2つの別れ
その後、
私は巴菜さんに手を引かれ、
病院の緊急外来の処置室に向かった。
私は幸いにも健康体を維持していて
3年以上も病院に掛かっていなかったので
なにか妙な緊張感を持ってしまい
ちょっと目をキョロキョロさせながら
処置室へと向かった。
処置室では、吉川さんだけがベッドで横になり
点滴を受けていた。
『 吉川さん・・・ 』
私の独り言のような小さな呼びかけに
吉川さんは 小さな笑顔を私に向けながら
ゆっくりと身体を起こした。
『 そ、そのまま寝ていてください。 』
『 いや、今回は まったく迷惑を掛けてしまって、ほんとすまね。 』
『 そんなこと無いです。 』
『 ご家族の方ですか? 』
吉川さんと会話を始めて、すぐに 看護師の女性が私に声を掛けた。
『 いえ・・・ 』
『 あら、てっきり・・・。 あっ、あの少女のお母さんかしら? 』
『 え? 』
『 吉川さんを連れてきてくれた女の子。
お母さんは後で来るって言っていたけど・・・ 』
( そうか・・・小さな私が病院の人を呼んでくれたんだ・・・。)
彼女は・・・夢の中で言っていた通り・・・ここには見当たらない。
どこ・・・何処に行っちゃったの?
大きな木の下って、言っていたわね・・・
そんな場所って・・・?
『 もしかして、電話をくれたのは あなたですか? 』
『 電話? あ、はい。 私です。 』
『 そう、事前に教えてくれてありがとう。 でも、
救急車を使ってもよかったのに。 』
『 す、すみません。 あの、大丈夫なんでしょうか? 』
『 今は落ち着いているわ。
でも、いくつか検査・・・検査入院も必要になるかもしれないけど・・・
その、吉川さんの症状なんだけど・・・
本人か御家族にしか お伝えできなくて・・・これ以上は ごめんなさい。 』
『 ・・・・・。 』
そうか・・・・・
何かと個人情報とか、規則が厳しいんだなぁ
もう、夜明けだし
御家族も来ることでしょう・・・
私の存在は、少し話をややこしくする。
もう、必要ないんだなぁ。
わたしは結局、何にもできなかった上に
その役割を・・・関係を終えようとしている。
わたしは、少し考えあえぐように 無言になったが、
私を見つめる巴菜さんの目に悟り・・・
わたしは吉川さんに別れの挨拶を始めた。
『 吉川さん・・・。 本当にありがとうございました。
あの・・・私たちは大丈夫です。
まだ、いろいろなことがあるかもしれないけど・・・
頑張っていきますので、どうか安心して休んでくださいね。 』
『 また、会える日を楽しみにしてるでのぉ 』
『 私もです。 また一緒に歌いましょ。 』
『 マイク、もう一本買っとかんとなぁ 』
『 ははは・・・。 』
『 娘さんにも がんばれっ言いとってな。 』
『 はい。 伝えておきます。 』
『 さぁ、行きましょ 』
巴菜さんに促され、処置室を後にする。
最後は目を見れなかった。
じわじわと感謝の念が襲ってきて
目頭が熱くなる。
『 私たちも、もう行くわ。 』
病院を出た巴菜さんの声に、我慢していた涙が零れる。
『 や~~ねぇ~~。 泣かないでよ。 』
『 な、泣いてないわよ。 』
『 まぁ、そういうことにしておいてあげる。 』
『 ・・・・・あ、あの・・・。 』
私が何か感謝の言葉を考えていたところを、
巴菜さんが手を差しのべてきた。
『 いろいろと、ありがとね。 』
『 こ、こちらこそ・・・ありがとう。 』
巴菜さんはそれには答えず、爺やさんが立つ車の助手席部に向かう。
爺やさんは私に軽く一礼し、
近づく彼女に 車のドアを開け、
巴菜さんがゆっくりと乗り込む。
『 おにぎり、ありがと。 』
『 ・・・ぃ、いいえ・・・。 』
『 楽しかったわ 』
『 私もです。 』
『 あ、そうそう・・・。 わたしの御店の名前は よろずや さわん よ!
憶えておいて!! 』
『 ・・・・さわん。 』
そう言い、
巴菜さんは自身の左腕を私に伸ばし 愛らしい笑顔を向けた。
彼女は差し出した手をバイバイに変え、
私に子供のように いつまでも手を振り続けた。
私も、それに応えるように思いっきり手を振り続け
そして
爺やさんの車は ゆっくりと朝靄と共に消えていった。
~つづく~




