スペック
言い知れぬ何かに、私の身体が乗っ取られようとしている。
私という感覚が次第に無くなっていく。
これは・・・かなり、ヤバイ・・・・。
しかも、そんな考えも徐々に薄れていく。
まるで、寝入り前の感覚のように、少し気持ちがいい・・・・。
そんな、心地良さにウトウトとし始めたところ
『 眠っては、ダメよ。 』
と、すごく優しい声が届いた。
『 あなたは、何でもいいから どんなことでも揺るがないこと
記憶でもいいわ。 何か決して揺るがないことを考えていて。 』
『 う、ぅん。 』
私は、薄れゆく感覚の中、なんとか返事だけをした。
なにか、揺るがないモノ。
なんだろう。
わからない。 思いつかない。
いや・・・。
幼き私の姿が見える。
揺るがないモノ・・・自分自身の存在?
それを認めるという、考え方?
まさか、ね・・・・。
『 それで、いいわ。
昔の自分を含めての自分自身。 それが、あなたの一番大切なモノね。 』
『 そうかなぁ。 』
『 そんな弱音を吐いても、真っ先に思いつくということは
それがあなたの存在証明。 幼きあなたは、あなたを映す鏡。 』
『 あの・・・、なんだか見透かされている感じなんですけど・・・ 』
『 あなたが来たときから、す・べ・て 御見通しよ。 』
『 ・・・はぁ・・・。 』
( なんだか、本当に感覚が・・・・、目を開けていられない・・・・。)
『 愚かなモノよ。 相手が悪かったわね。 あなたには餞別の言葉も無いわ。 』
トントン。
『 ふぇ!? 』
私は肩を叩かれて、授業中に居眠りをした生徒のように
椅子からビクッと飛び起きる。
私の目の前には、とても穏やかな顔をした巴菜さんと爺やさんの顔がある。
先ほどの、ヤバそうな あの雰囲気は何処へ行ったの?
あの、声だけの少年は?
なんか、私に憑りつこうとしていたみたいだったけど・・・
どうなったの!?
『 もう、終わったわ。 』
『 えっ!? 』
『 さぁ、爺や。 トモダチに お酒の準備をして。 』
『 かしこまりました。 』
『 あ、あの・・・、これは・・? 』
『 もう、心配御無用。 万事OKよ。 』
『 あの、なんか・・・私、あの少年に憑りつかれそうな気がしたんですけど。 』
『 ふふふ。 少年なんかいないわ。 』
『 あの、何処へ? あなたが御祓いしたの? 』
『 御祓いねぇ・・・。 まぁ、そんな感じよ。 』
『 なんか、はぐらかされている気が・・・ 』
私が訝しがっていると、
爺やさんが 御盆に 御酒一式を持って、私の前に並べていく。
『 お待たせしました。 』
『 あ、ありがとう。 』
『 さ、飲もう。 ね? 』
『 あの、私から一言、御心配の無いように御説明させてください。 』
『 爺や! 』
『 あの、お願いします。 』
『 御客様は、御自身の記憶通り・・・
少年の声を出すとても邪悪なモノに憑りつかれそうになりました。 』
『 ひぃっ!! 』
『 でも、御安心ください。 御嬢様が全てクリアにしました。 』
『 クリア? 』
『 もう、邪悪なモノの存在自体、この世にもあの世にもありません。 』
『 ふぇ? どういう意味? 』
『 すべてが分解され空気になったのです。 』
『 ぶっ!! あ、すみません。 』
( 何その、荒唐無稽な説明・・・ )
『 いえ、その反応は一般的な反応です。 』
『 ごめんなさい。 でも、あまりにも・・・そんな・・・ 』
『 私って、スゴイのよ。 』
少し お道化ながら巴菜さんが口を挟む。
『 ほ、本当なの・・・? それって、もう・・・神の領域? 』
『 若い餓鬼にチートなんて言われて、さ。 腹も立つけど・・・
スペックが最初っから違うんだっていうの。 』
『 スペック? 』
『 ・・・あなたさ、もし宇宙人がいたとして・・・
その宇宙人の世界にも幽霊や物の怪がいるとか、普通考えないでしょ? 』
『 ええ・・・。( 何の話? ) 』
『 つまり、そういうこと・・・。 最初っから、違うの。 』
『 なんだか・・・よく理解できないけど・・・それにしても、
なにか その一瞬だった気が・・・します。
あんまり怖い目に合っていないというか・・・ 』
『 そりゃそうよ。 ワタシが本気を出したら、3秒と掛からないわ。
チンタラ、バトるなんて時間の無駄。
観客がいないんだから、マンガみたいなプロレスバトルなんか無いよ。 』
『 そういうものなの? 』
『 魔女だって箒に乗るのは1秒。 1秒で目的地よ。 そういうものだよ。 』
私はあまりにも凄いモノを見せられたのか?
実感の無い感覚を、出された日本酒の酔いに任せ
とても気持ちの良いモノとして自分に納得させ、
調子に乗って 一曲歌わせてもらった。
巴菜さんと爺やさんは、手を叩いて
喜んでくれたけど・・・
今思うと・・・・ほんと、は、恥ずかしい・・・・。
~つづく~




