極秘依頼②
「……極秘依頼……ですか?」
「まあ、そのなんだ、そんな露骨に嫌がらないでくれないか?」
私の反応を見て、ウッドルフさんは申し訳なさそうに言った。
「私達、もうすぐ王都に越すので、最後に大きな問題がないか確認するために来たんですが。」
「そうか。なら、なんとか間に合ったようだな。」
「それに私はあくまでカーミラの連れなので、私に依頼を受けるかどうかの選択権はありません。」
「まあ、そうだろうな。だが、せめて依頼主の話だけでも聞いて持ち帰ってくれ。今、依頼主を呼びに行っているところだからな。」
私が遠回しに断ろうとしても、ウッドルフさんは逃がすまいと引き下がろうとしない。
その様子に、私はため息を吐いた。
どうやら話だけは聞かなければ、帰してもらえそうにない。
観念した私は、一応話だけでも聞くことにした。
「わかりました。それで、どういった内容なんです?」
私が尋ねると、ウッドルフさんは真面目な顔つきで語り始めた。
「ああ、一言で言えば討伐依頼だ。場所はウォールランド領になる。」
「ウォールランド?場所が全然違うじゃないですか。」
その名を聞き、私は顔を顰めた。
ウォールランド領は、その名の通りウォールランド公爵が治める領地だ。
私たちのいるエトワール領からはかなり離れており、馬車を使ったとしても一か月はかかる。
どう考えても、気軽に受けられる依頼ではなかった。
「どうして、そんな場所から依頼が――」
「それだけ深刻だという事だ。なにせ相手は雷龍だからな。」
「っ⁉雷龍!」
その名に思わず声をあげた。
雷龍は私とお嬢様がSランクになるときに討伐した魔物だった。
体長は五mほどでオリハルコンよりも硬いと言われる鱗を持ち、鼻先の角に雷を集めて放出し、獲物を仕留める危険な魔物である。
普段は人の寄り付かない山岳地帯に生息しているが、繁殖期になると人里近くまで下りてきて村を襲うこともあるらしい。
そうなった場合、一応討伐依頼は出されるが、雷龍を相手にできる冒険者などほとんどおらず、大抵は受け手が現れない。
その結果、対処としては立ち去るのを待つのが主流とされ、狙われた村は災厄に遭ったものとして処理される。
私がお嬢様と共に討伐した時も、最初は一人で挑んでみたものの、結局は角を折るのが精一杯だった。
最後はお嬢様があっさり討伐して終わったのだけれど、少しばかり思うところのある相手でもある。
「でも、どうしてこんなところまで討伐依頼を?雷龍は危険ですが、災厄のような存在として扱われ、立ち去るのを待つことが多いと思いますが……」
「まあ、本来はそうなのだが、今回はそうはいかないらしくてな。」
ウッドルフさんは意味ありげに呟くと、話を続けた。
「今回の雷龍は滞在期間が長く、その分被害も大きくなっているらしい。そして、それを見かねたウォールランド公爵が自ら隊を率いて討伐に向かったんだが……部隊は全滅。さらに、公爵も命を落としたそうだ。」
「え⁉どうして公爵が自ら……」
「俺も詳しくは分からないが、あの方は武人だったからなあ。まあ詳細は依頼主に聞いてくれ……っと、噂をすれば来たようだな。」
部屋の外からノックの音が響くと、ウッドルフさんが扉に視線を向けた。
「すみません、三人をお連れしました。」
「ああ、入ってくれ。」
ウッドルフさんが許可を出すと、リズさんに案内された三人のローブ姿の人物が部屋へ入ってきた。
「えっと……この方々は?」
「先ほど話した、亡くなられたフウゼル・ウォールランド公爵のご子息であり、新たに公爵位を継がれたルイス・ウォールランド公爵と、その護衛の方々だ。」
ウッドルフさんが紹介すると、三人はゆっくりとフードを下ろし、その顔を見せた。
中央に立つのは、水色の髪をした若い男性。
その両脇には、彼を守るように赤髪の男性と、まだ少年らしさの残る緑髪の青年が控えている。
だが、三人は一言も発することなく、その場に立ったまま私を見つめていた。
「確か、話では二人組の冒険者と聞いていたが?」
「それに、女だと?まさかこんな顔を隠した得体の知れない女が、雷龍を倒した冒険者だというのか?」
私は緑髪の青年の言葉に、ムッとして彼を睨みつけた。
「どうやら、私はお呼びじゃないみたいですね。帰ります。」
そう言って立ち上がると、ウッドルフさんが慌てて私の前に立ち塞がる。
一方で、赤髪の男性は隣の青年を宥めていた。
「まあまあ、二人とも。せっかくだから話だけでもしようよ。」
「カーライルの言うとおりだ。リオンも落ち着け。」
「……フン。」
「リリィも、せめて話だけでも聞いてくれ。」
「……わかりました。」
私はウッドルフさんにそう言われ、渋々席に座り直した。
そして改めて三人と向き合う。
こうして見ると、三人とも女性受けの良さそうな整った顔立ちをしていた。
……もっとも、私としては第一印象は最悪なのだけれど。
「とりあえず、改めて紹介しよう。こちらがSランクパーティー『プライド』のメンバー、リリィだ。」
紹介されると、私は無言で頭を下げた。
「そうか。先ほどはリオンが失礼なことを言ってすまなかった。」
「根は良い奴なんだけどね。」
ルイス公爵様と、カーライルという名の護衛の男性が、先ほどの無礼を取り繕うように言った。
だが、当の本人であるリオンという青年は、不満そうに鼻を鳴らし、あからさまに顔を背けていた。
「話は聞いていると思うが、まず一つ確認したい。君たちが雷龍を討伐したというのは本当か?」
「はい。」
「雷龍はオリハルコンよりも硬い鱗を持っている。どうやって倒したのだ?」
「確かに雷龍の鱗は硬いですが、鱗と鱗の継ぎ目は柔らかいんです。そこを集中的に狙いました。」
「……そんな芸当ができるのか。なら、雷はどう対処した?」
「角を折りました。」
「角を折っただと?」
「そんなこと、できるわけない。」
「信じるかどうかは、そちらにお任せします。」
再び噛みついてくるリオンに、私もこれ以上相手をする気をなくし、そっぽを向いた。
「……わかった。信じよう。ならば改めて、君たちに雷龍の討伐を依頼したい。」
ルイス公爵が真っ直ぐ私を見据えながら言う。
「お断りします。」
そして私は間髪入れずにそう答えた。




