの人が剣を握ったのか、持ち手は黒ずんでいた。
岩に刺さってなければ、ただの朽ちた剣である。
ご自由にどうぞって、もっと大切に扱ってやってくれ。
「勇者様がこの地を離れる時に、誰かが選ばれたら譲ってやって欲しいと仰っていたらしい。それを忠実に守っているのじゃ」
「なるほどね。ロラーナはこれにチャレンジしたいと」
「はい! 今日、私が勇者になる日が来ましたね」
「おおー! 王様じゃなくて勇者になるのか」
「王様兼、勇者です。どれどれ……ふぬぬぬぬぬっ!」
「ロラーナ姫、頑張って!」
アリシャの声援虚しく、ロラーナはその場にへにゃへにゃとへたり込む。
「だめでした……ぐすんっ……ラグルさ〜ん」
ロラーナがとぼとぼと歩いてくる。
「ラグル殿もチャレンジしてみぬか?」
「ん〜、やってみるか」
抜けたところで、俺には虚狼がいるからいらないんだけど。
とりあえず、片手で軽く引っ張ってダメならやめよう。
俺は岩に刺さった剣の柄に、右手を添える。
――すぽっ!
あれ? 戻しとこう。
――ぽすっ!
まさかな。今度は左手で。
「ふぬぬっ! やべー本当に抜けないや!」
「いや、今抜けたように……」
「抜けてないよ! ほら見て! ぬぬぬっ!」
「ラグル殿、何か隠してませんか?」
アリシャが問い詰めてくる。
「……いや、何も?」
勇者とか、嫌なんですけど。
何かの間違いだ。
もう一度、右手で。
すぽっ! ぽすっ!
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