キリアンside 決意
二年前、エリーと会ったのは一度きりだった。
それでも、なぜか彼女のことが気になるようになっていた。
そんなエリーと今、二ヶ月もの間、毎日のように顔を合わせている。惹かれてしまっていたとしても、不思議ではない。
むしろ、こうなるのは必然だったのかもしれない。
今の私の中には、常にエリーがいる。
いつ、どこでも、何をしていても、気づけば、彼女のことを考えてしまっていた。
だが、それを私は今まで認めることだけはできなかった。
なぜなら私は、公爵家の跡取りとして、このエトワール家に養子として迎えられたのだから。
貴族にとって、政略結婚など当たり前のことだ。私も、そのことは十分に理解している。だからこそ、恋愛などには微塵も興味がなかった。
ただ、自分に、そしてエトワール家の妻にに相応しい令嬢であれば、誰でもいい。そう思っていた。
だが、今は違う。今の私には、エリー以外の女性など考えられない。
彼女の家柄は男爵家。立場も、あくまでメイドで、魔法の腕も特段優れているわけではない。公爵家の跡取りである私の相手として、とても相応しいとは言えない。
それでも、私の中では、すでにエリーを選んでしまっていた。
彼女は、これまで私が出会ってきた女性たちとは違う。私に近づくための下心など一切なく、ただ純粋な気持ちで私を支えてくれた。
……今となっては、それが少し悔しく感じるほどだ。
ただ、もし彼女が下心を持って接触してきていたなら、ここまで惹かれることはなかったのかもしれない。
そうではなかったからこそ、私は彼女に惹かれてしまったのは、なんとも皮肉なものだ。
幸いなことに、エリーにはまだ婚約者はいないらしく、彼女自身もまだその気はないということだった。
だが、彼女はすでに結婚適齢期に入っている。いつ、どこかの貴族へ嫁いでもおかしくはない。
そう考えると、悠長に構えているわけにはいかなかった。
彼女をこの屋敷に、そして私の傍に置いておく方法は三つある。
一つ目は、彼女の有能さを説き、両親を説得することだ。
だが、これはかなり難しい。
何故なら、両親はエリーがリリスのメイドであることを知っており、リリスのことを毛嫌いしているからだ。
エリーがいかに有能であるかを説いたところで、聞く耳を持ってもらえるとは思えない。
二つ目は、エリーを愛人として傍に置くことだ。
義父にも愛人がいるという話を耳にしたことがある。そう考えれば、これが一番現実的な方法なのかもしれない。
だが、そんな選択は、断じてあり得ない。
そして三つ目は、私自身を使って両親を脅すことだ。
すでに私が公爵家の跡継ぎとなることは、ほぼ決まっている。
ここで養子縁組を解消すると言えば、両親も考えを改めてくれるかもしれない。
ただし、これに失敗すれば、私は公爵家との縁を切られることになる。
それだけではない。実の両親にまで迷惑をかけることになるだろう。
そう考えると、決して簡単に取れる手段ではなかった。
そして、これとは別にもう一つ問題がある。
それは、エリーとの契約期間がもうすぐ終わるということだ。
あと一ヶ月ほどでエリーの契約期間は終了し、彼女はリリスのもとへ戻ることになる。
つまり、私に残された時間は、そう長くはない。
リリスと交渉できればいいのだが、彼女もエリーを手放すつもりはないようだ。
エリー自身も、拾われた恩義を感じているのか、リリスが望む限り、彼女は自ら離れようとはしないだろう。
そして、そんな状況を打破する術は一つしかない。
私は、机の引き出しから一通の手紙を取り出す。
来月、開催される国王陛下主催のパーティーの招待状だ。
このパーティーには、もともと結婚相手の候補となる令嬢をエスコートする予定だったが、私が全員断った事で現在相手はいない。
もしここでエリーをエスコートすれば、少なくとも周囲には、彼女が私の婚約者候補なのだという認識を持たせることができる。
そうなれば、エリーに近づこうとする男への牽制にもなるし、彼女を傍に置くための外堀を埋めることもできるだろう。
そして、その後に公爵夫妻と交渉する。
まずは周囲に認識させ、そのうえで両親と話をつける。
それが、今の私にできる最善の方法だろう。
問題があるとすれば、エリーの気持ちだ。
今後、彼女自身も周囲からそういう目で見られることになり、何かしらの不都合が起こるかもしれない。
もしそうなってしまったら、私は全力で彼女を守るつもりだ。
ただ、他のメイドたちの話によれば、エリーには恋人も想い人もいないらしい。そう考えれば、大きな問題にはならないはずだ。
そして、可能であれば、まずは形だけの婚約者という立場で、彼女には私の傍にいてもらう。
その間に、少しずつ彼女との距離を縮め、私に振り向いてもらえばいい。
もし、それでも駄目だったのなら、その時は潔く諦めよう。
「フッ、我ながら何とも卑怯なやり口だ」
ただ、何と言われようと構わない。
これが、今の私にできる精一杯のやり方なのだから。




