#10 監視映像の残響
――私のどこが、そんなにおかしいの?
紫の瞳が「逃げないで」と囁いた直後、救命ステーションの警報灯が真紅に染まった。あかりは花マークの封筒を握りしめたまま廊下へ飛び出す。
《コードブルー 外科処置室前 院内P3》
さっきまで写真に映っていた場所だ。薄闇の床に横たわる白衣の人影――安藤拓真。胸骨圧迫を開始した玲奈が無言でリズムを刻む。あかりは電極パッドを貼り、AED を作動させた。
「離れて!」
機械音とともに拓真の体が跳ねる。心電図は荒い波形に戻り、酸欠の唇に赤みが差す。安堵の息が漏れた瞬間、玲奈はあかりの頬に付いた血を指でそっと拭った。
「大丈夫。あなたは救えた」
言葉とは裏腹に、その指先は冷たかった。
◇
三〇分後、ICU ストレッチャー脇。拓真は意識を取り戻し「黒瀬さんが最初に見つけてくれた」と呟く。あかりが礼を言おうと探すが、玲奈の姿はない。
御堂師長が到着し、現場写真入りの封筒を手渡す。「犯人からの挑戦状だ」――中には複数の花マーク付写真。時刻は全て《01:46》。
「黒瀬の当直PCから、同じタイムスタンプのアクセスログが出た」
けれど決定的ではない。御堂は苦悩の眉で言う。「霧島医師のIDも重なっている。どちらか、あるいは共犯だ」
あかりの胸ポケットで造花のブローチが凶兆のように震えた。
◇
02:00 ICU モニタールーム。御堂の指示であかりは監視映像を確認する。薬剤庫カメラに白衣の背中。霧島だ。扉を開ける背後から、もう一人の影――玲奈。画面は暗転し、四分巻き戻ったタイムコードが表示される。
(また四分……!)
「霧島先生が犯人に仕立てられているかもしれません!」
あかりの叫びに御堂は頷き、警察へ連絡を取るよう指示する。その瞬間、病棟非常灯が一斉に落ちた。闇の中、懐中電灯の光が一点だけ灯る。玲奈だ。
「白石さん。もう迷わないで」
その声は静かで甘く、周囲の機械音を吸い込んで闇を満たした。




