#13 共犯の影
《02:50 地下旧手術室前》
コンクリ壁に貼られた封鎖テープをくぐり、白石あかりは息を殺した。天井の非常灯は半数が切れ、残った灯りが医療機器の残骸を青白く照らす。
御堂師長は無線を耳に当てたまま振り返った。
「霧島は依然、2階応急処置室で警察聴取中――良し。地下にいるのは黒瀬だけとみていい」
あかりの足元に滑るように転がる白い造花。茎の針金が灯りを弾いた。
(また花印……)
《02:55 旧手術室》
扉を押し開けると、手術台の上で安藤拓真がうつ伏せに縛られていた。背中には刺し傷。だが呼吸はあった。
「拓真くん!」
—
御堂が脈を取り頷く。「生きてる。あと十分は持つ」
壁際に置かれた医療廃棄箱の蓋が揺れ、紫の瞳が覗いた。
「やっぱり来たんですね、白石さん」
玲奈が箱から姿を現す。白衣は血飛沫を斑点のように飾り、手には未開封の注射器が二本。
「やめて、玲奈さん! 彼は関係ない」
「いいえ。あなたを“守る”には、余計な声を削らないと」
御堂がスタンガンを構えた――が、室内の照明が一斉に落ち、闇が噴き出した。
次の瞬間、閃光弾の白が弾ける。
《03:03 停電下》
耳鳴りの中、あかりは床を這う。雷光が過ぎると安藤の姿が消えていた。
代わりに手術台に置かれた造花の花束。その中央に針金で作られた小輪の手錠。
「白石さん、こちらへ」
背後から囁き。振り向くと、非常灯の残光に玲奈のシルエット。
「あと一歩で救えます。あなたさえ、逃げなければ」
呼吸器のアラームが鳴り、天井非常灯が再点灯。御堂が壁際で気絶している。
玲奈は扉へ消えようとして、あかりの瞳をじっと見つめた。
「大丈夫。霧島先生はまだ安全です。でも——次はどうでしょうね」
足音が遠ざかり、扉の自動ロックが閉まる音が地下にこだました。
《03:20 旧手術室・救助隊到着》
警備員と応急チームが突入。あかりは震える指で造花を拾う。
花弁の裏に細いカッターの刃。そこには点灯を促す血のような赤インクで“つづく”と刻まれていた。
◇
廊下に立つ玲奈は、非常灯を見上げて微笑んだ。
「あと一時間で夜は終わる――その前に、終わらせましょう」




