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素顔①

 ――クオーツ視点


「っ、は……っ、は……クソ……!」


 薄暗い森の中を、ただひたすらに駆けていた。

 後ろを振り返れば骸骨の仮面を被った男達が、追ってきている。


「っ……タイラー……」


 ――済まない……俺が、愚かだったせいで……!


 俺を逃がすために残った従者のタイラーを思い、奥歯を噛み締め走る。


 こんなことになったのは、全て俺のせいだ。

 ……俺がバカだったから――


 ――……事の発端は数日前。


 俺は、一ヶ月程前から自分にかけられた忌々しき呪いを解く方法を探すため、専属の従者であるタイラーと共にこっそり城を抜けて調査をしていた。

 命を狙われた経験のある俺が、自ら外に出て調査をするなど、危険だとはわかっていたが、それでもなにもせずにはいられなかった。


 俺にかけられた呪いが、どんなものなのかは分からない。ただ、すぐに命に関わる類のものではなかった。

 それでも、焦りを感じていたのは一ヶ月前、エトワール公爵家の令嬢、リリスと出会ったことが要因だろう。

 リリスは、公爵令嬢でありながら、黒い瞳と魔力の低さを理由に家で冷遇されていた。


 本邸から離れた屋敷に隔離され、メイド達と共に、世間から隠れるように生きていたらしい。


 そんな彼女と出会ったのは、兄レオンハルトに付き添った時だった。

 レオンが婚約者候補であるエリスに会いに行った際、偶然姉のリリスと顔を合わせたらしく、その時に気にいったようで、冷遇されている彼女を城に呼び出すための口実として俺に協力を求めてきた。


 俺は第二王子だ。

 将来は、兄を支える立場にある。

 ……そして、俺には幼い頃に襲撃にあった際に受けた伝染すると噂される呪いがある。

 そのせいで、人は俺を避け、近づこうとする者など、ほとんどいない。

 だからこそ今回の件は数少ない人と関わる機会”でもあったので断る理由など、なかった。


 ……それに、あのレオンが興味を持った相手というのも、気になっていた。

 だから、少しだけ彼女と会うのを楽しみにしていた。


 しかし、いざ会ってみれば拍子抜けだった。


 王子二人、令嬢二人で行われた顔合わせだったが、リリスは妹であるエリスの“付き添い”という扱いで、ほとんど口を開こうとしなかった。


 エリスの我儘な振る舞いにも、その責任を押し付けられても何も言わない。

 ただ、黙って受け入れていた。


 その姿に俺は苛立ちを感じた

 ……そしてどこか、俺と重なって見えた。


 容姿のせいで冷遇されたリリスと呪いのせいで周囲から距離を置かれている俺。

 そんな立場は、あいつと大して変わらない。

 ……違いがあるとすれば、俺には、()()がいたことくらいか。


 だが、このままでは俺もいずれああいう風になってしまうのではないかと思い始めてしまった。

 例えレオンや両親が気にしなくても、俺の存在が皆の足かせになってしまう、そんな恐怖を抱き始めた。


 だからこそ、一刻も早くこの呪いを解きたいと考え、独断で調査を始めた。

 タイラーは、兄の従者であるクレスに比べれば軽薄なところもあったが、それでも俺の無茶に、文句ひとつ言わず付き合ってくれた。

 そして、調査を始めて一ヶ月が経とうとした頃。


 呪いについて知っている人間が、街の外にいる。

 そんな情報を掴んだ。


 だが、タイラーはすぐに「胡散臭い。やめた方がいい」と首を横に振った。

 ……それでも、焦っていた俺は聞かなかった。


 だから、その忠告を無視してそいつがいるという森へ向かった。


 そして。


 ――結果が、これだ。


 情報は嘘だった。


 そこにいたのは昔、俺に呪いをかけた連中だった。

 タイラーが足止めしてくれたおかげで、俺は何とかその場から逃げられたが、すぐに別の追手が現れ、再び追われることになった。


 そして――今に至る。


 俺は、ただひたすらに走り続けていた。

 木々が生い茂り、昼だというのに薄暗い。

 だが、この森を抜ければ開けた場所に出る。


 そうすれば、助けを呼べるかもしれない。

 その一心で、前だけを見て走っていた。


「うわっ!」


 しかし、木の根に引っかかり、足元をすくわれる。


 そして体勢が崩れるたその瞬間、傾いた身体を、誰かが支えた。


「――え?」


 見上げるとそこにいたのはタイラーだった。


「タイラー、無事だったのか⁉」

「すみません。数が多くて、少し手こずりました」


 いつも通りの口調で、そう答える。

 そして、いつも通りに笑った。


 ……だが、その身体は、傷だらけだった。

 無理をしているのは、一目で分かる。


「すまない、タイラー。お前の忠告を聞かずに俺は――」

「お詫びは帰ってから、たんまりいただきます。今は、とにかく逃げましょう。森を抜ければ人目につきます。そうなれば、奴らも手を出しにくいはずです」


 そう言うなりタイラーは俺を脇に抱え、そのまま地面を蹴った。

 一瞬で、景色が流れていく俺が走るのとは、比べ物にならないくらい速い。


 木々が後ろへと吹き飛ぶように遠ざかり、追手の気配も、次第に離れていく。


 やがて視界の先に、光が差し込む、森の出口だ。


 タイラーは、それが見えるとそのまま一気に駆け抜けた。


 ――だが。

 その先にいたのは新たな、追手だった。


「おいおい……何人いるんだよ」


 タイラーの声から、余裕が消える。

 それでも俺を抱えたまま、片手で剣を構えた。


「タイラー、もういい。これは全部、俺の責任だ。だから、お前だけでも――」

「馬鹿なこと言わないでくださいよ、殿下俺一人で逃げたところで、俺は王子を見捨てた従者として、縛り首ですよ」

「……それは、そうだが……」

「……クオーツ殿下、命頂戴いたす」  


 迷っている俺達に対し骸骨の仮面の一人がそう言うと、一斉に襲い掛かってくる。  

 逃げ場のない状況に俺は自分の行動を悔いながら眼をつぶった。


 ……しかし――


「邪魔よ」


 突如声が聞こえると、何かがぶつかる音が聞こえた。


「……え?」


 思わず目を開ける。

 するとそこにはいつの間に現れたのか、ローブを纏った二人の人影が立っていた。


 冒険者……?


 いや、今の声。……どこかで――。


 そう思い、視線を向ける。

 冒険者と思われる二人は顔を仮面で隠していた。

 だが、その仮面の隙間からは見覚えのある黒い瞳が覗かせていた。


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