エリーの休日②
屋敷で昼食を済ませた私は、午後になると街へ繰り出した。
目的があるわけではなく、ただ、久しぶりに一人で街を歩いてみようと思っただけだ。
幸い、お金には困っていないので、欲しい物があれば、ある程度のものなら何でも買える。
……けれど、いざ買い物をしようと思うと、何を買えばいいのか分からなかった。
お嬢様のための買い物ならいくらでも思いつくのに、自分のためとなると途端に何も浮かばない。
なので、とりあえずお嬢様に似合いそうな服でも探そうと思い、私は服屋へ向かうことにした。
貴族の間で流行する衣服の移り変わりは早く、少し目を離せば、昨日まで流行していたものが古いものとして扱われることも珍しくない。
ただ、この街も十分発展しているとはいえ、王都ほど流行の変化が早くない。なので王都にいるお嬢様に流行の物を買っても意味ないだろう。
だから、私は流行を追うのではなく、お嬢様が気に入りそうなものを探すことにした。
お嬢様は、基本華やかな赤や金よりも、青や紫といった落ち着いた色合いのドレスの方がよくお似合いになると思う。
だが、貴族向けの服屋に並ぶのは、目を引く華美なデザインや派手な色のものばかりだ。
そのため私は、あえて平民向けの店を見て回ることにした。
こちらの方が、飾りすぎない上品な服が見つかる気がしたからだ。
え、私の服?必要ないでしょ。
私は基本的にはメイド服で、今着ている私服だって、年に数回袖を通すかどうかのものなのだから。
私は適当に服屋を見て回った後、次にアクセサリーを探すことにした。
綺麗な物や高価な装飾品を探すなら、貴族向けのアクセサリーショップがいい。
だが、珍しい物や他では手に入らない物を探すなら、露店の方が向いている。
お嬢様なら、当然後者だ。
そう考えた私は、露店が並ぶ通りへ向かった。
露店には綺麗な首飾りからどこか胡散臭いペンダントなど、色とりどりの装飾品が所狭しと並んでいる。
そんな品々を眺めながら歩いていると、一つのお守りが目に留まった。
「あ……お守り。」
それを見た瞬間、以前ディルさんと旦那様にお守りを作ると約束していたことを思い出した。
「そうだ。せっかくだし、今日作ってしまおう。」
そう決めると、私は一通り見て回った後、お守りの材料をいくつか買い足し、屋敷へ向かって歩き出した。
「あれ? もしかしてノゾミか?」
その時、不意に聞き覚えのある男性の声に呼び止められた。
久しぶりに冒険者としての名を呼ばれ、私は思わず振り返る。
そこに立っていたのは、第二王子クオーツ様の護衛を務めるタイラーさんだった。
「……こんにちは。」
「ハハッ、私服なんて珍しいな。一瞬、人違いかと思ったよ。」
そう言って、タイラーさんは私の方へ歩み寄ってくる。
タイラーさんは伯爵家の出身で、第二王子クオーツ様の護衛を務めている人だ。
気さくな性格なのはいいのだが、少し距離感が近いため、私は少し苦手だった。
とはいえ、相手は第二王子殿下の護衛である。無視するわけにもいかない。
私は引きつりそうになる表情を咳払いで誤魔化し、仕事モードへと気持ちを切り替えた。
「今日は休日ですので……ところで、タイラーさんはなぜこちらに?」
「ああ、実は殿下がリリス嬢へお茶会の招待を送ったんだが、返事がなくてな。だから直接様子を見てこいと言われたんだ。で、屋敷に行ってみたら誰もいなかったから、街で何か情報がないか探していたところ、ノゾミを見つけたというわけだ。」
「なるほど、そうでしたか。」
話を聞いた私は納得する。
そういえば、王子達には連絡していなかったっけ。
まあ、お嬢様からすれば、わざわざ知らせる必要はないと判断したのだろう。
いつも会いに来るのは向こうからだったからね。
「で、リリス嬢は今どちらに?」
「お嬢様なら、学園へ入学するために王都へ移られましたよ。」
「……は?聞いていないぞ?」
「言っていませんからね。」
事情を理解したタイラーさんは、力なく項垂れた。
「なら、なんでノゾミはここにいるんだ?」
「私は今、多忙であるキリアン様の専属メイドをしていますので。」
「へぇ……あのキリアンがねぇ。」
タイラーさんは少し意外そうな顔をする。
「つまり、リリス嬢からキリアンに乗り換えたってこと――」
「失礼します。」
私は一礼すると、その場を離れようとした。
「あ、ちょっと待って!冗談、冗談だから!」
しかし、再びタイラーさんに呼び止められる。
「なんですか?」
「こうして二人で会う機会もなかなかないだろ? せっかくだし、少しお茶でもどうだ?」
「申し訳ありません。まだ用事がありますので。」
そう告げると、私は改めて歩き出す。
「……リリスお嬢様のことで、少し話があるんだけど?」
その一言を聞いた瞬間、私はピタリと足を止めた。
「お嬢様のこと?」
「ああ、もちろん、とても重要な話だ。」
……それが嘘なのか、それとも本当に重要な話なのかは分からない。
けれど、お嬢様に関わる話だと言われてしまえば、無視するわけにもいかなかった。
そうして私は、そのままタイラーさんと近くの喫茶店へ入ることになった。




