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リリスの想い

 ――リリス視点


 前世の記憶を取り戻してから、もうすぐ一年が経つ。

 リリス・エトワールとして生きてきた時間は十三年。

 ……けれど、この一年は私にとって特別な年だったと言えるだろう。


 記憶を取り戻したのにきっかけなんてなかった。

 前世で『怠惰の魔王』としての役目を終え、身体が崩れ消えていくのと同時に、意識も途切れた私が次に目を覚ました時は、ベッドの上にいた。

 そしてそこから記憶が合流するかのように、リリス・エトワールの記憶が混じりこんできたのだ。


 初めは、何が起こったのか分からなかった。

 体を失ったカーミラが、リリスに憑りついたのか。

 それともリリスに、カーミラの記憶が流れ込んできたのか。


 どちらが正しいのかも、判断がつかなかった。


 その答えを教えてくれたのが、もう一人の転生者である、エリーだった。


 私はエリーの一言で、前世がカーミラであり、今はリリスであると気づいた。


 どちらも自分なのだと理解し、吹っ切れた私は、カーミラとして――そしてリリスとして生きていくことを決めた。


 それからは、ただ自分のやりたいように過ごすようにした。


 エリーと共にダンジョンへ向かい。

 アリサを連れて、冒険者となり。

 義母の手先であるカリーナを引き抜き

 そして三人を私のメイドとして鍛え上げた。


 振り返れば、随分と騒がしい時間だったと思う。

 ……だが。

 その中でも、何より面白かったのは、彼女たちの変化だろう。


 初めて会った頃のエリーは、言うなれば、この世界のすべてをどこか非現実のものとして見ていた。

 話を聞く限りでは、私やこの世界は、彼女の前世で物語だったらしい。

 だからだろう、彼女は時折、周囲の人間を“登場人物”のように扱っていた。


 だが、あの事件を境に、彼女は変わった。

 ようやくこの世界を、自分の生きる現実として受け入れたのだと思う。


 ……とはいえ。

 私のことを『推し』と称しては讃え、興奮して鼻血を出すところは相変わらずだけどね。

 初めの頃など、()()()()をとっておきの武器だと信じて、大事そうに抱えていたくらいだ。

 それを思い出すと、思わず笑みがこぼれる。


 アリサは、もともと気の弱いメイドだった。

 準貴族という立場もあって、誰に対しても強く出られない性格だったのだが、前世の記憶を取り戻し、変わっていく私たちの姿を見て、彼女もまた変わろうと決意した。


 その結果、自身に戦闘の才能があることに気づいた彼女は、冒険者としてみるみる力をつけていき、

 今では、私がいなくとも第一線で通用するほどの実力を持つまでになっている。


 鍛えられた身体は引き締まり、美しさにも一層磨きがかかったこともあって、そのせいか、何人もの男が声をかけているらしいけど今のところ、彼女は私たちに夢中みたい。


 ……まあ、たまに悲観的な妄想に囚われて騒ぎ出したり、血の涙を流したりする癖はあるが。

 それも含めて、愛らしい私の従者である。


 そしてカリーナもまた、初めの頃は貴族令嬢としての癖が抜けきらないところがあった。

 けれど、一緒に過ごしていくうちに、少しずつ変わっていった。

 私の命令にも文句は言うけれど、なんだかんだでしっかりこなし、少し抜けたところのあるエリーやアリサを上手くサポートをしてくれたりする。

 メイドとしての技能はもちろん、魔法の扱いも三人の中で最も長けているし、今の彼女なら、どこに出しても重宝されるだろう。


 ……こうして考えると、三人の中では、カリーナが一番の常識人になっているのかもしれないわね。


 私は三人の事を思い出して、自然と笑みが零れる。


 そして、変わってたのは、三人だけではない。

 私が所属する冒険者ギルドもまた、私が初めて訪れた頃とは別物になっている。


 当初は、志も低く、どうしようもない連中ばかりだったけれど。

 私が前に立ち、叩き上げるように意識を変えさせていった結果、少しずつ冒険者としての自覚を持つ者が増えていった。

 今では、ギルド職員と冒険者が連携し、まともに依頼をこなせるようになって少しはマシになったかしら?


 もっとも、その空気についていけず、町を去った者もいるけれど。

 

 そして私は皆に宣言した通り、一年足らずでSランクに昇格した。

 その噂は国中に広がったらしく、今では私に興味を持つ冒険者や貴族も増えてきている。

 勿論何を言われようが決して靡かないけど。


 それから、変わったと言えば二人の王子もそうだ。

 幼い頃に呪われ、王族でありながら人から距離を置かれていたクオーツは、呪いが消えたことで、それまでの遅れを取り戻すかのように積極的に表へ出るようになった。


 今では、兄のレオンハルト王子にも劣らない人気を誇り、多くの令嬢からアプローチを受けているらしい。

 さらに、魔力を奪っていた呪いが消えたことで、魔法の才に関してはレオンハルトを上回るほどになったようだ。

 ただ、それは必ずしも良い方向にだけ転んでいるわけではない。


 クオーツを次期国王に推す声も、少しずつ上がり始めているらしい。

 ただ、当の本人にその気はないようで。

 冒険者にでもなりたいのか、時折ギルドに顔を出しては、カーミラ(わたし)に愚痴をこぼしている。


 そして、レオンハルトは私のどこに興味を持ったのか分からないけれど、城へ招待した後も、何かと理由をつけて私に会おうと、両親に働きかけているらしい。


 さすがの両親も、彼の興味が私に向いていると察したのか、危機感を抱いたようでエリスが十二歳になったのを機に、王都の屋敷へと移り住んでいった。

 その結果、本邸の屋敷には人っ子一人いなくなってしまった。


 おかげで、私の邪魔をするものはなくなり、今はエリーたちと共に、元の屋敷でのんびりと過ごしている。

 この時間こそ、私が前世で求めていたものかもしれない。

 ……この時間が、ずっと続けばいいと思っている。


 だけど、一つだけ、気がかりなこともある。

 それは、いずれ彼女たちが、私のもとを離れていくかもしれないということだ。


 彼女たちはメイドである前に女性だ、いつかはどこかへ嫁ぐ日が来るかもしれない。

 もともとアリサやカリーナは、それを目的にメイドになったという話もあるし。


 エリーも、前世を思い出してからは結婚する気はないと言っていたけれど……どうなるかは分からない。

 なにより、この世界はエリーの前世で、恋愛を軸にした物語だったらしい。

 ならば、彼女にも、理想とする相手が現れる可能性はある。


 ……そうなれば、考えが変わることもあるでしょうね。


 でも、もし、それであの子たちが幸せになれるのなら、それでいい。


 だから、その時が来るまで、もう少しだけあの子たちに甘えて、そして、怠けさせてもらうとしましょう。




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