極秘依頼④
その日の夜。
私は就寝前、お嬢様の髪を梳かしながら、今日ギルドであった出来事を語った。
「……なるほど、雷龍ね。それは災難なことだわ。」
依頼の話を聞いたお嬢様は、特に驚く様子もなく、淡々とそう答えた。
「それで、お受けになりますか?」
「当然、断るわ。もう王都へ行く準備は整っているもの。わざわざ他領まで足を運ぶ必要なんてないわ。
それに、雷龍は災厄として扱われるような魔物よ。倒さなくたって誰も文句は言わないしね。もし嘆くのなら、自分たちで倒せない実力不足を嘆きなさい。」
その答えは、予想していた通りで、お嬢様らしい実に合理的なものだった。
……ただ、私自身には少し引っ掛かるものがあった。
雷龍は、以前お嬢様と共に討伐した魔物で、あの時の私は、一人では角を折るのが精一杯だった。
だが、あれから一年。
鍛錬や経験をつんで、私も以前より成長しているはず。
今の私なら、一人でも倒せるのではないだろうか?
雷龍討伐の依頼など、そう何度も舞い込むものではない。
もし今回を逃せば、次の機会が訪れるのは何年も先になるかもしれない。
試してみたい……
そう考えると、私は髪を梳かしていた手を止めて、静かに口を開いた。
「あ、あの……お嬢様。もし宜しければ、その依頼、私だけでも代わりに行ってきてもいいですか?」
「駄目よ。ただでさえエリーがいないのに、これ以上減らして誰が私の世話をするの?」
私の提案は、あっさり却下された。
もっとも、駄目もとで言ったようなものだったので、それも分かっていたことだ。
だから驚きはしない。
でもまあ、納得させる理由があるなら別だけどね。」
お嬢様は私の方へ体を向け直すと、私の覚悟を確かめるように静かに問いかけた。
「それで、どうして、依頼を受けたいのかしら?同情?それとも報酬?」
「いいえ、雷龍への未練を断ち切りたいのです。」
私は真っすぐお嬢様を見ながら自分の思いを正直に話す。
「雷龍は、以前私が一人では倒しきれなかった魔物です。ですが、あれから一年。腕を磨き、今の私はあの頃よりずっと強くなったと思います。だからこそ、一度、自分の力で決着をつけたいのです。」
もちろん、これで断られたのなら素直に従うつもりだった。
しかし、私の答えを聞いたお嬢様は、静かに微笑んだ。
「ふふ、成程、いい答えね。私のメイドに相応しい答えだわ。いいでしょう。そこまで言うのなら、行ってきなさい。」
「ほ、本当ですか?」
「ええ、その代わり条件があるわ。」
「はい、何なりと!」
これは私のわがままだ。
減給でも、無休でも構わない。
後日罰を受けろと言われるのなら、それも甘んじて受け入れるつもりだった。
しかし、お嬢様が口にした条件は、私の予想とはまったく違うものだった。
「必ず、生きて帰ってくること。」
「……え?」
その言葉に、私は思わず聞き返した。
「私の予想が正しければ、今のあなたと雷龍の実力はほぼ互角よ。たとえ倒せたとしても、相打ちやどこか大きな傷を負う可能性だってある。あなたがその代償でその身に酷い傷を受けて醜くなろうと、体の自由を失おうと、私は変わらずあなたを愛せるけど、死んでしまったあなたを愛することはできない。だから、絶対に生きて帰ってきなさい。いいわね?」
「……はい。」
私はお嬢様の言葉に目頭を熱くしつつも必ず生きて帰ることを誓う。
そして、翌日。私は万全の準備を整えて公爵たちの元へ行った。
「と言うことで、私は角しかあることができませんでした。こんな私だけでもいいのなら、依頼を受けさせてもらいます。」
「いや。それだけでも十分凄いよ……。」
「ああ、十分だ。宜しく頼む。」
こうして、私は雷龍に挑むためウォールナット公爵家の方たちと旅へ出る事になった。




