表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/50

レールの先に見えるモノ





ココココッココッ。 ココココッココッココッ。


コッコッコココッ。



私の目の前に無数の鶏が群れを成し

そして、無秩序に辺りを歩きまわってる。



『 お~~い、そこのあんたも手伝ってくれ! 』 

『 あ、はい!! 』 


しばし呆然と見とれていたが

わたしは、その呼び掛けに素早く身体を動かしてみる。


しかし、これは・・・なかなか・・・。



『 乗り遅れそうだった豚丼の お姉さんに、

踏切で横転した養鶏場のトラック・・・

なんか、面白すぎ、ふふっ。 』 

そう呟きながら、

男子学生が要領良く鶏を捕まえ、合間に携帯で写真撮影もしている。



『 これは応援要請が必要だ、な・・・。 』 


運転手の引きつった独り言が聞こえてくる。



そう、事の真相は

踏切付近で横転した養鶏場のトラックの積み荷、生きた鶏が大量に、

そして無秩序に、踏切付近一帯すべてに放たれていたのだ。


それに気づいた鉄道運転手さんの機転または運転技術によって踏切手前で

見事に停車、大惨事は避けられていた。


しかし・・・。



『 お~~い、あんた。 』 

『 はい。 』 


鳥から視線を上にあげると、1人の男性が私に呼びかけている。

見るからに作業服に身を包んだその格好は、この事故の当事者らしかった。


『 鳥を捕まえるには、こうやって ゆっくり後ろから近づいて、

羽の付け根と胴体を一緒に持つように・・・・ほら、ね。 わかった? 』

『 ・・・・・。 や、やってみます。 』


わたしは無数の鋭い目つきに少し尻込みしながら、なんとか

挑戦してみる。


1羽を追いかけ、そして逃げられ、

1羽を再度追いかけ、また逃げられ・・・これを15回以上繰り返してると

少しイライラしてくる。



( なぜ、私がこんなことを!!!

元はといえば、あんたの不注意でしょうが!! )


で、でも・・・・。



『 と、取った!!!! 』

『 お~~~、その調子でな。 』 

『 は、はい。 』 



ココココッココッ。



わたしの中で、大人しく声を漏らしている鶏は・・・

なんか可愛らしく、なんか嬉しい気持ちになった。



わたしはコツを掴んだのだろうか?

いや、調子に乗ってしまったのだろう。

その後、2羽3羽と、次々に捕獲していく。



『 うっわ~~~、上達はやっ!! 』

 

男子学生に驚嘆されながらも、


わたしは何だか、次第に・・・こころが・・・・・。


なんだろう・・・。 表現できない。




あの子に会いたい・・・・。


もちろん、はやる気持ちもある。 しかし・・・・。


このまま列車に揺られて、楽して・・・あの子に会える気が全くしない。


なんでだろう。


事故に巻き込まれたから? 



それに、

あの豚丼の売り子の女性・・・

あれは確かに、ファストフードと同じ店員だったはず・・・


考えることが、次から次へと浮かんでは消えてゆく。



そして、いつしか


無心になっていくのを感じる。



仄かな喜び。 


先が見えなくても、

いま手を、身体を動かしていくことで

なんか、言い知れぬ充足感と喜びを感じてくる。


荷台をひっくり返し、鶏を捕まえるのを指示した男性にも、

もう悪い印象や気持ちは無い。




『 お茶でも、持ってこえばよかったのぉ 』 


おばぁちゃんの独り言に、わたしは無言の笑顔で返す。


その先には、こちらを向いている男子学生の笑みも見えた。



空には、雲一つない青空。 



こんな快晴の日を 「 十勝晴れ 」、と言うらしい。




『 この度は、どうも済みません!!! 』 


事故を起こした養鶏場の増援が到着し、程なく

警察と鉄道職員も到着し、事態の終結に拍車をかけた。



最後は みんな笑顔だった。



鉄道を止めてしまい、迷惑をかけてしまったことは

間違いがないのだが、

怪我人もなく、怪我鶏もなく?

( 数の確認で漏れは無かったようだ・・・。 素晴らしい。 )

約2時間後に、すべてが終わった。


養鶏場の関係者が、

迷惑を掛けた人たち( 特に手伝ってくれた乗客 )に

封筒に入った謝礼を手渡した。


中には1万円札が一枚入っていた。


もちろん、わたしも頂いた。



『 あんた、うまかったねぇ。 うちで働いてほしいものだよ。 』 

『 そんな・・・ 』 

『 いや・・・その、このたびは済みませんでした。 

 手伝ってくれて、本当にありがとう。 』 


事故の当事者の男性は、帽子を取り

わたしに深々と頭を下げた。



『 では、御客様。 

 出発しますので、御乗車のほう、よろしくお願いいたします。 』 


運転手の声に、みな何かを言いたそうに車両へと戻っていく。



そして、わたしの足は といえば・・・。



『 お、お客さん? 』 

『 ・・・・・。 』 


わたしは、

レールの先を、行き先方向をまっすぐに見つめる。


『 ・・・・・あ、あの。 』 

『 どうかなさいましたか? 』

『 ここで・・・ここで、降りてもいいですか? 』 

『 は? 』 

『 途中下車は、可能ですか? 』 

『 この場合、・・・途中下車とは言わないんですけど・・・。 』 

『 あの、できますでしょうか? 』

『 ・・・・、仕方ないですね。 次は無いですよ。 』

『 あ、ありがとう。 』 

『 こちらこそ、ありがとうございます。 手伝っていただいて。 』 


『 おねぇちゃん、忘れ物! 』

男子学生が声を掛けてくる。

そして、

少し顔を赤らめて わたしに手渡してくる。


『 あ、豚丼・・・。 あ、ありがとね。 』


今風だけど・・・やっぱ いい子ね。


『 あのぉ・・・ 』 

『 ん? 』

『 写真撮っていい、かな? 』

『 え? 』

『 ・・・・記念に。 』

『 ふふふ・・・。 』

『 ・・・? ダメかな? 』



『 ピースは、した方がいい? 』


わたしは、ありったけの笑顔を学生に向け、ポーズを取った。



そして、大きくゆっくりと手を振りながら



去り行く列車を無言で見送った。








~つづく~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ