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"環"  作者: 正さん
六章
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五十話「It's My Life」



「こっちは艮くん探してくるね。二人は早めに帰った方がいいよ、企業に目を付けられてないとも限らないから」

「わ、分かった」

 …そうか。菜那さんと企業が関わってるのだとしたら…リンチとかの物騒なワードが出てたし…次に狙われるんだとしたら私たちになる…ってことか…。


 池崎彩の言う通りにしようとワキノブの手を引くと、ワキノブは「話したい人がいる」「先に帰ってくれ」と言いながら宮部さんの元へ向かって行った。

 …ワキノブが宮部さんと?何を話す予定があるんだろ…というかそもそも二人って認識あったっけ…。


 みたいなことを色々考えながら靴箱に向かうと、視界の隅を見覚えのある後ろ姿が通った。

 あの、大柄の体格…アオダイショウか?

 池崎彩が探してるって言ってたよな…なら、今アオダイショウは隠れようとしてるのかな。

 アオダイショウが向かった方向には…確か学食があったっけ。

 …行ってみるか。


 足音を立てないようこっそり後を追うと、アオダイショウは私の気配で気付いたのか、ゆっくり振り返り、真っ直ぐ私を見つめた。

「…華菜ちゃん?どうしたの?何か用事?」

 どこか諦めたような声色。

 多分、一連の騒動をどこかで見ていたのか、それとも…菜那さんから連絡が入ったのか…。


「アオダイショウ、あのさ…」

 その時、スマホから通知音が。

「…」

「俺のじゃないね…華菜ちゃんのスマホじゃない?」

「…」

「大丈夫だよ。華菜ちゃんが見終わるまで俺はここから動かないから」

 …。

 アオダイショウに従い自分のスマホを見てみると、それはワキノブからで…。


「…は?」

 そこにはこう書かれていた。


『さっき神足さんから聞いたんですけど、アオダイショウさんを昔いじめてた人が居たじゃないですか』

『アオダイショウさん、それを朱里さんだと思い込まされてたらしいんです』

『アオダイショウさんはXYZの役員を父親に持つ人なんです。XYZが晶さんを何とかするために、身内である朱里さんを痛め付けて、言うことを聞かないとどうなるか分からないぞ、と脅すために嘯いたみたいです』

『実際にいじめていた人は、神足さん曰く菜那さんじゃないか、と』

『それと、神足さんはアオダイショウさんの事を「リンチは悪いことではあるけど、彼も立派な被害者だから情状酌量の余地はある」と仰っていました』


 …なら、親が息子を唆したってことか?

 企業はそんなことまでするのか?

 バックにヤクザが居るからって…雅朱里が晶の関係者だからって…。

 …父親は、目的のためにアオダイショウを利用したのか?



「…なあ、アオダイショウ」

「…」

「…あのさ、朱里さんをリンチしたのが…アオダイショウってのは本当か?」

 思い切ってそう尋ねると、アオダイショウは私から目を逸らした。

「…正直に言ってくれ」

 そう言いながらアオダイショウの方に一歩踏み出すと、アオダイショウは私の方を見て、薄ら笑いを浮かべながらこう答えた。


「…あぁ、俺だよ。昔いじめられた恨みで俺がやった。微塵も後悔はしていない」

 …言おうか、躊躇った。

 でも言わないと、アオダイショウはこのまま企業に利用され続けてしまうかもしれない。

 このまま見ず知らずの奴らをリンチして回る事になるかもしれない。

 それに、アオダイショウの父親が、企業に脅されている可能性だって0じゃない。

 あの人が本当に心底悪い人なんだとしたら…一刻でも早く離れられるように。

 アオダイショウをいじめていたのが本当は誰なのか知らないと。


「…アオダイショウ、それは…違うんだ…」

「…」

「…あのな、アオダイショウは、騙されてて…」

「…」

「昔、本当にアオダイショウをいじめたのは…」


 そこまで言うと、アオダイショウは目を見開きこう叫んだ。


「んな事とっくの昔に分かってる!菜那なんだろ!?俺をいじめた主犯は!!」

 !?

「…は…?な、なら、なんで…」

 アオダイショウは言葉を続ける。

「俺が俺をいじめてきた屑野郎の奴の顔を覚えてねえ訳無ぇだろうが!!俺はよ、あいつの口車に乗せられたフリをして、隣でずっとあいつをぶち殺す算段を立てていたんだ!!」

 …。

「…その為に、朱里さんをリンチしたのか?無関係の女の子を男で寄って集って!?」

 私がそう尋ねると、アオダイショウは私の目をまっすぐ見つめ、左の口角を上げながら答えた。

「そうだ。あいつの信用を得るためにはそれしかねえからな」

「!」

「それに、苛めってのはよ、やられる側がいくら泣き叫ぼうがな、やる側にとっては遊びの延長でしかないんだ。だから」

「…だから何だよ」

「……だから、俺もそうやって誰かで遊んでやりたかったんだ」

「…」

「それの何が悪い」

「…」

「なあ、何が悪いんだよ!!言ってみろ!!」


 …言えなかった。

 何を言っても、アオダイショウの事を否定してしまうような気がして。

 否定するべきなんだろうけど、否定したくなくて。


 そうやって黙り込んでいると、アオダイショウはぐっと堪えるような表情をしてから、私の方へ一歩踏み出した。


「…こんな時まで優しいんだな、君は」

「…」

「…ごめんな、俺はお前の言ってくれたアオダイショウなんかじゃないんだよ。マムシだ」

「…」

「毒蛇なんだよ!人の害になって、駆除されるべき存在のマムシなんだ」

 アオダイショウは悲しげに微笑んだ。


 …。


「…それでも、いいよ」

「……は?」

「マムシはさ、みんなを傷付けたくて毒を持ったわけじゃないんだよ。生きていくために効率的だったから、自分の身を守るために毒を持ったんだ。アオダイショウだってそうだった。違うか?」

 アオダイショウは後ろへ後ずさった。


「……やめろ、そんな風に俺を捉えるな。俺はそんなんじゃ…」

「マムシでもいい、そう呼んでほしいならそう呼ぶ」

「そういう問題じゃなくて…俺は……」

「…」


 アオダイショウは、膝から崩れ落ちた。


「………復讐して…俺の、立場を…変えないと……そうしないと……俺が、ガキの時の俺が、報われ、ないから……」

 泣くのを堪えてるような、震えた声。

 私はアオダイショウの隣に膝をついた。

「…必死で、報われようと生きなくていいじゃん」

「……え」

「私はさ、夏祭りとか行って、みんなで過ごしたのめちゃくちゃ楽しかったよ」

「…俺も、楽しかった。あの日は本当に…」

「なら、もうそれでいいじゃん…楽で、一瞬でも、あの日の悔しさを糧にしようとか、あの日を思い出して、自分を鼓舞する名目で、自傷しないでいれるなら…」


 背を撫でた。

 アオダイショウは思っていたより細くて、華奢で。

 この細い背中で全部抱え込んでいたのかと、嫌なほど痛感した。


「……」

「そう思わないのならそれでいい…ただ……」

「……」

「苦しいかもしれないけど……ただ…アオダイショウには生きててほしいんだよ」

「……かな……ちゃ……」


 夏祭りの日を思い出した。

 いや、というか、それ以前からずっと。

「…私は、清を…ずっと、お兄ちゃんみたいに思ってた」

 私の言葉に、清はゆっくり息を吸い込み、こう尋ねてきた。


「……だから、煙草の事も黙っててくれたの?」

 頷くと、清は呆れたように笑ってから、こう続ける。

「…中学の、あの頃…智明さんや…環君みたいに……華菜ちゃんみたいな妹が、俺にいたら、よかった……そしたら…」

「…後悔してるの?朱里さんに…手をあげたこと」

「……」

「…どっちでもいいよ。朱里さんが許さなくても、私は許すから」

「……なら、幸せだ……今、すごく…」

「よかった」

「…ごめんね…本当に……こんな…最低な人間で……」

「…清は…私じゃなくて、まず朱里さんに謝らないと」

「……そうだね…分かった、そうするよ…」


 清の腕を掴み、ゆっくり立ち上がらせると、清は鼻をすすりながら穏やかに笑い、私へ背を向けて下駄箱の方へ歩いて行った。


 …。


「あ…華菜ちゃん…まだここにいたのか…」

 その時、私へ声をかける奴が現れた。

 池崎明人だった。

「…ちょっと散歩したくて」

 私がそう答えると、池崎明人は疑う素振りすら見せず、平然と「そっか」と答えた。

「ところでさ…艮は見なかった?この辺に来てた気がすんだけど…」 

「……」

「…華菜ちゃん?」

「…ごめん、見つけられなかった」



 11月17日。

 振り替え休日明けの火曜日。

 授業終わり、ワキノブへ色々教えてくれた宮部さんに直接当たって詳しい事情を聞こうと三年の教室の前を歩いていた時、後ろからワキノブに声をかけられた。


「華菜さん、どうしたんですか?」

「あ、いや…宮部さんに直接何があったか聞こうと思ってさ。艮とかの事…」

 正直にそう答えると、ワキノブは納得したのか大きく頷き、なら私も一緒に探すと言ってくれた。


「…でも、いくら話聞いても宮部さん居ないみたいでさ」

「…こっちもです。一応連絡先交換したんですけど、いくら送っても返信が無くて…」

「…なんかあったのか」


 確かあの時、宮部さんは菜那さんに向けて能力を使ってた。

 身体の一部が刃物に変わる能力って言ってたっけ。

 企業ってのが能力者を探してたり、人体実験で人為的に作ったりしてんだったら…もしかして、企業に目をつけられたりしたんじゃ…。

 それに宮部さんは晶の友達…。

 雅朱里をリンチするくらいだ。

 晶を確保する為に動いてるんだとしたら…宮部さんは格好の標的なんじゃ…。


「華菜ちゃん、忍君、どうしたの?」

 その時、目の前にあった教室から環が顔を出した。

 ワキノブと顔を見合わせ、頷き合うと、ワキノブは環の方を向いてこう言った。


「…………環さん、私、嫌な予感がしたんですけど…」

 ワキノブの真剣な声。環は唾を飲み込み、ゆっくり頷き、続きを促した。

「……一応、言ってくれる?」

「暴行事件のフリが通用しなかった時とか、華菜さんが邪魔されて晶さんと話せなかった時に察せておけば良かったんですけど…」

「うん…」

「この高校の三年生のほぼ全員が…晶さんの味方なんじゃないかなって」

「……は…?」


 ワキノブはこう続ける。

「菜那さんが、明人さんのBL本についてまた掘り返したって打ち明けたでしょ?それを打ち明けられるよりも先に、晶さんが知っていたと仮定したら?」

 …。

「……だから、晶の味方と言うよりかは、三年全員明人君の味方で、額塚さんの敵になったってこと?」

「そう…なんじゃないかな…」


 環は少し考えてから、ワキノブの言葉に同意した。

「確かに…そもそも、明人君の漫画本の話は三年や二年の間ではタブーとして扱うようにしてたのに…菜那さんが構わず食堂に持ってきたのもおかしいよね」

「それに、今思うと…あの本を持っていたのもおかしいんですよ、販売中止になってる筈なのに…!だから…この本がまだ売られてる頃、晶さんか明人さんを脅迫するために買っておいたんじゃないかな」


 …まさか、いや、そこまでは…あり得ないか。

「……作者と繋がってるとか、無いか?」

 恐る恐るそう言ってみると、環は信じられないといった様子で目を大きく見開いた。

「…もしかして華菜ちゃん。作者にあの漫画を書かせたのが菜那さんって言いたいの?」

「考えたくないけど…うん、そう言いたい」

「…」

「これ、見てくれ」

「?」

「消されたからかもしれないけどさ…ニュース記事とか報道について調べてみても、一件しか出てこないんだよ。そんなマイナーな事件をどうして扱った?もしかしたら漫画の作者は池崎明人さんと知り合いなんじゃないか、って…」


 そう言いながらスマホで池崎明人と調べた画面を見せてみると、二人は画面を見てからゆっくり頷いた。

「……確かに、今思うと、事件について報道されたのは明人君のフルネームだけ…顔写真はどこにも出てないね…」

「なら…マイナーな事件だからこそ扱ったとかか?」

「それもあるかも…でも、それを重ねて考えても、漫画に描かれてる顔が明人さんに瓜二つっておかしいですもんね」

「うん。特定して投稿する馬鹿は居るかもしれないけど…今名前を調べても、事件の事を調べてもこれしか出てこないのなら…そもそも、記事が…出てないんだと思う」

「じゃあ明人君、もしくは明人君の家族の知り合いが描いたって考えるのが妥当か…」


 …。

 池崎明人の、家族の知り合いか。

 池崎。そういえばどこかで聞いたことがある気がするな…。有名人とかで居なかったっけ?

 …ダメだ、浮かばない。

「…なあ二人とも…池崎…って、なんか…どっかで聞いたことある気すんだけど…心当たりとか無いか?」

 一人で考えていてもダメだと思い、二人に素直に尋ねてみると、環は少し考え、首を横に振った。

「いや、申し訳ないけど俺は無いね…忍君は?」

 環がワキノブの方を向くと、ワキノブは少し考え、小さい声で唸ってから、スマホで何かを検索し始めた。


「?心当たりあったのか?」

「はい、神足さんが所属されてたバンドについて調べてたら…そのバンドには、有名ロックバンドのベーシストの妹さんも所属されていたみたいです」

「有名ロックバンドの妹…?」

「はい。そのベーシストさんは少し前に脱退してしまったんですけど…まだ所属されている頃、有名なアニメの主題歌を歌ってかなり話題になったらしいんです」


 …そうだったのか。


「…そんなに関係は無さそうだね」

「いや、関係あるんです…」

「は?そのベーシストと池崎に何の関係があんの?」

「そのアニメのタイトルは"一片の報い"で…原作者が…池崎直樹さんという方らしいんです…」

「…池崎直樹…明人君のお父さんか…?」

「…恐らく」


 …。


「そのベーシストに何か恨みがあるとか?それとも晶とベーシストに関わりがある?ベーシストが能力者?」

「多分直樹さん本人に恨みがあるんだと思うよ。彼が何をしたのかは分からないけどさ…もしかしたら観月に関係のある事かも…」

「…」


 観月。晶の母親に関係のある出来事。

「…そういえば」

 環と目を合わせ、色々考えていると、ワキノブが口を開いた。

「どうした、何か心当たりあったか?」

「はい。体育祭の時に神足さんと話してたら、アオダイショウさんと菜那さんが煙草を吸ってるところを目撃してしまって…」

 …煙草…。

 …やっぱり…吸ってたのか…。


「その時、確か菜那さんが…『あの人に惚れて今年で26年だ』と仰ってました…。アオダイショウさんは、それに『出会ったのはお前が16歳の時だったか』と返事していて…」

「今から26年前は…1993年。90年代前半か?なら観月が京都に来た時と同じ時期だ…!」

「なら、菜那さんの実年齢は26+16の、42歳?てことはさ…晶の母親は…池崎直樹と同い年だったりしないか!?」


 私の言葉に、環とワキノブは目を見開いた。

 環は少し考え、辺りを確認してからこう呟く。

「なら、直樹さんも…観月についての秘密を知ってるとか、そういうことか?」

 その言葉を聞いて思い出した。


「…いや、ちょっと待って」


 二人が私の家に来た日。

 観月が、XYZって会社が設立されたきっかけで…。ワキノブが調べたところ、そのXYZは来年で創立80周年を向かえるんだったか…。

 …だとしたら、観月の実年齢は一体何歳なんだ?

 XYZが、晶の知り合いである朱里をリンチしてでも、隠そうとしてる秘密があるのか…。


 それが、環や晶の家と深い繋がりがあるんだとしたら…。

 環が夏祭りの日に言ってた「今年が俺にとっての最後の夏」って言葉が、三年だからって意味じゃなくて…家を継ぐから、もう会えなくなるって、意味でも…なくて…。


「…」

「…華菜ちゃん?」



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