お見合い①
休日をもらって十分に英気を養った私は、翌日から改めてキリアン様の専属メイドとして仕事に励む。
私が休日に作った遠征用のお守りだが、どうやらキリアン様は気に入ってくれたらしく、遠征の時だけでなく、普段屋敷にいる時も肌身離さず身につけてくれている。
別に嫌というわけではない。
むしろ、気に入ってもらえたのは嬉しい。
ただ……決して高価なものではないので、貴族が身につけるアクセサリーとしては少々場違いな気がして、少し恥ずかしくなってしまう。
逆にディルさんは、なぜか私があげたお守りを隠すように身につけていた。
理由を聞いてみると、「こんなことでキリアン様に目の敵にされたくない」とのこと。
まあ、確かに主人であるキリアン様と、一般兵のディルさんが同じお守りを身につけているのは、少しばかりおかしく見えるかもしれないかなと納得した。
それからは、私はいつものようにキリアン様の専属メイドと補佐の仕事をこなしていた。
だが、領地経営のほうは、当初と比べてだいぶ落ち着いてきたようで、最近では貴族との交流も増えてきている。
そのこともあって、私の仕事も来客へのお茶出しや客間への案内など、ようやくメイドらしいものへと戻りつつあった。
そして、そんな日々が続き、私がエトワール公爵家に来てから二ヶ月が経とうとしていた。
そんなある日のことだった。
「はぁ……」
旦那様がレジンさんから受け取った手紙に目を通すと、珍しく大きなため息を吐いた。
「どうかなさいましたか?旦那さま。」
「いや、義父上から手紙があってな。どうやら私の縁談を進めるために、近々何人かの令嬢がこちらへ来るらしい」
「縁談ですか……」
なるほど。まあキリアン様ももう二十歳だし、この世界ならそろそろ結婚を考える年齢だ。
縁談の一つや二つあっても、おかしくはないだろう。
「でも、浮かない顔をしているということは、あまり乗り気ではないようですね」
「まあな。どの令嬢も、夜会や学園で何度か会ったことがある者たちで、魔法の名家の出身だったり、本人も腕の立つ者だったりと、条件だけを見れば申し分ないんだが……その、性格のほうがな……」
そう言うと、キリアン様は再びため息を吐いた。
まあ、確かにゲームでも、魔術師は良くも悪くもプライドが高いという設定だった。
それが貴族ともなれば、高慢な人間も多いのだろう。
キリアン様も次期公爵という立場なのだから、これまで色々と苦労してきたのかもしれない。
私が同情するような視線を送っていると、ふと、こちらをじっと見つめていたキリアン様と目が合った。
「どうかしました?」
「いや……他の令嬢も、君みたいだったらよかったのにと思ってね」
「私みたい……ですか?」
私みたい?
それって、どんな人だろう?
「そういえば、君はどうなんだ?」
「何がですか?」
「その……婚約者とかは、いるのか?」
キリアン様が、なぜか躊躇いがちに尋ねてくる。
当然ながら、婚約者なんていない。
そもそも私がこの屋敷で働いているのだって、最初は玉の輿を狙っていたからだ。
……まあ、今となってはどうでもいいことだけれど。
「特にいません。私はどちらかといえば、平民に近い貧乏貴族ですから
「本当か?」
「はい。それに今は、お嬢様を支えるのが私の仕事ですから。当分、そういった予定もありません」
すると、キリアン様はどこか顔を曇らせた。
「お嬢様……か……」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。それより、準備のほうを頼む」
「かしこまりました」
それだけ言うと、私たちは再び仕事へと戻った。
そして私は、キリアン様の縁談に向けた準備を始める。
令嬢たちは一週間ほど滞在予定でその間は敷地内にある、迎賓館に滞在してもらうことになる。
だが、今までこの屋敷が使われなかったので当然迎賓館も掃除はしていない、私は他のメイド達と共に迎賓館の掃除を徹底的に行った。
それから数日後、この屋敷に五人の令嬢がやって来た。
私は貴族の事情にはあまり詳しくないのだけれど、どうやら五人とも魔術師として成り上がってきた家柄の令嬢で、全員かなりの魔法の使い手らしい。
皆、容姿も整っていて、外見だけを見れば、誰を選ぶか悩んでしまうほどだ。
しかし――。
「ちょっと、あなた。なんで勝手にキリアン様の隣に座っているのよ!」
「そうよ!そこは、魔術師で名の知れたラースルーン家の私が座る場所でしょう!」
「フン!あなたたちは家が魔法の名家なだけで、本人は大したことないじゃない!」
「キリアン様の隣には、『紅蓮の魔術師』の異名を持つ、この私――アレス・ドリアこそ相応しいのよ!」
……こうして、五人はキリアン様の目の前で、延々と言い争っていた。
よくもまあ、キリアン様の前でここまで堂々と言い合えるものだ。
当のキリアン様も、さすがに呆れ果てた様子で、こめかみを押さえている。
……なるほど。
確かに、これは性格に難がある。
しかし、そろそろ止めないと、キリアン様も爆発してしまいそうだ。
仕方ない。ここは私がお助けしよう。
そう考えた私は紅茶を用意すると、六人が囲んでいるガゼボのテーブルへと向かった。
「キリアン様はどう思いますか?」
「やっぱり私のような才色兼備の者のほうが――」
「貴様ら、いい加減に――」
「旦那様、お茶をお持ちしました。」
ちょうどそのタイミングで、私はわざとらしく台車を押す音を立てながら、彼女らのもとへとやって来た。
「エリー……ああ、ありがとう。」
旦那様は私の顔を見るや、安心したのか思わず笑みをこぼす。
私は無言で頭を下げると、その日は何も進展がないままお開きとなった。




