第十五話 仲間が増えた
「あっ! ロラーナ! 今は来ちゃだめっ!」
危ない。
虚狼がまた勝手に攻撃を仕掛けるところだった。
「こらっ! ちゃんと自分の家に帰れっ!」
元いた空間に戻そうとするが、虚狼が背伸びをするように伸びて引っかかって入ってくれない。
「この! 入れ! わがまま言わないの! え? また、放置されるから嫌? 知らんわっ!」
俺と虚狼が格闘すること、数分。
「あの〜」
恐る恐る、ロラーナが近づいてくる。
「この斧は、虚狼ちゃんって言うんですか? 可愛いですね!」
ロラーナに可愛いと言われた虚狼が、トキメクようにピンッと伸びた。
「うねうねしてる〜。可愛い――」
「――あっ!」
手を伸ばしたロラーナに思わず声が出る。
「え? 撫でさせてくれるんですか!」
ふにゃっと曲がって、刃の部分が垂れ下がり、それをロラーナの小さい手が繰り返し撫でている。
「おまっ!? 俺と初めて出会った時は、触らせてもくれなかったじゃないか!?」
おかしいだろ!
俺は虚狼に言うが、ふいっとそっぽを向いてしまう。
「ラグルさん! 虚狼ちゃん可哀想なんで、傍にいてあげましょうよ」
「でもな〜」
ロラーナの言葉に便乗するように、虚狼が俺を見つめ返してくる。
「そんな、泣きそうになるなよ。それなら、勝手に攻撃しない?」
――うんうん。
「ついでに目立たないように、小さくなれる」
――うんうんうん。
「なら、いいか――」
俺が許可した瞬間、虚狼が蛇のように巻き付いてくる。
「あははっ! 虚狼ちゃん、ラグルさんが好きみたいなんですね!」
ロラーナが楽しそうに笑っていると、俺の肩に一匹の小さなコウモリが止まった。
「ん? まさか、お前……サリス?」
ばっ、と後ろを振り返ると、彼の姿はなかった。
肩の上でキィー、キィーと俺の声に反応するように鳴く。
「サリス?」
「そうそう、オカマのイゴールって奴が復活させた」
「――誰がオカマよ! オカマだけどね! うっふん!」
いつの間にか現れたイゴールは、服はボロボロだったがサリスに食われた傷はなくなっている。
「もう! 初めてあんな刺激的な夜を味わっちゃったわ!」
俺の肩に向けてウィンクを放ったイゴール。
サリスと思しきコウモリが、俺の頬に張り付いた。
「サリス、数百年ぶりに喰った人間が、イゴールかよ……」
そう言うと、サリスがはらりと地面に落ちた。
「そう言えば、村のみんなは?」
「無事ですよ! 村長さんもピンピンしてました!」
皮を剥がされて殺されたと思っていた、村長も無事だったらしい。
どう言うこと?
イゴールに目を向ける。
「さすがに私も、人間の皮なんて被りたくないわよ」
「なんか、そう言う能力らしいです。メタモルンでしたっけ?」
「メタモルフォーゼよ! なに、その可愛らしい名前! あくまで表面をコピーするだけよ」
とにかく無事なら良かったが。
「イゴールは、まだ俺達と戦うつもり?」
「それはパス。命救われちゃったからね……恩を仇で返すつもりはないわ」
「そっか。ならいいや」
「いいの? 拷問しない?」
「きしょい」
「うふっ! ウブね!」
「イゴールさん、いい人でしたよ!」
ロラーナ、村人が死にかけたのはコイツが原因だからな。
手伝ってもらったからって、そんなに簡単に信じちゃダメだぞ。
「優しい二人に教えてあげるわ。グリシュ=ドラグーン。彼が私の雇い主」
「――えっ!? グリシュ兄様が……?」
「そう、王位継承第三位――グリシュは裏社会で有名だもの。私の命令は、この村にあった髑髏を奪うこと」
「それは、サリス?」
青ひげの顎を摘むように撫でて、イゴールは頷いた。
「復活させてみようと思ったのは、好奇心よね。村長を騙して封印を解かせて、一応復活したみたいだけど……」
未だに地面に落ちて動かないサリスに、目を細めたイゴールが視線を落とす。
「さてさて、私は逃げようかしらね」
「逃げる? どうしてだ?」
「覚えておきなさい。王家で一番、残虐非道。彼は女、子供でも容赦なく殺すわ」
「グリシュお兄様はそんなこと……」
「いえ、するわね。ロラーナ姫は、王家の闇に触れて来なかったのかしら?」
ロラーナが唇を結んで俯く。
「まぁ、いいわ。それじゃ、またどこかで出会うかもしれないからね。またね〜」
イゴールが背中を向けると、村の外に歩いて行く。
俺とロラーナは姿が見えなくなるまで、見つめていた。
「さてと、アリシャさんのところに行こうか」
っと、サリスを忘れてた。
口から泡を吹いてやがる。
雑に彼を掴んでポケットに突っ込んだ。
手斧サイズになった虚狼を腰のベルトに挟んで、準備よし。
◇
「むにゃむにゃ〜。うさぴーと、モルキュスのぬいぐるみ二つずつください」
ベッドに寝かされていたアリシャは、近くにあった大きなぬいぐるみを抱きしめながら、寝言を言っていた。
「や〜ん! 可愛い! 一つは日替わり抱き枕で、もう一つは観賞用」
「凄い寝言だな。てか、どんな夢見てるんだよ」
「ふふふっ。アリシャさん、普段キリッとしてるのに、今はぬいぐるみさんにメロメロみたいです」
ここまで気持ち良さそうに寝ていると、起こすのも忍びない。
「そう言えば、他の村人達はどうしたの?」
「先に目が覚めた人達が運ぶのを手伝ってくれて、全員の家に送り届けましたよ」
「そうなんだ。それなら安心だね」
「はい。てか、ラグルさんはずっと何処にいたんですか?」
「俺? なんか変な世界。サリスの魔法だと思う」
サリスとの戦いについて説明する。
「え? コーランドさんのお友達?」
「らしいよ。じっちゃんの名前だしたら、捨てられた犬みたいな目をしてた」
「誰が、捨てられた犬だ」
ポケットからのそのそと、コウモリ姿のサリスが出てくる。
「なんだ、普通に喋れるじゃないか」
「喋ろうとしたら、気絶したんだ」
「おお〜! コウモリが話してると不思議ですね」
「サリスはどうしてコウモリの姿に?」
「こっちの方が、お前達についていくのに好都合だからな」
「そっか」
「そうだ」
ん? ついてくる?
「なんで?」
「コーランドが、腑抜けになった理由が見てみたくなったんだ」
「え? サリスさんもついてくるんですか? でも、危ないですよ?」
王位継承争いのことを、ロラーナは言っているのだろうが、少なくともサリスは心配しなくていいだろう。
「じっちゃん並みに強かったから、心配はいらないと思うぞ」
「そうなんですか?」
「いや、じっちゃんの方が強かった」
サリスが手を上げて、そんなことないって抗議してくる。
「サリス、その代わり無闇やたらに人を襲うなよ?」
「襲ったら?」
黙って虚狼を抜いた。
「……冗談だ」
挑発するような彼だったが、虚狼には弱いらしい。
「ついでに、俺がいない時はロラーナを守って欲しいな」
「なぜ我がこんな小娘……」
もう一度、虚狼を見せとく。
「……分かった」
「素直が一番だよ」
「ラグルさんに、サリスさん……竜石が集まらなくても、世界征服とかできちゃいそうですよ」
「小娘、一緒に世界征服するか?」
「それはちょっと」
「たく、最近の若いやつらは……」
なんか、サリスもじっちゃんみたいなことを言うな。
「えっと……サリスさんは吸血鬼なんでしょうか?」
「そうだ。吸血鬼の真祖で、王である」
コウモリ姿で威張っても、全然威厳を感じない。
「ええ!? 凄い!? 王様で真祖!?」
「なぁ、真祖ってなんだ?」
「ラグル……真祖も知らんのか? 馬鹿だな」
「サリスさん、ラグルさんはちょっと頭が……」
二人とも後で拳骨な。
「真祖というのは、先天的な吸血鬼です。吸血鬼は知ってますか?」
「一応。なんか、蛭みたいな奴だろ?」
「ラグル――殺す」
「まあまあ、サリスさん落ち着いてください。そうです。血を吸う怪物。吸われて吸血鬼になった人をヴァンパイア――生まれながらにして吸血鬼なのを真祖と言います」
ほうほう。
「普通の吸血鬼のように太陽にも聖水にも弱くないのに、ヴァンパイア以上の身体能力に加えて、強力な魔法を操れるとか」
「中々博識だな、小娘」
「もう、ほとんどいないとは聞いてたんですが……」
「我は真祖の中でも特殊だからな」
骸骨になっても生きてるんだから、それもそうか。
俺達三人が雑談していると、ベッドで寝ていたアリシャがムクリと起き上がった。
「あれ? 私は……」
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