アリサside 信頼関係
――ルイス視点
セントロールのSランク冒険者を雇い、雷龍の討伐へ出発してから、早くも二週間が経とうとしていた。
旅自体は順調で、この調子であれば、あと数日もすればウォールナット領へ入ることができるだろう。
……問題があるとすれば、やはり我々とリリィの関係だ。
我々が雷龍討伐のため、わざわざ他領にまで足を運んで雇ったリリィという女性冒険者は、この旅の道中でもSランク冒険者の名に恥じない実力を見せていた。
『蝶のように舞い、蜂のように刺す』そんな言葉が相応しい動きで、どんな魔物も一太刀で仕留めていく。仮面で顔を隠していても思わず見惚れてしまうほどだった。
これなら、雷龍の角を折ったという話も嘘ではないだろう。
俺とカーライルは、彼女の実力をすぐに認めていた。
だが、リオンだけは、どうしても彼女の実力を認められないようだった。
そして、彼女は彼女で、俺たちとも常に一定の距離を置き、あまり交流しようともしない。
まあ、男性ばかりの中に女性が一人混じるのだ。警戒するのも当然だろう。
だが、こうも露骨に距離を取られると、こちらとしても少し思うところはある。それに、野営の際も彼女が離れた場所で寝るため、いざという時に対応が遅れる可能性がある。
それに、こんなことを言うのは失礼だが、我ら三兄弟が彼女に手を出そうなどと考えることはないだろう。
幼い頃から次期公爵として育てられてきた俺の周りには、常に女性がいた。
俺自身も、公爵家の妻に相応しい相手を探してきた。
だが、俺たちに群がってくる女性は、とても公爵家の妻として迎えられるような相手ではなかった。
弟たちも同じだ。
そのおかげで、未だに俺たちは誰一人として婚約すらしていない。
そんな俺たちが、顔も素性も分からない彼女に手を出すなどあり得ないだろう。
今のところ相手にしているのは、弱い魔物や賊ばかりだ。
だが、俺たちが討伐に向かっているのは、あの雷龍だ。
いつまでも、この状況が続くのはまずい。
そう考えた俺は、その日の夜、一度四人で話し合うことにした。
「……ということで、無理に仲良くしようとしなくてもいいが、今後のことも考えて、もう少し俺たちを信頼してもらいたいんだ。」
「……そうですね。私も、少し大人げないところがあったかもしれません。」
事情を話すと、リリィはあっさりと受け入れてくれた。
やはり、冒険者として彼女も今の状況には思うところがあったのだろう。
ただ、問題はリオンの方だった。
「本当に俺たちに信用してほしいなら、まずその仮面を外したらどうだ?」
「おい、リオン。」
「実力はあっても素性も分からない。そんな相手に背中を任せられるかよ。せめて顔くらい見せたっていいだろう?」
全く、リオンは……。
リオンはまだ十五歳になったばかりで、学園にすら通っていないということもあり、少し驕ったところがある。
こういうところは、父上そっくりだな。
「いいでしょう。そこまで言うのなら、仮面を外しましょう。別に顔を見られたところで素性がばれるわけでもありませんし、それで気が済むのなら。」
ため息を吐きながらそう告げたリリィは、仮面を外そうと手を伸ばす。
しかし、仮面に手をかけた瞬間、カーライルがそれを止めた。
「待った。嫌ならわざわざ取らなくていいよ。」
「カーライルの言うとおりだ。無理に取ってもらったところで、信頼関係が築けるわけでもないからな。」
俺たちがそう言うと、リリィは仮面から手を放した。
しかし、リオンは面白くなさそうにそっぽを向いている。
これは、まだ時間がかかりそうだな。
何かきっかけがあればいいのだが……。
翌日、俺たちはどこか気まずい空気を抱えたまま、街道を進んでいた。
すると、その道中でゴブリンの群れに遭遇する。
「数は五体……。」
「大した数じゃないな。」
「では、まず私が――」
いつものようにリリィが前に出ようとする。
しかし――。
「俺が行く!」
「お、おい、リオン!」
リリィに対抗心を燃やしたのか、リオンが飛び出し、ゴブリンへと突撃すると、リオンは瞬く間に五体のゴブリンを斬り伏せた。
ゴブリンとはいえ、五体をこうもあっさりと倒すとは。
やはり、若いながらもその実力は本物だ。
「どうだ、見たか。連携なんてなくても十分――」
「危ない!」
勝ち誇るリオンに向かって、リリィが叫ぶ。
「危ない!」
すると、その背後には、まだ息のあるゴブリンが一体、リオンに襲い掛かろうとしていた。
それにいち早く気づいたリリィが、すぐさまリオンを突き飛ばす。
彼女はそのままゴブリンの攻撃を間一髪で躱すと、そのまま流れるような動きで斬りつけた。
「リリィ!」
「大丈夫か⁉」
俺たちはすぐさま二人のもとへ駆けつける。
「大丈夫です。少し髪に掠っただけです。」
そう言って、リリィは髪を軽く払う。
「リリィ……済まない……」
「違います。こういう時は謝るのではなくて、お礼を言うのですよ。」
「……そうだな。ありがとう、リリィ。」
リオンはそう言って、差し出されたリリィの手を取り、立ち上がる。
その様子を見て、場に少しだけ和やかな空気が流れた。
すると――。
パキッ。
乾いた音が響いた。
リリィの仮面の端に、一本の亀裂が走る。
そして、その亀裂が広がると同時に、仮面が剥がれ落ちた。
そこから現れたのは、これまで隠されていた、美しい顔立ちだった。
「……どうやら仮面にも掠っていたみたいですね。私もまだまだです。」
そう言って、リリィはどこかおどけたように笑う。
俺たちは、ただ呆然と彼女を見つめていた。




