キリアンside パートナー
エリーを来月行われるパーティーに誘う。そう決めた私は今、一つの問題に直面していた。
それは――。
「一体、どうやって誘えばいいものか……」
招待状を睨みながら考える。
今まで女性から誘われることはあっても、自分から異性を誘ったことなど一度もないのでどう誘えばいいのかわからなかった。
レジンは普通に誘えばよいと言っていたが、そうもいかない。
そもそも、これは本来、婚約者候補の令嬢と共に参加する予定だったものだ。当然、エリーもそのことは知っている。
そんなパーティーに私から誘えば、エリーも色々と考えてしまい私との身分の違いを気にして、断ってしまう可能性も高い。
招待状を手に部屋の中をうろうろしながら、どうするべきか考えていると、部屋をノックする音が聞こえ、思わず身構える。
一度、息を吐いて気持ちを落ち着かせると、部屋に入るよう許可を出した。
すると、入ってきたのはレジンだった。
……そういえば、今日はエリーの休養日だったな。
確か、今は屋敷に戻っていて、ここにはいないはずだ。
それを思い出し、ようやく肩の力が抜けた。
「キリアン様、タイラー・バルツ様がお見えになられています」
「タイラー先輩が?」
タイラー先輩は、私の学生時代の二つ上の先輩だ。
在学中はよくしてもらっていたが、卒業後は第二王子であるクオーツ殿下の護衛に配属され、それ以降はあまり顔を合わせていなかった。
それが今になって、何故?
「ああ……そういえば、クオーツ殿下もレオンハルト殿下と同様に、リリスにお熱だとか言っていたが、その関係か?」
父たちは、次女のエリスと王子たちを仲良くさせたいらしいが、今は二人とも姉のリリスに夢中になっているようだ。
私としては、何故あのような高慢な妹に夢中になるのか、さっぱり分からないが、王族と縁を持てるのであれば、悪い話ではない。
「わかった、すぐに行く。」
相談があるのなら、積極的に乗ってみよう。
そう考えながら、とりあえず入口まで迎えに行く。
するとそこには、昔と変わらない、へらへらとした笑顔を浮かべるタイラー先輩の姿があった。
「よ、久しぶりだな。キリアン次期公爵様」
「……冷やかしに来たのなら、帰ってください」
「おいおい、五年ぶりになる先輩に向かって、なんだよその態度は」
五年経っても相変わらずの態度に、思わずため息を吐く。
「それで、今日は一体何の用ですか?とりあえず中に――」
「ああ、いいよ。すぐに済む用事だし、正直に言うと、別にお前に用はないんだ」
「はあ?」
まさかの言葉に、思わず顔をしかめる。
「俺の目的はお前じゃなくて……」
そう言って、先輩は屋敷の中を、何かを探すようにきょろきょろと見渡した。
「ここにノゾミって子がいるだろ?」
「ノゾミ?」
そんな名前の人物は知らない。
だが、どこかで聞いた覚えのある名前だった。
一体どこで聞いたのかと思い出そうとしていると、ふと先輩の後ろ――屋敷の扉の外で待機しているエリーの姿が目に入った。
思わず、そちらへ視線を向けると、彼女と目が合い、こちらに気づいて、軽く頭を下げた。
「エリーか、どうしたんだ?」
私は先輩を気にすることなく、エリーに声をかけた。
「はい、忘れ物をしたので取りに来ようとしたのですが、来客中ならまた改め――」
「あ、いた。ノゾミ!」
すると、エリーの言葉を遮るように、先輩が彼女へ声をかけた。
そこで思い出した。
『ノゾミ』という名は、エリーが冒険者として使っている名前だ。
「げぇ、タイラーさん。どうしてここに?」
「何故って、お前に会いに来たんだよ?」
そう言って、先輩が馴れ馴れしく近づいていく。
それに対してエリーは、まるで苦手な相手でも見るように、わずかに身を引いている。
「……二人はどういう関係だ?」
「別に、大した関係では――」
「お互いの主が仲がいいから、従者同士でも仲良くさせてもらっているのさ」
エリーの言葉を待たず、タイラー先輩が説明する。
するとエリーは、疲れ切ったように大きなため息を吐いた。
「それで、今日の要件は何ですか? 例の件はお断りしたはずですが……」
「いや、今日はそっちじゃなくてな――」
そう言うと、先輩は膝をつき、エリーに向かって手を差し伸べた。
「実は、お前のエスコートをしに来たんだ。来月のパーティーにな。」
「なんだと⁉」
その言葉に、思わず私は声を荒らげた。
「いやあ、普段はパーテイーなんて参加しないんだけど、今回はクオーツ殿下から俺も出るように言われてね。」
「え?なんで私なんですか?」
「そりゃあ、もちろん、今一番興味を持っている女性だからだよ。」
そう言って、タイラー先輩はにこやかな笑みを浮かべた。
「……まあ、普通に断りますけど。私はメイドですから仕事もありますし、何よりしがない男爵令嬢なので、そんな場所には分不相応ですから」
その言葉に、私は内心ほっとする。
しかし――。
「へえ、いいのか?パーティーにはリリスお嬢様も参加するんだぞ?」
「……なんですって?」
その一言を聞いた瞬間、エリーの表情が変わり、食いつき始めた。
「リリスお嬢様も、参加されるんですか?」
「そりゃもちろん。今回のパーティーは、学園入学前の子供たちの社交デビューも兼ねているからな。入学予定で、まだ社交デビューを済ませていない子は全員参加する予定だ。お嬢様のドレス姿、見たくないか?」
「くっ……」
そう言って、先輩は再びエリーへと手を伸ばす。
今の言葉に心を揺さぶられたのか、エリーは迷い始める。
そして――躊躇いながらも彼女が先輩の手を取ろうとした、その時……
気がつけば私は、彼女の手首を掴み、その動きを遮っていた。
「タイラー先輩……悪いですが、エリーは私のパートナーとして参加する予定です」
「え?」
その言葉に、エリーも驚いたような表情を見せる。
「へえ……初耳だけど、本当なのか?」
先輩が眉をひそめ、エリーに尋ねる。
どう答えればいいのか分からないのか、エリーが助けを求めるようにこちらを見る。
私は黙って彼女を見つめ返すと、彼女は先輩へ視線を戻し、小さく頷いた。
「はい、私は旦那様と参加します」
「ふーん、ノゾミはそれでいいのか?」
「え? はい」
エリーは先輩の問いに頷くが、恐らくその質問の意図までは分かっていない。
そして、私があえてそのことを口にしていないのだと悟ったのか、先輩は悪戯っぽく笑うと、わざとらしくため息を吐いた。
「やれやれ、そう言うことなら仕方がない。他を当たるとするか。」
そう言うと、タイラー先輩は早々に去っていった。
そして私は、改めてエリーへと向き直った。
「すみません、助けていただいて」
「いや、別にかまわ――」
そこまで言ったところで、私は言葉を止めた。
このまま言葉を続ければ、今の話が彼女を助けるための嘘になってしまうからだ。
私は小さく首を振ると、エリーを見つめ、ゆっくりと口を開く。
「エリー。結果的に助ける形になったが、君を誘ったのは本気だ。どうか、私とパートナーになってくれないだろうか」
そう言って、私はタイラー先輩と同じように膝をつき、エリーへ手を差し伸べる。
エリーはそんな私の態度に少し困惑した様子を見せた。
だが、彼女は私にパートナーがいないことを思い出したのだろう。最後には笑顔を浮かべ、その手を取ってくれた。
「わかりました。私で良ければ、ぜひお願いします」
恐らくエリーは、自分はあくまで代役なのだと考えているだろう。
だが、今はそれで構わない。
そう、今は――。




