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極秘依頼①

 ――カリーナ視点


 ――シュッ、シュッ……


「ねえ、カリーナ。私ね、ずっと疑問に思っていたことがあるの、どうして私の様な平民寄りの令嬢なんかにこんな剣の才能があるのかって……」


 ――シュッ、シュッ……


「でもね、この二年間、この屋敷で四人で過ごしてきて色々分かったことがあるの。」

「……」


 ――シュッ、シュッ……


「お嬢様に、エリー、そしてカリーナ……大切な人と過ごす日常が大切に思えるようになるほどこの日常をなくしたくないと思ったの」


 ――シュッ、シュッ……


「だからね、きっと、私のこの剣は――」


 ――シュッ。


「私たちの仲を邪魔する男達(やつら)を殺すためにあるんだっ――」

「ちょっと待てい⁉」


 私は黙って聞いていたアリアの言葉を思わず遮った。


「どうしたの?」

「どうしたの?じゃないわよ!なんでそこでそんな物騒な話になるのよ⁉そこは普通、『大切な人を守るため』って流れじゃないの?」

「でも、みんな強いし。守るっていうのはちょっと違うかなと思って――」

「まあ、それはそうかもしれないけど!せっかく良い話の流れだったから黙って聞いていたのに、どうしてそうなるのよ」

「だって、だって、エリーが帰って来ないんだもん!」


 アリアはそう言って悲痛な声を上げる。

 その手にはアリサが先ほどから磨き続けていた剣がきらりと輝いていた。


 実は王都の住居の準備が整い、私たちは近いうちに引っ越す予定になっている。

 本来ならエリーも昨日戻ってくる予定だったのだが、どうやらキリアン様に気に入られたらしく、もうしばらく向こうで働くことになってしまった。


 そして、そのことを知らされたアリアはまるで、現実から目を背けるかのように、夜遅くから私たちの部屋で黙々と剣を磨き続けていた。


「でも、それはエリーの働きが向こうで認められたって事でしょ?いい事じゃない」

「それは嬉しいけど、駄目なのよ!だってこれじゃあ、私の想像していた通りの展開じゃない⁉」


 ……ああ、確か以前にそんな妄想をしていたわね。

 確か、エリーとキリアン様のラブロマンスみたいな話だったかしら。

 さすがにあそこまで甘ったるい内容ではないけれど、流れ自体は確かによく似ている。


「問題はきっとこれからだわ……。エリーが本格的に専属メイドになったことで、キリアン様も徐々に遠慮せず、色々なことを命じるようになるのよ。」


 アリサは両手で顔を覆いながら、青ざめた様子で妄想の続きを語り始めた。


「『用がない時も傍にいろ』『他の男と話をするな』そうやって次第に執着心が芽生え、手放したくなくなるの。そして、それならいっそ閉じ込めてしまおうと考えたキリアン様は、エリーを部屋へ呼び出して、かちゃりと鍵を掛ける。そして……『ぐへへ、ここは俺とお前の二人っきりだぜ』とか言ってエリーに飛びかかって……いぃぃぃぃやああああああああああああああああああ⁉」


 アリサはいつものように血の涙を流した。

 ……思ったより重症みたいね。

 妄想が暴走しすぎたせいか、途中からキリアン様がただの下品な悪役みたいになっている。


「……まあ、あんたの妄想は置いておいて、確かに私もこの話には不満があるのよね。」


 というのも、お嬢様はエリーの代わりに私を推薦してくれていたらしいのだが、キリアン様はエリーを指名したのだ。

 確かにエリーは有能だけど、私だってメイドとしての腕にはそれなりに自信がある。

 なのに迷いもなくエリーを選ばれると、少しくらい悔しくもなる。


「私だって、この二年間でお嬢様の無理難題に付き合っていたこともあって、料理に掃除に裁縫、それに魔法だって上達したわ。そこらのメイドや魔法使いには引けを取らないはずよ。それに、エリーが得意な偵察だって、私も昔からよく使用人たちの私に対する悪口に聞き耳を立ててたから負けて――ぐふっ!」


 しまった……。

 嫌なことを思い出して、つい吐血してしまった。


「と、ともかく、私の魅力や有能さをもうちょっとお嬢様が伝えてくれてたら、今頃エリーの立場は私だったはずよ。つまり、お嬢様が悪いのよ。」

「いいえ。悪いのはエリーを選んだキリアン様よ。だから殺しましょう」

「殺すな!」

「あなた達、こんな夜更けに随分楽しそうね」

「「お嬢様!」」


 私たちが部屋で騒いでいると、いつの間に来たのか、お嬢様が扉にもたれかかりながら呆れたような笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「申し訳ございません、こんなに夜更けに騒いでしまって。」

「フフ、構わないわ。夜更けに部屋で剣を研いでいるメイドなんて、そうそう見られるものじゃないもの。」


 まあ、それは確かに。

 改めて考えると、なかなか絵面すごいもの。


「それよりアリサに一つ言い忘れたことがあってね。明日、ギルドの様子を見て来て欲しいの。」

「ギルドですか?」


 先程までの騒ぎなどなかったかのように、アリサはすっかり落ち着いた様子で首を傾げた。


「ええ、もうすぐ王都に引っ越すでしょ?だからその前に問題があったら片付けておこうと思って。」

「わかりました。」

「ところで、お嬢様のご予定は?」

「そうね。カリーナの魅力を確認するための花嫁修業、といったところかしら?」


 しまった、さっきの愚痴、全部聞かれていたか!

 こうして、明日は私の猛特訓が決定したのだった……


 ――アリサ視点


 翌日、私はお嬢様に言われてギルドを訪れた。

 買い出しで街へ出ることはあったけれど、メイド服姿では正体がバレてしまうため、ここしばらくギルドには顔を出していない。


 私は頭を隠すローブを深く被り、目元を覆う仮面にずれがないか確認し、身バレしないことを念入りに確かめると、久しぶりとなるギルドの扉を開ける。

 その瞬間、全員の視線が一斉に集まってくる。

 仮面をつけるようになってから多少はマシになったとはいえ、何故か私を見る殿方たちの視線には、未だに慣れない。


「あ、リリィさん。」


 すると、私の姿を見た受付の女性がカウンターから飛び出しやってきた。

 名前はリズさん。

 私たちが初めてギルドに来た時に対応してくれた受付の方で、親切で丁寧、それにとても綺麗な人だ。


 受付の女性の皆さんは全員その中でも、リズさんはとても笑顔が素敵なので。だから私が依頼を受ける時は、気づけばいつもリズさんの列に並んでいた。


「ええっと、今日はカーミラさんはいらっしゃらないのですか?」

「ええ、今日は私だけです。」

「そうですか……」


 そう言うと、リズさんは少し残念そうな表情を浮かべた。


「あの、何かありましたか? 私で良ければお力になりますが?」


 私はそっとリズさんの手を取り、心配になって尋ねる。

 エリーがいない今、女成分(じょせいぶん)が不足している。

 だからリズさんの頼みなら、たとえ薬草採取でも最優先で引き受けるつもりだった。


「い、いえ、私ではなくて――」

「おお、やっときてくれたか。」


 その言葉を遮るように、リズさんの後ろからやってきた男の声が聞こえた。

 ギルドマスターのウッドルフさんだ。


「……お久しぶりです。」

「そう、露骨に嫌な顔をするな……今日はカーミラは来ていないのか?」


 ウッドルフさんがキョロキョロと見回して、お嬢様の姿を探す。


「はい、あの方は大変忙しい方なので。」

「そうか……まあ、仕方あるまい。とりあえず、お前だけでもいい。奥の部屋に来てくれないか?」

「はい?」

「実は、お前達に極秘の依頼が来ている。」

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